冷やされ忘れたマヨネーズ#05 炊く|小原 晩エッセイ

冷やされ忘れたマヨネーズ#05 炊く|小原 晩エッセイ
冷やされ忘れたマヨネーズ#05 炊く|小原 晩エッセイ
CULTURE 2026.04.30
『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』など、日常を描くエッセイで話題を集めてきた小原晩さんが、食べものとそれにまつわる生活を綴ります。今回はひとりで、自分のためだけにつくる「あさごはん」について、臨場感たっぷりと語ります。

#05 炊く

土鍋でごはんを炊いています。そうですね、もう三回くらい、炊いています。まさか自分のような大ざっぱが、土鍋でごはんを炊くようになるなんておもっていなかったけれど、いいですよ、けっこう。なんか、うれしいです。

工程は、いくつかあります。やってみると、そんなに大変ではないです。生活に追われているときにはそんなことをやっている場合ではないかもしれないけれど、自分のためになにかしてやった、という感慨をつれてきてくれるようなところがあって、わたしは案外、気にいりました。

まずはお米を買わなければなりません。これまでパックのお米ばかりを食べていたからです。近所にお米屋さんがあるので、そこへ行って、おじさんに話しかけ、お手ごろのものを買いました。そうして胸に抱かれた米ぶくろの重みと体温のなさに、じぶんの人生の軽さを思います。それはむなしさというよりむしろわたしの足を前へ前へとすすめるのはどうしてでしょう。

キッチンで米袋をやぶり、うそかほんとかわからない米を洗うときの知識を結集して二合ほどの米を無我夢中で洗います。そして、三十分ほど、水につける。炊飯器のときにはそんなことをしなくていいはずなのに、どうして、と思いながら、三十分過ごします。お米は水を吸い過ぎることはないのだといいます、ですから、夜眠る前につけておいたりしてもいいらしいです。

土鍋に米をいれます。そこに水を400ミリリットル。

中火にかけます。ふたは少しずらして、中をのぞけるようにしておいてください。しばらくすると、ぐつぐつと音が立ち、あわが立ち、そのあわはどんどんと大きくなってきて、なんだか粘りけがでてきたところで、ふたをしめ、そのコンロでいちばんの弱火にして十分。キッチンタイマーってやっぱりあると便利です。携帯をひらいたり、閉じたりするのもいいけど、ピッピッピとボタンを押すのはもっと良い。ピピピ、と鳴ったら、そのまま十分放っておく。蒸らす、ということらしいです。さあ十分後には、ぴかぴかの炊き立てごはんが待っています。おかずを準備しましょう。

鮭を焼く。出汁巻きを作る。ほうれん草のおひたしを作る。納豆を混ぜる。インスタントの味噌汁を用意する。十分くらいでできることのぜんぶをやれる日と、何にもやれない日があります。今日はできるだけやりたい日です。

ピピピ。おもわず息をとめて、土鍋のふたをあけると、白いつやつやがあらわれて、しゃもじでさっくり混ぜていく。お米のいいにおい。ほかほかのにおい。手の甲に少しのせて、米の具合をたしかめる。あっ、うん、おいしいです、とひとりわらっている朝に、まっとうなさびしさを手に入れたような気がするんです。

小原晩さん連載エッセイ
小原
小原 晩

おばら・ばん 1996年、東京都生まれ。作家。2022年に自費出版でエッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』(のちに商業出版)を刊行。その他の著書に『これが生活なのかしらん』。

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