6年ぶりの大規模個展開催中。写真家・川内倫子インタビュー。 LEARN 2022.12.10

〈東京オペラシティ アートギャラリー〉で個展『M/E 球体の上 無限の連なり』を開催中の川内倫子さん。国内外で今、最も注目される写真家の一人だ。国内では6年ぶりとなる今回の大規模個展の作品制作や会場編集について川内さんに話を伺った。

「 見ていたはずのものから、見つめ返される体験を共有したい 」

総作品数は、180点以上。20 19年以降に撮影した新作「M/E」をはじめ、この10年間の作品を中心に、未発表作も数多く含まれている。木村伊兵衛写真賞の受賞から20年、第一線を走り続け、時代ごとの代表作があるが「回顧展ではなく、写真を通じ現在の自分を見せることで、同時代に生きる人々と何かを共有できたら」と、新作を中心に据えた理由を語った。

東京での大規模な個展としても、2012年〈東京都写真美術館〉で開催された『照度 あめつち 影を見る』以来、ちょうど10年ぶり。その10年を「日本を、社会を、自身を大きく変えた時間」と、振り返る。 「日本人にとっては東北の“震災後”の時代の始まりで、世界的なパンデミックもあった。個人的には結婚、出産という経験をした」

タイトルの「M/E」は、「母(Mother)」と「地球(Earth)」の頭文字で、続ければ「母なる大地(Mother Earth)」に。さらに「私(M E)」にもなる。川内さんが話す“この10年”と、ぴたり、重なる。

圧巻の作品量のみならず、新しい試み、表現も盛り込まれている。〈東京オペラシティ アートギャラリー〉の天井高を生かした、布を使ったモノクロ作品の展示や、大画面に映し出される映像とサウンドのインスタレーションは、見る側にとっても新鮮で、「鑑賞」より「体験」という言葉がふさわしい。

個展の開催が決まってから、川内さんは何度か北海道に通った。厳しい、冬の季節だ。
「流氷、朝もや、雪の結晶。北の大自然が冬に見せてくれるミクロとマクロの世界に引き込まれます。本展に最後に加えた一点は、この時に撮ったもの。作品選びはいつも悩むのですが、最後の1ピースが決まり、全体としてどれ一つ欠くことができない、自分にとってベストなセレクションになったと思っています」

デビュー以来、「展示」という表現にこだわってきた作家でもある。
「“作品に囲まれる”と、なにか発見がある。自分が見ていたはずのものから、逆に見つめ返される面白さ。写真集のページを通じて向き合う“親密さ”とは対極の、開かれた体験。それは私にとって世界との関わり方そのもので、展示という形で他者とシェアすることによって、自分たちが生きている世界を、見つめ直すことができる気がするんです」

会期は半ばを過ぎたが、2023年には〈滋賀県立美術館〉での巡回展も予定されている。稀代の作家の現在地、視点の先を見ることで、発見、気付きが呼応し合う。生きたアート体験を、逃さないように。

Exhibition『 M/E 球体の上 無限の連なり 』

開催中〜12月18日(日) 
場所:東京オペラシティ アートギャラリー 東京都新宿区西新宿3-20-2 
電話番号:050-5541-8600 
営業時間:11:00〜19:00(入場は18:30まで) 
定休日:月(祝の場合は翌火休) 
入場料:1,200円。
〈滋賀県立美術館〉での巡回展は、2023年1月21日(土)〜3月26日(日)予定。

text : Kei Sasaki

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