作家・鈴木涼美さんが選ぶ今月の3冊|『ふたり街あるき』『名前のないカフェ』ほか、日常のいとおしさに気づく本
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1. 見慣れた景色の中を、散歩したくてたまらなくなる。『ふたり街あるき 01』胡原おみ

Googleマップにカーナビなど、目的地に行くのにあまりに便利なツールがあるせいか、道や街や景色がマップに対応する通過点でしかなくなってしまった気がする。本作を読むと、それがとても勿体ないことだとうずうずした気持ちになった。主人公の女子大生が暮らすのは通学に便利な面白味のない街。ある日彼女は、その街で何かの写真を撮っているオタク系青年に出会う。透かしブロック、段差スロープなど、スマホの地図には立ち現れない景色を見逃さない彼と歩くうちに、退屈な街にも発見が詰まっていると気づく。私も二人の視線を借りて見慣れた街を歩きたくなった。
2. 生きるために精一杯な日々の、隙間に立ち寄る場所。『名前のないカフェ』ローベルト・ゼーターラー著、浅井晶子訳

戦争孤児のための施設で青春を送った男は、市場での肉体労働を続けてきたが、店主が消えて閉じてしまったカフェの跡地を借りる決心をする。ウィーンで最も貧しい地域の一つで、名前も決めないまま営業を始めた店はすぐに近隣住民や市場の人々で繁盛する。そこに集う多くが貧しく、戦後に変わりゆく街の中で何かしらの孤独を抱えた人々だ。元孤児の店主、工場の仕事を失い市場で倒れていた給仕、四十歳が見える社会主義者のレスラー、大家族を養うために働き続ける精肉店店主、ロシア生まれの孤児だった画家̶̶。彼らの孤独に寄りそうカフェの十年を描く物語。
3. 大量の文字があふれる今、読むことの尊さを思い出す。『希望を運んだ図書館 馬に乗って本をとどけた女性たち』ローレン・H・カースティン作、ベッカ・スタッドランダー絵、中井はるの訳

大恐慌時代の米国で始まった女性たちによる「騎馬図書館」は、本が手に入らないどころか、文字が読める人の割合も少なかった地域に、馬に乗って本を届け、読み方を教える試みだった。1930年代の米国の空気を捉えた奥行きのある絵と、彼女たちの功績を静かに振り返る文章で、読むことの喜びがいかに尊いものかを伝える。あまりに簡単に文字が手に入る時代には忘れがちだが、本を読むことは自分の目に映る光景の外に世界が広がっていることを知ることであり、希望と自由を手にすることなのだ。巻末には実際の騎馬図書館員の写真も。
すずき・すずみ/著書にエッセイ『めめSHEやつら』(KADOKAWA)など。6月に新刊『女の子未満』が発売になったばかり。



















