『理解と納得と同意』|「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第83回

『理解と納得と同意』|「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第83回
『理解と納得と同意』|「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第83回
LEARN 2026.10.01
乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。
photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Akemi Ezashi(mod’s hair)


理解することと、納得することと、同意することは、異なる。ドラマ『Tシャツが乾くまで』を観ていて、改めて考えたことである。

物語では、ある事故をきっかけに、それまで他者に知られていなかった一面が少しずつ明かされ、別々の人が知っていた別々の顔が一人の人物の上に重ねられていった。人は皆、さまざまな顔を持っている。意図して使い分けている人もいるだろうし、場所や相手によって無意識のうちに変わる人もいる。仕事相手に見せる顔、家族に見せる顔、友人に見せる顔。どれが本当で、どれが偽物というわけではなく、すべてが同じ人の中にある。

山崎怜奈



それでも、知らなかった顔を見つけると、私たちは説明を求めたくなってしまう。なぜ言わなかったのか。どちらが本当のあなたなのか。これまで見せていた顔は何だったのか。答えを要求し、自分が知っている人物像と矛盾しないように並べ直したくなる。しかし、知られなかった顔は、存在しなかったことになるのだろうか。親しい人に見せていなかった顔は、それだけで裏切りになるのだろうか。

言わずにいることと、嘘をついていることは、同じではない。言わなかったことのすべてが、他者に知らせるべきだったこととも限らない。夫婦であっても、家族であっても、友人であっても、相手の内側がすべてこちらに開示されるわけではない。より多くの事実を知りたい、相手を理解したいと思いながら、本当は、自分が納得できる整合性の取れた物語を提出してほしいだけなのかもしれない。

近しい間柄の相手に対して、言動の理由を理解したくて説明を求めてしまうことは、私にもある。「どうしてそう思ったの」「何が嫌だったの」と聞くこと自体は、相手を理解しようとする誠実な態度にも見える。だが、相手がうまく言葉にできないときや、言葉にせずに留めておきたいとき、それでも説明を求め続けるのは、分からないままでいる自分の居心地の悪さを解消するためにしかならない。

社会の事象や作品についてであれば、理解できるまで自分で調べて考えを深めればいい。だが、対象が人となると話は別である。「理解したい」という善意が、相手の事情に立ち入り、言葉にさせ、自分が理解できる形に翻訳してもらう要求へと変わることがある。「質問をすれば答えてもらえる」「親しい間柄なら、知らなかったことについて説明を求める権利がある」。そんな前提に立っているとしたら、それは傲慢ではないのか。善意は、相手の境界を越えてよい通行証ではない。

もちろん、一緒に生きたり働いたりするために、説明や話し合いが必要なことはある。ただ、質問することと、答えてもらう権利があることは同じではない。どこまで話すか、何を話さないかは、相手の側にも決める権利がある。そんな当たり前のことを、気を抜くとつい忘れそうになってしまう。

理解するとは、相手が何を考え、どのような背景からそう感じているのか、その輪郭を知ろうとすること。納得するとは、それを自分の価値観や論理の中で腑に落とすこと。同意するとは、その考えや判断を、自分も是とすること。完全な理解も、納得も、同意も、関係を続けるための必須条件ではないのだと思う。

相手の事情を理解しても、同意できないことはある。説明を聞いても、納得できないこともある。それでも、相手がそう感じているという事実まで否定する必要はない。お互いに完全には納得していなくても、一緒に生きたり働いたりするための合意を結ぶことはできるはずだ。

山崎怜奈

そもそも、人間の気持ちに毎回きれいな整合性があるわけではない。大切に思いながら腹が立つこともある。尊敬している相手に、どうしても理解できない部分が見つかることもある。どちらが本当なのか疑って、一方を消す必要はない。「両方ある」でいい。共感と理解もまた、同じではない。もっと言えば、共感できないことと、その存在を認めないことも違う。「私にも分かる」とは思えなくても、「そういう人もいる」と受け止めることはできるはずなのだ。

自分が知っている範囲を世の中の全部だと思った瞬間、知らないものは間違いに見える。見たことのない人には「そんな人はいない」と言いたくなり、理解できない行動には「普通はそんなことをしない」と言いたくなる。しかも自分では正しい側に立っているつもりなので、声まで大きくなる。自分が理解できないものを「理解できなくても嫌悪しない」のは、とても難しいことなのかもしれない。

自分と他者は、全く違う生き物である。親しくなるとは、その境界がなくなることではない。相手について知らないことが残り続けると知りながら、それでも緩く繋がり続けていくことなのだと思う。


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