武蔵小山の隠れ家レストラン〈Eme〉の武藤恭通さん|星子莉奈のMeet the Chef FOOD 2022.12.20

レストランのプロデューサーやディレクション、PR、ライターとして活躍する星子莉奈さんが、気になる店のシェフをクローズアップする短期連載。第1回は、武蔵小山にあるレストラン〈Eme(エメ)〉の武藤恭通さんの登場です。

みなさん、はじめまして

武蔵小山の隠れ家レストラン〈Eme〉の武藤恭通さん|星子莉奈のMeet the Chef

この度、Hanako.tokyoで連載をスタートすることになった星子莉奈(ほしこりな)です。私はフリーランスでレストランのプロデュースやディレクション、PR、ライターなど、様々な活動を通して“おいしいをデザインする仕事”をしています。この連載では、私が尊敬してやまないシェフのみなさんにフォーカスして、今までの歩みや知られざるお店のヒストリーを紐解いていきます。読者のみなさまには、記事を読んでからお店に訪れてもらうことで、一歩深掘りして食を楽しんでもらえたらうれしく思います。

〈Eme〉の武藤恭通さんにインタビュー

オーナーシェフの武藤恭通さん。
オーナーシェフの武藤恭通さん。

記念すべき第1回目に登場していただくのは、武蔵小山にお店を構える〈Eme〉の武藤シェフ。武蔵小山駅から徒歩2分、2018年にオープンした〈Eme〉は、伝統的なフレンチ・バスク料理を愉しめる隠れ家レストランです。

緑のフレームに囲われた姿が素敵。
緑のフレームに囲われた姿が素敵。

「10年以上前から持ち歩いているノートにお店のイメージを描き、理想にぴたりとはまる物件を3年以上かけて探し回りました。グリーンショップに併設、入口は階段を3段のぼる、といった細かいこだわりも叶えてくれるお店に巡りあえたのは奇跡でした」と、懐かしげに話してくれました。

確かに、グリーンに囲まれた癒しのアプローチから、お店が浮かび上がってくる光景を拝めるのはこちらならでは。初めて来店した際にはドキドキしながら緑のトンネルをくぐり、外観と内観のギャップに魅了されたのを覚えています。
〈Eme(エメ)〉という店名は“好き”や“大切にする”といった意味を持つフランス語「aimer=」の発音記号「ɛme」から生み出した造語だそう。
「この場所に好き同士が集まっておもしろい化学反応を起こしたり、愛着あるものに囲まれた空間で好きを感じてもらいたいという想いを込めて名付けました」。
「大人の夏祭り」と題して、ご近所の飲食店やうつわ屋さんと一緒にイベントを開催されるなど、“好き”が集ってその想いが受け手に伝播するような企画も手掛けられています。

350種類以上のワインが納められているセラー。
350種類以上のワインが納められているセラー。

ソムリエ資格も有しているワインラバーな武藤シェフ。
「ブルゴーニュのレストランに勤めていた頃は、休みのたびにソムリエ仲間とワイナリーを巡っていました。お店にもお世話になった生産者さんのワインを多くラインナップしています」。
シェフに当時の思い出話や作り手の想いを伺いながらいただく1杯は、おいしさもひとしおです。

台湾、ニュージーランド、フランスと海外を渡り歩いてきて武藤シェフがフレンチ・バスク料理に行き着いたきっかけは、日本で食べた〈ピエール・オテイザ〉さんのサラミとの出会いだったといいます。
「サラミのあまりのおいしさ衝撃を受けて、ピエール・オテイザさんに会いに行きました。そこで直談判し、弟子入りさせてもらったんです」。
念願叶ってピエール・オテイザさんの元で働きはじめ、より一層、土地に根付いた身近な料理の魅力に開眼したそう。古き良きものを重んじるシェフの信念と、伝統を守りながら地域の個性がキラリと光るフレンチ・バスク料理は通ずるものがあったのでしょう。

シグネチャーはつやつやと輝く「パイ包み焼き」。
「パイの中身は『アショア』と呼ばれる挽肉と甘長唐辛子を細かく刻んで煮込んだ、バスクの郷土料理です。通常は煮込み料理として提供されているアショアを、フランスの定番料理であるパイ包み焼きにアレンジしました」。

たまらずこの表情。
たまらずこの表情。

王道フレンチとバスク料理の要素が詰め込まれた1品です。肉汁がジュワジュワと流れていく様子を、目を輝かせながらそっと見守っていたのですが、ついに我慢の限界を迎え、一口目をパクリ。甘長唐辛子のほろ苦さと肉汁の旨みに浸されたパイ生地が極上にうまい!お肉のごろごろ感も感じられ、食べ応えも抜群。頬が緩みまくって撮影どころじゃなくなってしまいました(笑)。

見た目も味もパーフェクトな「プチプリンアラモード」。
見た目も味もパーフェクトな「プチプリンアラモード」。

洋菓子店でも経験を積まれた武藤シェフが生み出すスイーツは、どれも頬っぺたがおちるおいしさ。中でもファンが多いのが「プチプリンアラモード」。小さいけれど滑らかな口当たりで、丁寧にカットされた上品なフルーツが絵になる逸品です。まるで喫茶店を彷彿とさせるクラシカルな「プチプリンアラモード」には、知られざる誕生秘話が。
「僕は横浜出身なんですが、自分のルーツを感じられるソウルフードのようなものをずっと作りかったんです。それで色々調べてみたら、みなとみらいにある〈ホテルニューグランド〉がプリンアラモード発祥の地であることを知り、〈Eme〉らしくアレンジして出しみたらおもしろいんじゃないかと思ったんです」と笑顔で語るシェフ。ストーリーを伺ってからプチプリンアラモードを目の前にすると、自然と港町が目に浮かび、はまっ子気分を味わえます。

シェフとお話ししたい方はぜひカウンターへ。
シェフとお話ししたい方はぜひカウンターへ。

最後に、〈Eme〉に来たらどんなことを感じてもらいたいか、お伺いしてみました。
「古き良きものと新しい感性ですね。伝統や文化を大切にしながら、そこに新しい食材や技術で今の感性を取り入れていくことを意識しているので」と、真剣な眼差しで語る武藤シェフ。
おっしゃる通り、フレンチ・バスク料理をベースに、各国料理のエッセンスが注入されたシェフのお料理はどこか懐かしいけれど、今までに食べたことのない新旧交えた味。心を揺さぶる料理が生まれる理由が垣間見えた気がしました。

いつ訪れても穏やかな空気に包まれ、温かみのあるお料理とこだわりのワインで幸せメーターを満タンにしてくれるありがたい場所です。心とお腹を満たして欲しい時はぜひ〈Eme〉へ。武藤シェフ、ありがとうございました。

〈Eme〉

■東京都品川区小山3-11-2
■03-5751-7636
■12:00〜15:00(13:30LO)、18:00〜23:00(21:00LO)
■月、不定休

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