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「おかげさまで」を伝えたい。 『大豆田とわ子と 三人の元夫』プロデューサー・佐野亜裕美さんに聞く、作品を通じて伝えたかった想い。【Hanako Empower Award】
コロナ禍で友達にも会えず、おいしいものも食べていない。それでも止まらない仕事や家事、体調の変化……。それでもふと顔をあげれば、耳を澄ませば、本を開けば、私たちに勇気をくれるものがたくさんありました。「姿を見ていると元気が出る!」「この作品を毎週楽しみに生きてきた」という人や作品を、Hanako編集部が「おかげさまで! ありがとう!」と勝手に表彰する“Hanako Empower Award”、開幕です。
ハナコから『大豆田とわ子と 三人の元夫』さまへ「一人でも“ひとりで生きているわけじゃない”と思えました。」
コロナ禍で人と会えない日々が続く中、“ひとり”であることを強く実感した人も多いはず。たとえ誰かがそばにいなかったとしても、私たちは一人で生きているわけではない。このドラマがそう教えてくれました。
旧来の価値観にとらわれずに現代を生きる女性を描く。
「ひとりで生きたいわけじゃない」というキャッチコピーを掲げた本作は、話数を重ねるごとに優しさを増しながら、現代を生きる上で励みとなるようなメッセージを視聴者に与えてくれた。作品を通じて伝えたかった想いについて、プロデューサーの佐野亜裕美さんに尋ねる。

―『大豆田とわ子と三人の元夫』は、放送中はもちろん、友人と感想を語り合う時間も毎週の楽しみでした。とても反響の多いドラマだったと思うのですが、視聴者からの声を受けてどう感じていますか?
「この作品は制作局長から『話題になるドラマにしてくれ』と言われたので、物語の内容だけでなく、どうしたら話題にしてもらえるのかを真摯に考えて作りました。多くの人に盛り上がってもらえて本当に良かったと思います」
―感想の中で特に印象的だったものについて教えてください。
「『コロナ禍の厳しい社会状況の中で、自分の存在を認めてもらえたと感じた』という感想や、離婚を経験した女性から『こういうドラマを待っていた』と言ってもらえたのが心に残っています。とわ子の親友・かごめは『今は恋愛はいらない』と考えている人なのですが、これは私の友人がモデルになっています。私は彼女が周囲から『なんで美人なのに結婚しないの?』と言われているのがすごく嫌で。少しでも彼女が生きやすい世の中になったらいいなという想いをかごめという人物に込めて制作したので、その友人に喜んでもらえたのもうれしく思います」

―本作には“一人で生きていく人への応援”という視点もあったと思うのですが、なぜそのようなテーマに辿り着いたのでしょうか。
「数年前に、脚本家の坂元裕二さんと私が共に知っていた方が急逝したんです。その時の『人ってこんなに突然いなくなってしまうんだ』という驚きと、コロナ禍で家族と面会できずに一人亡くなっていくおじいさんの姿を海外のニュースで見た時の衝撃が忘れられなくて……。一人で生きていかなくてはいけない人や、一人ではないけれど孤独を感じている人を励ますことができるドラマにしたいという想いが芽生えました」
―構想段階では男性弁護士が主人公だったそうですが、なぜ女性に変わったのでしょう?
「今の社会って、以前より女性が生きやすく変わりつつある反面、ますます生きづらくなっている部分もあると思うんです。例えば平等な権利について声を上げやすくはなったけれど、同時に不平等であることが可視化されたものもある。3回離婚した女性は周りに誰もいなかったので、想像しづらい分、従来のイメージにとらわれることなく作れそうだなと思ったんです。その自由な描き方で、現代の女性が抱える生きづらさを吹き飛ばせたらいいなと、坂元さんと話し合いながら決めていきました」

―とわ子は“女性の社長”や“シングルマザー”という言葉でラベリングされやすい人物だったと思うのですが、この作品ではそういう固定観念に当てはめることなく、“大豆田とわ子”という一人の女性として描こうという意志を感じました。
「そこは本作の大きなテーマでもありました。タイトルの都合上、“バツ3”という説明は避けることができなかったのですが、女社長やシングルマザーという言葉は脚本で一切使っていなくて。番組紹介でも使わないようにと宣伝チームにお願いしました。あとは、3回離婚しているということについて本人がどう思っているのかを明確には語らせず、あくまでも周囲の言動を通じて彼女の心情を描くように心がけました。人との関係性において、完全にどちらかだけが悪いことってないじゃないですか。だから、一方的に心情を語らせるようなことはせずに、周りの声によって想像してもらいたかったんです。その想像は人それぞれ違ってもいいと思いますし」
―地上波のテレビドラマであのように繊細な表現方法を選択されたのは素晴らしい挑戦ですね。今後、どんな作品を作ってみたいですか?
「将来的には女性チームのシスターフッドの物語を作りたいです。ドラマ業界はまだまだ男性社会なので、私も知らず知らずのうちに家父長制的な価値観を受け入れてしまっているのではという危機感があって……。だから、私自身も差別や社会のことについて学び続けながら、少しでも多くの人に、小さくても何か変化が起こる作品を作れたらいいなと考えています」
【私が勇気づけられたもの】『Fleabag/フリーバッグ』

佐野さんの頭の中には、自分の代わりに世の中への不満をツッコんでくれる存在が常にいるのだとか。「いま夢中なのはイギリスのドラマ『フリーバッグ』。彼女が毒づいてくれるから、イヤなおじさんに出会ってしまっても頑張れる!」Amazon Prime Videoにて独占配信中
【Information】『大豆田とわ子と三人の元夫』
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建設会社の社長を務め、中学生の娘と暮らす主人公と個性豊かな三人の元夫の日々を映す。/Blu-ray & DVD 11月5日発売(発売元:カンテレ、販売元:TCエンタテインメント)
関西テレビプロデューサー/佐野亜裕美(さの・あゆみ)
1982年生まれ。2006年にTBSテレビに入社し『カルテット』『この世界の片隅に』などをプロデュース。昨年関西テレビに移籍し『大豆田とわ子と三人の元夫』を担当した。