大阪・なんばの酒場〈正宗屋 相合橋店〉のオリジナルの逸品はなんとカステラ! FOOD 2023.08.07

なんばの酒場商店街で大衆を迎える〈正宗屋 相合橋店〉のオリジナルの逸品は、なんとカステラ!大阪成分がぎゅっと詰まった、それはお酒の恋人。

〈 正宗屋 相合橋店 〉のカステラ [ 日本橋 ]

ショーケースのなか、小鉢に囲まれながらしれっとそれはいる。ポルトガルより伝わった南蛮菓子に擬態して、ファニーに酒を誘う「カステラ」である。その正体は、魚卵を出汁で冷やし固め、アタマに蟹味噌を塗った、泣けるほど飲んでしまう酒ドロボー。ここまで読んだあなたから「さすがはお笑いの街、笑売上手だなぁ」の心の声が漏れ聞こえたけど、全力で否定させてほしい。決してウケ狙いのグルメなんかじゃないのです。

カステラは、実は小鉢で通年提供する魚の子の煮付けの〝おいしい副産物〟。どうしても煮汁に散らばってしまう魚卵を救出して作る、いわばアップサイクルなのだ。正確な誕生時期は不明なれど、少なく見積もっても四半世紀前から大衆酒場がサステナブルな取り組みをしていた、ということになる。食いだおれの街・大阪では、食材をムダなくおいしく食べ切る「始末の心」という考えが古くからあって、大阪料理=割烹で育まれた精神に、420円のアテで触れられる…って、大衆酒場の懐は果てしなく深い。そして、これも言わねばならない。出汁モイスチャーなカステラは、大阪の出汁文化をねっとり楽しめる逸品でもある。カステラこそ、うどんと双璧をなす大阪二大出汁料理だ、と断言したい。

しかし店はカステラを名物だと謳わないし、一日の提供数も限定。始末料理的な背景を無視して量産することはせず、二代目店主は「あくまで小鉢のひとつ、えこひいきしません」とまで言い切る。

月曜日には、おでん・どて焼き用の牛すじ串から出る半端肉を活用した、もうひとつの始末料理「五目きんちゃく」を作り、お客さんに一週間のお楽しみを用意する。酒場の外せない定番から板前が自由に発想するエスニック料理まで、100種近いアテを揃え、日参客を待つ。その膨大な仕込みを捌くため、夜の閉店後すぐに店に入って昼の開店直前に帰っていく70歳のベテラン板前がいるし、二代目の母上をはじめとする営業中チームも早朝の5時半頃からぞろぞろと出勤。話を盛るわけでもなく、厨房が24時間稼働している。そんな、酒がおいしくなるバックステージを店が語ることもなく、なんばのど真ん中、二千円弱でお客を送り出す。なんて偉大な大衆の楽園だろう。

だからわたしは、この原稿そのままを口に出して、まわりにせっせと説いてるんです。カステラを話のツカミにして、大阪イチの酒場の口福度のことを。

photo : Mami Nakashima text &edit : Ayaka Hirota

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