子どもを持つ・持たないの先へ。卵子提供から考える人生観と生まれた命への想い

子どもを持つ・持たないの先へ。卵子提供から考える人生観と生まれた命への想い
私を生きる、ワタシの選択vol.16
子どもを持つ・持たないの先へ。卵子提供から考える人生観と生まれた命への想い
LEARN 2026.07.27
結婚や妊娠、家庭とひと口に言っても、その在り方は人それぞれ。“普通”とされる選択“じゃない方”がしっくりくる人だってたくさんいる。そして、そのどれもが正解であり、自分らしい生き方。カップル間でのコミュニケーションや心理学を学んでいる、工藤まおりさんが、そんなあらゆる価値観や選択を掬い上げ、言葉として綴ります。今回は、ayaさんにインタビュー。

子どもは欲しくない」そう話す夫との結婚を選んだayaさん。

その後、29歳の時に知人をきっかけに知ったアメリカの卵子提供プログラムCofertility」に参加。採卵した卵子の半分を子どもを望む家族へ提供、残り半分を自身の将来のために凍結保存した。やがて提供した卵子からは、新たな命も誕生する。

子どもを持つか、持たないか。人生の選択は、決して2択だけではない。

「未来の自分にも選択肢を残しておきたかった」と語るayaさんに、卵子提供を決めた背景や、子ども・家族・人生への考え方について聞いた。

Profile
Ayaさん
Ayaさん

10歳でアメリカへ渡り、母親の再婚を機に永住権を取得。23歳で日本人向け英会話・家庭教師サービスの会社を立ち上げる。その後、大学で発酵や生物学に触れたことをきっかけに発酵食品づくりに興味を持ち、2023年に納豆屋を開業。29歳の時に、27歳年上のアメリカ人男性と結婚。同年「Cofertility」に参加し、アメリカの卵子提供プログラムを受ける。

自分の可能性を大切にしてくれた夫と結婚

── 29歳の時に卵子提供プログラムに参加したということですが、パートナーさんとの子どもを持つという選択肢はゼロだったのでしょうか。

「私が29歳、夫が55歳の時に結婚したのですが、夫は『もう3人子どもがいるから、これ以上は欲しくない』と言っていたんです。

実は結婚前は、それが原因で別れたこともあります。当時の私は、自分が子どもが欲しいかは分からないけれど、自分が子どもを持つ選択肢も残しておきたかったんです」

Ayaさんの夫の、真ん中の子と一番下の子との写真。

──そんな「子どもを持つ・持たない」という考え方の違いがありながらも、彼と結婚されたんですね。

「夫と別れていた期間に、逆に『絶対に子どもが欲しい』という男性とも付き合ってみたんです。でも、その人と過ごす中で、それも違うと感じました。

子どもは女性の体の中で育ちますし、社会的にも子育てを担うのは女性であることが多い。それなのに、“子どもを持つ・持たない”という人生の選択を相手に決められることに疑問を感じました。その人とのやりとりの中で、私は「夫が子どもを欲しくないと言っていること」が嫌だったわけではなくて、自分の人生の選択肢を相手に決められることが嫌だったんだなって気がついたんです。

夫との関係を戻した時に、『例えば、同性カップルや子どもを望む人たちに卵子提供をして、その子育てに何らかの形で関わるという選択肢もあるよね』など、色んな可能性を話し合うことができて。この人と結婚すれば、色々な人生の選択肢を一緒に考えられるかもしれない。それで自分が子どもが欲しいって思った時に、その可能性を潰されるわけじゃないことに気がつきました

ポルトガル旅行に行った時の写真。

──お二人で結婚に向けて話し合う中で、卵子提供という選択肢も自然と出ていたんですか。

「そうですね。アメリカでは、インターネットで検索すると卵子提供のエージェンシーがたくさん出てきますし、制度も整っています。夫の友人にも、卵子提供プログラムを利用して子どもを育てることを検討している方がいました。その方から教えてもらったのが、私も参加した「Cofertility」というプログラムでした。

採卵した卵子の半分は自分の将来のために凍結保存し、残りの半分を子どもを望むカップルへ提供する仕組みになっています。ウェブサイトを見てみると、マッチングアプリのような感覚で登録できる雰囲気だったので、軽い気持ちで始めました」

──その時点では、「どうしても卵子提供がしたい」という強い意思があったわけではないんですね。

「当時は、自分が子どもを育てたいのか、子どもを産みたいのか、自分の遺伝子を残したいのかどうかも、まだ分からない状態でした。

もともと、私の母はシングルマザーで、子育ての大変さを間近で見て育ったので『絶対に子どもを育てたい』という強い願望はなかったんです。

子育ては幸せなことだというイメージがありますが、細分化すると神経を張り巡らされるタスクも多くあるじゃないですか。私はそういうことが得意じゃないんです。頑張ればできるとは思うんですけど、そんな自分が幸せかを考えると、自信がありません。だから、絶対に子どもが欲しいとは今でも言えない。

