散歩にうってつけの谷根千エリアへ。日暮里〈Think〉&〈根津のパン〉/池田浩明のまだ見ぬパン屋さんへ。 FOOD 2023.07.28

古い街並みが残り、散歩にうってつけの谷根千。街の雰囲気を大切にしながらも高い技術を誇るパン屋さんが多いのもこのエリアの特徴だ。ぶらり歩きするときはこの2軒を目的地に。パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まだ見ぬパン屋さんへ。」からお届け。

〈Think〉パンとお菓子、どちらも主役に。

右・クロックムッシュ480円、左・マドレーヌ(レモングレーズとショコララズベリー)各230円。
右・クロックムッシュ480円、左・マドレーヌ(レモングレーズとショコララズベリー)各230円。

かつてパティスリーの厨房で出会った盟友が手を組んだ。菓子作りの研鑽を重ね、〈ハイアットリージェンシー東京〉で最年少でシェフを務めた仲村和浩さん。パティシエからパンに転向、サワードゥムーブメントの先頭を切る〈ガーデンハウスクラフツ〉でシェフだった鈴木嵩志さん。舞台に選んだのは、谷根千にある趣深い古民家。そこでフランスの伝統的な業態「ブーランジェリーバティスリー」を再構築する。コンセプトは、「Back to New basic」。

「伝統的なものに現代的な要素を入れると、こんなにもおいしくなるってことを示したい」(仲村シェフ)
パティシエの面目躍如か?鈴木さんの焼くバゲットの皮を噛んで思った。これはカステラか?そう思わせるほど、お菓子のように甘い。
秘密兵器は「水種」。小麦粉と水を合わせて熟成を待つオートリーズという手法に、麴まで加える。この微生物の並外れた分解能力が、小麦のデンプンを糖に変える。伝統的なバンを、現代的な技術でおいしくする一例だ。
崩れ落ちる快楽的なクロワッサン。フランス産バター「コールマン」を使用。さらに、一部を焦がしバターにして入れる。せせらぎのようにバターの液体が舌にこぼれる。

築80年以上の古民家を改装。栃木県の芦野石を使った陳列棚や、京都の職人に特注したふすまなど、細部にこだわった和の空間。
築80年以上の古民家を改装。栃木県の芦野石を使った陳列棚や、京都の職人に特注したふすまなど、細部にこだわった和の空間。

店に足を踏み入れた瞬間、芦野石でできた陳列棚に並んだパンのうつくしさは、さすが菓子職人らしい仕事ぶり。
「パンらしく崩して焼いたら?と仲村に言われるんですが、逆にむずかしくて(笑)」
和の空間に最先端のパンやお菓子が並ぶギャップ、最高にエモい。

〈根津のパン〉もっちりとした食べごたえで、行列が絶えないパン屋。

谷根千らしい路地裏の和風建築に行列ができている。カウンターの上にはかわいい丸いパンやミニ食パン。棚には、高いところまでずらりと食パンが並んだ地元密着の店。
ハード系のパンももっちりやさしいやわらかさ。噛み締めればわかる。訪れる、小麦の甘さ、穀物のような香りが波のように。
野口将義シェフが操る製法は長時間発酵。17〜18℃という比較的高めの温度で、酵素が小麦を分解する力を引き出す。だから、小麦由来の糖分やアミノ酸が豊富で、味わい深い。自家培養の発酵種を複数使用して味に奥行きを持たせるのも特徴。

元豆腐屋だった建物をそのまま活かす。格子窓や石畳、天井の梁など細部まで粋な仕事が潜む。
元豆腐屋だった建物をそのまま活かす。格子窓や石畳、天井の梁など細部まで粋な仕事が潜む。

売り場の床は石畳。格式を感じる板壁や格子窓。宮大工も経験した棟梁の手によるものだ。
元は豆腐屋。カウンター以外ほとんどそのまま、雰囲気を残している。物件との出会いに背中を押されるように、野口さんはお店のコンセプトを決めた。国産小麦だけを使用。ベーコンエピに大葉を合わせたり、チーズパンに七味をふったり。店にも街並みにも似合うほんのり和を感じさせるパンを揃える。
建物の古さゆえの苦労もしばしば。でもいまや、根津になくてはならない人気のパン屋になった。

photo:Kenya Abe text:Hiroaki Ikeda

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