言いたいコト、書きたいコトバ…混じり気ナシ! 弘中綾香の「純度100%」~第55回~ LEARN 2021.07.23

ひろなかあやか…勤務地、六本木。職業、アナウンサー。テレビという華やかな世界に身を置き、日々働きながら感じる喜怒哀楽の数々を、自分自身の言葉で書き綴る本連載。「先輩と後輩」、第2篇です。

(photo : Yasutomo Sampei styling : Yui Funato hair&make : Akemi Kibe [PEACE MONKEY])

「怒る方がもっと大変だ」

入社9年目、30歳。仕事にも慣れて、一通りのことは任されるようになり、仕事もより面白くなってきた。けれども立場としては上と下に挟まれて、今まで経験してこなかった悩みに直面するような時期である。私もその一人。特に後輩に対しての指導やコミュニケーションの仕方について正解が分からないと、同年代の友達と侃々諤々(かんかんがくがく)意見を交わすことが多い。曲がりなりにも『後輩』を通ってきたから、身をもって分かっていることは沢山あるのだ。「私の若い時は」という言葉を使うと煙たがられること。自分だってそうだった。「今とは時代が違います」と喉まで出かかったこともある。けれども立場が逆転して、不意に使ってしまうことがある。それしか記憶の中にないから、実体験として伝えられないから、つい昔話をしてしまうのだ。ふと口から出てしまい、慌てて訂正することがある。一対一のコミュニケーションでは使わないようにしているが、この連載の場で使うのは許していただきたい。

新人だった頃、先輩たちのことが怖かった。研修中はもちろんだが、普段の話し方からメールの書き方、電話の取次ぎ方など細かなところまで指導してもらっていたから、存在を確認しただけで背筋が勝手に伸びてしまった。先輩が電話を取る前のワンコールで受話器を取って応対しなくてはいけなかったし、電話を取ったら取ったで用件をコンパクトに分かりやすく大きな声で、取次ぎ先の先輩へ伝えなくてはいけなかった(正確に言うと、そんな決まりも、しなくてはいけないというような教えもなかったのだけれど、未熟な自分たちが出来ることといえば電話の取次ぎとか雑用くらいだったから、そこに全力を注いでいたのだ)。色々と気をつけることがありすぎて、アナウンス部にいる時間はミスをしてはいけないというプレッシャーと緊張で落ち着かなかった。実際の業務にあたるようになってからも、声が小さい、滑舌が悪い、伝わらない話し方だと、技術面で指摘されたことを書き出したらキリがない。何度やっても進歩が見られず、「やる気がないなら、その椅子を譲りなさい」と言われた時の会議室の張り詰めた空気、口の中がカラカラに乾いていく嫌な感じは今でも覚えている。令和のこの世の中ではもう死語だが、私が新人の頃は『怒られるのが仕事』だった。

今になって、やっと気づく。怒られるのはもの凄く大変だったけれど、怒る方がもっと大変だと。どれだけ余分なエネルギーを使うのかと。自分の仕事の最中に新人たちの電話の取次ぎに聞き耳を立て、気づいたことを注意する、こんな面倒なことはない。気づかなかったことにしてスルーするか、はなから聞かない方が、よっぽど楽。後輩のオンエアを見て、アドバイスをする。その時間は、自分のするべきことを犠牲にして捻出した時間だ。「後輩? 教育? 知りません。私は私の仕事ちゃんとやっているんで」というスタンスの方がどれほど簡単か。誰に頼まれているわけでもなく、細かく指摘し続けてくれた先輩たち。当時は怖くて仕方なかったけれど、先輩たちに厳しく言われたことで「このままじゃいけないんだ。プロってこういうことなんだ」と気づいて腹を決めたところもあるし、「負けてたまるか!」と思ったことも一度や二度じゃない。私という人間に限って言うと、あの教育法は今になって生きている、と。

ただ、二つ気に留めなくてはいけないポイントがある。一つ目は個人差があるということ。私に合ったものであっても、ほかの人も合うとは限らないということ。二つ目は時代の流れだ。
(続く)

【弘中のひとりごと】
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