一方で、私は健康で、当時は年齢的にも卵子の状態が良いので、使わないのももったいないと思って、もし必要としている人がいたら力になりたいと思いました」

私が行動しなければ、生まれてこない子だったかもしれない

──実際にマッチングしたのは、比較的早かったそうですね。

「登録してから約1か月後にはマッチングしました。その後AMH検査や遺伝子検査など必要な検査を受け、正式に卵子提供をすることが決まったのは、登録から4か月後くらいです」

──生まれる子は遺伝的にはご自身のお子さんでもあります。不安はありませんでしたか。

「もちろん責任は感じました。私が行動しなければ、生まれてこない子です。安心して子どもを託せないような家庭だったりしたら、きっと躊躇していたと思います。

でも、Cofertilityのプログラムでは、卵子提供を受ける側も審査を通過した人だけが参加できる仕組みだったので、その点は安心感がありました。

ありがたいことに、マッチング後には相手のご夫婦から写真付きのお手紙をいただいたんです。とても温かい内容で、「本当に素敵なご夫婦なんだな」と感じました。採卵の3日前には一緒に食事をする機会もあって、帰り際には、そのご夫婦のお子さんが私の手をそっとつないでくれたんです。その姿が本当にかわいらしくて、「この家族のもとに生まれる子なら、きっと幸せに育つだろうな」と自然に思えました。

その後採卵を行い、9個を提供、残り9個を自分のために凍結保存しました。無事に妊娠の報告を受けた時は、本当に嬉しかった」

──いま、ご自身の卵子で誕生したお子さんに対してはどのような感情を持っていますか。

「自分の子どもという感覚ではなくて、親戚の子どもでもない…同じ遺伝子を持つ仲間同志のような存在ですね」

──生まれたお子さんのアイデンティティについては、どのように考えていますか。

「プログラム登録時に、将来匿名にするか実名にするかを選べたのですが、私はどちらでも構わないという選択をしました。というのも、一番大切なのは本人と相手のご家族の希望だと思ったからです。

私は卵子を提供しましたが、その子の人生に積極的に関わりたいという気持ちは、そこまで強くありません。

もちろん、送られてきた写真を見ると可愛いなと思います。実際に、幼い頃の自分によく似ているんですよ。なので、もし会えたら楽しいだろうなとは思います。でも、それを決めるのは私ではなく、ご夫婦と、その子自身が大きくなってからだと思っています」

それでも、小さな可能性だけは残しておく

──ご自身のために凍結保存している卵子については、今どのように考えていますか。

「卵子提供を経験してからは、自分で子どもを産んで育てたいという気持ちは、以前よりもさらに薄くなりました。10年間保存できるので、その間に気持ちが変われば使うかもしれない、というくらいです。でも、恐らく気持ちは変わらない可能性が高そうです」

── 一方で、「絶対に産まない」と決めきれない気持ちもあるんですね。その迷いはどこから来るのでしょうか。

「自分の気持ちが変わった時に怖いんだろうなと思います。

今まで子どもを望んでいなかった人が、40歳くらいになった途端に欲しくなるという話もよく聞きますよね。今はそうならないと思っていますが、10年後の私はまったく違う人間だと思うんです。だからこそ、選択肢は多くあった方がいい

多分皆さん、隣の芝生が青く見えるじゃないですか。子どもがいる人にはその人なりの大変さがありますし、子どもがいない人にも大変さはある。どちらにも良い面と大変な面があって、それは避けられません。私は、今のところ子どもを持たない人生のほうが合っていると感じています。でも、10年後の自分がどう思うかは分からないので小さな可能性だけは残しておこうと思います」

Ayaさんが代表を務める〈Aya’s Culture Kitchen〉では納豆を販売。

──最後に、今後どのような人生を歩んでいきたいと考えていますか。

「今回のインタビューを通して改めて気づいたんですが、私は何かに強くこだわるタイプではないんですよね。

23歳の頃には、アルバイトの気持ちでやっていた家庭教師の仕事が、依頼がどんどん増えて法人化して経営したり。今は納豆づくりをしていますが、それも、お客様が喜んでくださって、自分自身も楽しみながら続けられているからです。無理のない形で続けられるなら、この先も続けたいですし、また別のことに興味を持つ日が来るかもしれません。

人生って、もっと流動的でいいと思うんです。結婚したら子どもを持つ、子どもが生まれたら育児に専念する、仕事は一つに絞る──固定的な考え方をする人も多いと思いますが、人は変わっていきますし、寿命も長くなっています。一つの生き方に縛られる必要はない。その時々で自分に合った選択をしながら、いろいろな可能性を持って生きていけたらいいなと思っています」

text_Maori Kudo

Videos

Pick Up