【銀座】洗練された空間で過ごす。リニューアル、ニューオープンのカフェ3選

【銀座】洗練された空間で過ごす。リニューアル、ニューオープンのカフェ3選
【銀座】洗練された空間で過ごす。リニューアル、ニューオープンのカフェ3選
FOOD 2026.05.21
明治期、日本で喫茶文化が花開いたのもここ銀座。今、新たにスタートを切ったカフェたちは歴史あるこの場所で、どんな新しい物語を描くのでしょうか。映画監督の荻上直子さんの書き下ろしエッセイとともに紹介します。
photo_Mado Uemura text & edit_Kana Umehara

1. 〈明治安田CAFE 丸の内〉

〈明治安田CAFE 丸の内〉

1934(昭和9)年、竣工。昭和の建造物初の重要文化財である明治生命館。古典主義様式の傑作として評される一方、今も現役のオフィスビルとして活用され、2025年の1・2階のリニューアルでカフェを新設。この地の歴史を物語る場所として注目を集めている。

information
明治安田CAFE 丸の内

住所:東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1F
TEL:なし
営業時間:10:30~18:30(18:00LO) 
定休日:月火休
席数:60席

かつての役員食堂に残る葡萄(ぶどう)のレリーフを踏襲し、カフェの絨毯にも葡萄が。食器も有田焼〈香蘭社〉の葡萄とツタの柄を採用。ケーキ1,700円、ブレンドコーヒー1,300円。

2. 〈Bacha Coffee銀座〉

〈Bacha Coffee銀座〉

モロッコ・マラケシュで文化人らの社交場として発展したコーヒーハウスが日本初進出。異国情緒ある空間に200種以上のアラビカ・スペシャルティコーヒーが揃う。コーヒーマスターが優雅な金色のコーヒーポットから一杯を注ぐ姿は、銀座の新しい名物となった。

〈Bacha Coffee銀座〉
information
Bacha Coffee銀座

住所:東京都中央区銀座5-6-6
TEL:03-6263-9720
営業時間:11:00~21:00
定休日:無休
席数:40席

1階はテイクアウトできるブティック、2・3階にコーヒールームが。「ピスタチオ、ラズベリーチーズケーキ」(1,700円)など自家製ペストリーやモロッコの「ケフタ」などフードメニューも人気。

3. 〈西原珈琲店 日本橋浜町〉

〈西原珈琲店 日本橋浜町〉

創業39年、名古屋の老舗喫茶が東京初進出。国産カラマツの無垢板を使った黒塗りの板壁でしつらえられた店内は大人のムード。炭火焙煎の豆をハンドドリップで落としたコーヒーと看板メニュー「西原プリン」を。懐かしい香りと味は心を癒すひとときを約束してくれる。

information
西原珈琲店 日本橋浜町

住所:東京都中央区日本橋浜町2-51-1
TEL:なし
営業時間:10:00~22:00
定休日:無休
席数:38席

卵、牛乳、生クリームのシンプルな素材で作る硬めのプリンはスクエア型なのが特徴的。プリンの上にはバニラアイスとキャラメルソースが(800円)。ブレンドコーヒーを合わせるのがおすすめ。

映画監督・荻上直子さん書き下ろし「ある喫茶店から生まれたストーリー。」

妻と喧嘩した。オレの下着と靴下をトイレマットと一緒に洗濯していた。文句を言ったら、あんたの靴下はトイレマット以下、洗ってやってるだけありがたいと思え、と言われ、腹が立った。言い返すと五百倍になって返ってくるので、黙ってそのまま家を出た。ちなみに、洗濯するのは妻だが、たたむのはオレだ。

引っ越してきて初めての日曜日。荷を解いた段ボール箱をまとめるビニール紐がなかったことに気付き、買い物ついでに珈琲でも飲んで、妻への仕返しを考えるとしよう。

このあたりは、大きな道から外れて横道に入ると途端に静かになり、小さな神社や昔ながらの蕎麦屋があったり、新しいパン屋があったりと、昔と今が混在する。少し歩くと道の角に、最近オープンしたばかりと思われる喫茶店を見つけた。いかにも美味しい珈琲をだしてくれそうな外観だ。

中に入ると、黒を基調にしたレトロモダンで落ち着いた雰囲気。珈琲を待つ間、さっそく妻への仕返しを考える。オレの靴下と一緒に妻のお気に入りのブラウスを洗ってやろうか、それより妻の歯ブラシで歯磨きしてやろうか。もう最高に嫌がるやつにしてやろう、とほくそ笑み、ふとテーブルの上のメニューを手に取り、固まった。プリンの写真が目に飛び込んできたのだ。しかもアイスがのっている。プリン、食べたい。無性にプリンが食べたい。プリンが食べたくて仕方がない。伸びきった髪に無精髭、そんな極めてむさくるしいおっさんのオレだが、プリンが食べたい。おっさんがプリンを注文したら恥ずかしいか。いや恥ずかしいなんてことあるものか。オレは、勇気を出して珈琲を運んでくれた店員さんに告げた。「プリンください」。もちろん、うつむいたままである。

しばらくして運ばれてきたプリンをひとくちスプーンで掬(すく)い、口に入れる。目を閉じ、プリンを味わいながらオレは、遠い昔、母が作ってくれたプリンを思い出していた。

母は、卵が余ると、たまにプリンを作ってくれた。大きなステンレスのボウルで作る大きなプリン。学校から帰ると、ランドセルを背負ったまますぐさま冷蔵庫を開けるのが、その頃の習慣だった。冷蔵庫の中に銀のボウルを発見すると、オレはいつもガッツポーズをかますのだった。しかし、すぐには食べられない。姉の帰りを待たないと殺される。

首を長くして姉を待つ。部活を終えてやっと帰宅した姉もまた、鞄を持ったまま冷蔵庫に直行。そしてやはりガッツポーズ。変なところが似てしまった。

食卓に姉と並んで座ると、母はオレたちの目の前でプリンのボウルの上に大きな皿を乗せ、はっ!と掛け声を発しながら一気にひっくり返す。そっとボウルを取り外すと、皿の上に大きなプリンがプリンと揺れるのだった。次の瞬間、プリンの頭からあの焦げ茶色のカラメルが滴れる。母はプリンをナイフで均等に4つに割る。その間、オレは銀のボウルにこびり付いたプリンとカラメルの片鱗を丁寧にスプーンで掬い取って舐めるのだった。ボウルを綺麗にした後は、いよいよ皿に盛られた4分の1のプリンにスプーンを投入する。気泡が混じる断面に、カラメルが絡みつく。口に入れた瞬間、ほんのり焦げたアイツと薄い黄色のアイツが融合し、舌の上で溶けていく。オレは目を閉じ、この上なく幸せを感じたのだった。

目を開け、現実に戻る。このプリンで、過去に飛んでしまったオレ。まるでひとときのタイムマシン。オレは、プリンと珈琲のハーモニーを味わえる大人になっている。

喫茶店を出た。晴れた午後。もう少し歩くか。足をのばせばすぐ銀座。そうだ、妻にお土産を買って帰ろう。

profile
荻上直子
映画監督

おぎがみ・なおこ/『バーバー吉野』(2003年)で長編デビュー。フィンランド・ヘルシンキを舞台にした『かもめ食堂』は2026年公開20周年を迎え、全国でリバイバル上映も行われた。近作に『波紋』『まる』などがある。

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