冷やされ忘れたマヨネーズ#07 こんな日の半額のとんかつ|小原 晩エッセイ
#07 こんな日の半額のとんかつ
親友が結婚した。親友は高校の同級生で、三年間同じクラス、同じ部活に入っていた。入学してすぐ彼女のことを見たときには、あまり良い印象ではなかった。実は、ぶりっ子だと思っていた。なにやら嫌なグループのようなものでも作ったりするタイプなんじゃないかと思っていた。けれど、なんだかんだで同じ部活に入って、ふたりでひと夏すごせば、一緒にいるのがたのしくなってきて、うれしくなってきて、当たり前になった。
一度大きな喧嘩をしたこともある。大きな言い争いがあったわけでなかった。すこしずつふたりがズレていき、おたがいに繊細なところがあるので、そのズレはとてもおおきいものだと判断しあって、これ以上傷つかないために、あるいは、きらいになんてなってしまわないように、すこしずつ、でも確実に離れていったわけだった。
ある日、部活の顧問から呼びだされ、彼女が「部活を辞める」と言っていることを知った。相談してくれないんだ、と思ったら、がーんときた。あのときのわたしに相談などできるわけがないのに。
その日は、家に帰ってから、長風呂したことを覚えている。せめて話をして、それから。せめて話を聞いて、それから。そう繰り返し思ったことも覚えている。
顧問に協力してもらい、わたしと彼女と顧問の三人で話す機会を設けてもらった。久しぶりにわたしの隣に座った彼女は、みるからにぶすくれていた。だけれども仕方がないので、という感じで、彼女は話し出した。なるほど、なるほど、なるほど、わたしが悪い。そう思いながら、でも、などとわたしも話した。それで、彼女は、部活を辞めないことになった。一件落着。したように思ったけれど、顧問だったか、彼女だったか、わたしだったか、その質問をしたのが誰だったのか覚えていないけれど、「今後、ふたりは今までのような仲良しに戻るのか」と聞かれたのだった。まずは彼女が「戻らない」とすぐにこたえた。わたしは、やはりがーんときた。てっきり戻るのかと思っていたのだった。そして、わたしは答えた。「わたしは戻りたい。またあなたといちばん仲良くしたい」彼女は戻らないとはっきり伝えているのに、戻りたいとか言ってくるの、すごくこわかったと思う。
それで、わたしたちはいまも友達でいる。その彼女が結婚した。わたしは婚姻届の証人の欄に名前を書いて、判子を押した。とてもうれしかった。ずっと友達でいてくれてありがとう。心からおめでとう。あなたがしあわせでいてくれることがこんなにもうれしい。駅で手を振り、ひとりになってからイヤホンをさして、木村カエラさんのButterflyを聴いた。二番のはじまり「優しさにあふれた君がとても大好き」のところのすごさ。単純な言葉は簡単じゃない。さまざまな気持ちを一枚のふろしきにつつまんとする覚悟あってこそだからである。
最寄り駅前のスーパーに立ち寄り、半額になっていたお惣菜のとんかつを買い、パックの千切りキャベツを買う。部屋に帰って、電気をつける。とんかつを電子レンジですこし温めてから、フライパンにのせ、火にかける。その間に、さとうのごはんを温めて、お皿に千切りキャベツを盛って、とんかつをうらがえし、温まったさとうのごはんを茶碗にうつす。さくさくを取り戻したとんかつを皿に盛り、台所に置いている椅子に座って食べはじめる。ちゃんとおいしい。いつもよりおいしい。

おばら・ばん 1996年、東京都生まれ。作家。2022年に自費出版でエッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』(のちに商業出版)を刊行。その他の著書に『これが生活なのかしらん』。
HP|https://obaraban.studio.site/
IG|@obrban
X|@obrban
text&photo_Ban Obara illustration_CONVENIENCE YOUNG
















