新旧入り交じる元気な町、品川へ。五反田〈SAISON bakery&coffee〉&新馬場〈bob bagel〉/池田浩明のまだ見ぬパン屋さんへ。 FOOD 2023.08.13

タワマンが立つアッパーな町も、東海道沿いの情緒ある下町も。新しいものと古いものが入り交じって元気な町、品川。トレンドをとらえた新店が登場し、おもしろくなっています!パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まだ見ぬパン屋さんへ。」からお届け。

〈SAISON bakery&coffee〉西海岸の活気をパンと料理で味わう。

おもしろい組み合わせのマフィン。オーバーヴューコーヒー各450円、マンチェゴチーズ各480円、ラム酒バナナ各380円など。
おもしろい組み合わせのマフィン。オーバーヴューコーヒー各450円、マンチェゴチーズ各480円、ラム酒バナナ各380円など。

五反田に新たなベーカリーカフェが登場した。活気にあふれている。オープンキッチンから次々焼き上がり、陳列棚からハミ出しそうなほどパンが並ぶ。サワードーに色とりどりの具材をのせたタルティーン。マフィンにはいろんなフルーツや、中には「とうもろこし&桜海老」なんていう意表を突いた惣菜系など。そのどれもが、店名通りに季節感でいっぱい、他店で出会えないおもしろい組み合わせだ。

U字形のカウンターの中には料理人がいて、とろとろのオムレツや、シェーブル(ヤギのチーズ)にはちみつをかけたタルティーンなどを目の前で作ってくれるからめちゃくちゃテンションが上がる。サワードームーブメントに沸くアメリカ西海岸で見た現地のベーカリーのおもしろさ、ライブ感覚を日本に持ち込んだ。サワードーやマフィンはアメリカ流だが、シンプルなパンだけでなく、惣菜パンや菓子パンをいろいろ揃えるのは日本流といういいとこ取り。さらに、コーヒーカウンターも設置し、スペシャルティコーヒーもパンといっしょに楽しめる。

下・自慢のサワードーにのせたトマトタルティーン650円、上・マンゴー&ミント480円、右・色鮮やかなデニッシュKIWI350円。オープンエアのイートイン席で。
下・自慢のサワードーにのせたトマトタルティーン650円、上・マンゴー&ミント480円、右・色鮮やかなデニッシュKIWI350円。オープンエアのイートイン席で。

近年、ブームに沸くパンの世界は、他業種からの参入が相次ぎますますおもしろくなっているが、この店も然り。母体となっているのは新感覚のバルや居酒屋を展開する〈プロダクトオブタイム〉。パン職人だけでなく、さまざまな料理人が知恵を絞るからおもしろいパンができあがってくる。パンと料理がクロスオーバーしてわくわくするような空間を作り上げた、今の東京を象徴するような一軒だろう。

〈bob bagel〉パンの世界を席巻するベーグルが味わえる。

いまパンの世界で流行っている二大勢力、サワードーとベーグルが合体したサワードーベーグル。混じり合いそうで合わない二つの流れを併せ持つパンがある貴重な店。
アパレルの仕事をしていた20代の頃、ロサンゼルスのモーテルで食べた〈コストコ〉の袋入りベーグルからにわかにベーグルに目覚めた目黒裕規(ひろき)さん。ベーグル修業は、おしゃれな食材の合わせ方を会得するべく、あえてベーグルを売っていない〈DEAN&DELUCA〉で。さらには沖縄に渡って、発酵の濃厚な風味の秘密をつかもうと、ベーグルがメインでない〈宗像堂〉でパン全般を学ぶ。

おかげで、唯一無二のベーグルが誕生。むぎゅむぎゅぐにぐにとして容易には噛み切れない、歯と小麦の格闘技だ。木質的な小麦の香り、ひりひりと脈打つ酸味があふれだす。
秘密は、〈宗像堂〉譲りの発酵種にある。にんじんとりんごと長芋と炊いたご飯で種を継ぎ、その中に含まれる酵母や乳酸菌を栄養とする独創的なもの(通常は小麦で継ぐ)。微生物たちの元気の源だ。
場所は下町、旧東海道筋の新馬場。グリーンの外観のおしゃれさと、江戸情緒がかすかに残る商店街とのギャップもおもしろい。

photo:Kenya Abe text:Hiroaki Ikeda

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