言いたいコト、書きたいコトバ…混じり気ナシ! 弘中綾香の「純度100%」~第56回~ LEARN 2021.08.13

ひろなかあやか…勤務地、六本木。職業、アナウンサー。テレビという華やかな世界に身を置き、日々働きながら感じる喜怒哀楽の数々を、自分自身の言葉で書き綴る本連載。前回、前々回と続いた「先輩と後輩」、完結編です。

(photo : Yasutomo Sampei styling : Yui Funato hair&make : Akemi Kibe [PEACE MONKEY])

「背中で見せるという方法もあるんだ」

どこの業界でもきっと似たような流れを受けているとは思うけど、テレビの世界も昨今の時勢を鑑みて、上下間のコミュニケーションのとり方にかなり気を遣うようになった。それこそ私のちょっと上の世代では、まだ怒号や罵倒がそこら中で聞かれたなんていう話も残っていたりするのだけれど、「頭ごなしに否定しない」「まずちゃんと相手の話を聞く」「個人の人格を否定するようなことは言わない」などなど現場に根差した指導の仕方が様々書かれたハンドブックをもらったり、必修のコンプライアンス講習を受けて、価値観のアップデートを図っている。その中には、たかだか30そこらの私でさえ、「この発言がこんな風に捉えられてしまう時代なのか」と驚くこともあった。自分の受けてきた教育と、今の時代に許容される教育のギャップを感じているのは私だけではないはず。

私はまだ管理職でもないし、たかだか9年のキャリアで偉そうに指導をしたりするような身分ではないのだけれど、でもたまに新人たちの研修や、私よりまだ経験が浅い後輩たちの指導を頼まれることがある。その時には自分の経験の中から言えることや、自分だったらこうするというようなアドバイスをして真剣に向き合ってはいるのだが、なんとなく消化不良で終わることが多い。この言い方はダメ? これは? と、なんとなく口ごもっている自分がいるから。彼ら彼女たちのために、本当はもっと強く言いたい。でも、それって…。ぐるぐると頭の中で、言いたいこととハンドブックが回り出す。

こういった自分の逡巡のせいで、せっかくの機会があってもあまり踏み込んだアドバイスが出来ず、かといって自分から後輩に「ココはこうだよ」と教えるような積極性も持てなかった。そんなこともあって、自分が先輩たちに教えてもらってきたことの半分も伝えることが出来ていないんじゃないか、差し当たりの表面上は良くても後々困るのはあの子たちじゃないか、と最近思いあぐねていたのである。加えてコロナが収まらないこの状況で、同じ部でも、顔と顔を合わせてコミュニケーションをとることが少なくなっている。フィードバックがなくて大丈夫なのかな…? 気になってはいた。

とはいえ、日々の仕事に追われる中でちゃんとした答えが出ることもなく、カレンダーは早くも7月へと変わっていた。テレビ朝日では毎年7月に人事異動があり、なんとなく節目といった雰囲気が会社に流れる。今年アナウンス部にも異動をする方がいたので、久しぶりに部会兼送別会が開かれた。送別会といってもこのコロナ禍においては簡略化し、出勤していて部に集まれる人だけ集まり、代表して一人がこれまでの感謝を伝えるというものだった。いわゆるスピーチである。部員の前で話すなんてプレッシャーで震えるほどの大役だが、その役を任せられたある先輩の送る言葉が本当に素晴らしかった。その先輩が、異動する方のキャッチコピーを作り、その言葉を使った理由と付随するエピソードを時折ユーモアを交えながら話す。そのキャッチコピーはとてもキャッチーな言葉で、初めは「どういうことなんだろう? なんでだろう?」と思いながら、エピソードを聞くと「なるほど」と納得出来るし、分かりやすく、そしてより深く、その方の人となりを知ることが出来た。このスピーチで初めて知ったこともとても多かった。送る言葉として、とにかく素晴らしかった。

この先輩の姿を見て、胸の中にスン、と「ああ。こうやって背中で見せるという方法もあるんだ」という思いが落ちてきた。直接あーだこーだ言わなくとも、自分の仕事ぶりや行動で「こんな風になりたい」って思わせることも出来るんだ、と。もしかしたら一連のモヤモヤからの逃げかもしれない。でも、なんか腑に落ちたのだ。

【弘中のひとりごと】
麦わら帽子を実生活でかぶる勇気はない私…。持ってるんですけどね!

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