苅田梨都子の東京アート訪問記#5 『鹿児島睦 まいにち』展 PLAY! MUSEUM CULTURE 2023.11.16

ファッションデザイナー・苅田梨都子さんが気になる美術展に足を運び、そこでの体験を写真とテキストで綴るコラム連載です。第5回目は、PLAY! MUSEUMで開催中の『鹿児島睦 まいにち』展へ。

連載第5回目は、立川市にあるPLAY!Museumへ訪れた。
この日は心地の良い晴れの日。立川駅から国道沿いに繋がる、長いエスカレーターを降りる。ゆるやかな風が吹き、草花がやさしく靡いていた。そんな穏やかな陽気に包まれながら、会場に向かう途中でさえ安らぎを感じた。アプローチもよく、PLAY! MUSEUMは緑が生い茂るエリアにひっそりと現れる。

今回は陶芸家・アーティストである鹿児島 睦(かごしま・まこと)さんの大規模個展へお邪魔する。きっかけは、PLAY! MUSEUMで働く友人の森田藍子さんの紹介と、以前からこの会場自体が気になっていたからだ。

わたしは主にファッションデザインをしており、洋服のデザインへのヒントは自分の“まいにち”の暮らしの中からいつも探している。過ごしていく時の中で出逢う人やモノ、訪れた景色、感じたことなどから影響を受けている。まいにちの積み重ねの中での気づきを掬い取るような感覚や作業が、結果として服という形になりアウトプットされている。
鹿児島さんも陶芸仕事はもちろんのこと、国内外メーカーとのコラボレーションを通じて衣食住にまつわるアイテムの制作などに携わっているそうだ。そんなエピソードを森田さんから伺ったとき、アウトプットする形は違えど、わたしと鹿児島さんのまなざしや日常はもしかしたら近いのかもしれないと思えたのだ。そんな、既に親近感が沸きそうな鹿児島さんの作品や世界に迷い込んでいく。

『鹿児島睦 まいにち』展 PLAY! MUSEUM 苅田梨都子

入り口には、手作りの大きなモビールがお出迎え。所々あるシルバーのモチーフに光が反射して、きらきらと優しいリズムでゆらめく。そのゆらめきを目で隅々までたどる。いつもよりゆっくりと時が流れていくのを五感で受け止める。本展の手前で既に心が奪われたわたしは早速入り口へと誘われる。

入ってすぐ、あさごはんの器コーナー。まろやかなイエローやオレンジ、ピンクなど、朝を彷彿とさせる優しい色遣いやお花柄の作品たちが並ぶ。
よく見ると、ディスプレイに使われているテーブルの表面がざらざらしている。これは鹿児島さんのアトリエの壁に使われている素材を使用しているそうだ。作品だけでなく、什器にまでこだわりが詰まっている。

朝の次は、ひるごはんの時間。

『鹿児島睦 まいにち』展 PLAY! MUSEUM 苅田梨都子

会場の至るところにテキストが隠れている。どこにあるのか探しながら読んでいくのも冒険のようで楽しい。鹿児島さんから私たちに向けた小さな手紙をいくつもいただいているようだった。

『鹿児島睦 まいにち』展 PLAY! MUSEUM 苅田梨都子

ひるごはんは朝よりもわんぱくで、さまざまな動物たちが描かれた器が多かった。器も深く大きなものもあり、みんなで食卓を囲んでいるような気持ちになれた。私はどのお皿に何を盛り付けて食べようかな。そんなこともふわりと考えながら会場をぐるりと見渡していく。

続いてばんごはんのコーナー。ブラックのシックなカーテンに包まれ、スポットライトに照らされた食器たちがお利口に丸テーブルに並んでいた。写真は上手く撮ることができなかったので、是非直接確かめて見てほしい。

ごはんシリーズのディスプレイでは、ばんごはんが一等に好きだった。一日の締めくくりである夜。他に比べて大人っぽい暗めなお色の器たち。上品なブラウスを着ておめかししているみたい。ちょっと背伸びしているような器たちを何度も見つめてみたくて、朝と昼よりも長い時間をかけて鑑賞した。

ごはんシリーズの間には、小説家・絵本作家である梨木香歩さんとのコラボレーションで完成した『蛇の棲む水たまり』のお話に沿って新作の器が並んでいたり、メーカーとのコラボレーションによる洋服や花器、紙袋などさまざまなアイテムがずらりと並んでいた。私は製作する際、主に“服”というアイテムが決まっているので、鹿児島さんから生まれるバリエーションの幅の広さに改めて驚いた。生活に必要なものたちが、この展覧会には揃ってしまうほどのラインナップだった。

『鹿児島睦 まいにち』展 PLAY! MUSEUM 苅田梨都子

私がさらに気に入ったコーナーは最後のコーナー。本展のタイトルでもある“鹿児島睦のまいにち”。

ここでは会場と同じ時刻通りに1日のお仕事をしている鹿児島さんの姿が二つの定点カメラによって映し出されている。例えば15時20分にこの会場で映像を眺めると、ある日の鹿児島さんも15時20分に何をしているのか眺めることができる。

『鹿児島睦 まいにち』展 PLAY! MUSEUM 苅田梨都子

自分の人生では、自分の24時間しかわからない。特にモノづくりをしている人の時間の使い方や集中具合、どんなふうに休憩しているのか。気になる人も多いのでは?
鹿児島さんの映像は時間の関係上ずっとはみていられなかった。けれど、ひたむきに作業台に向かってお仕事を進めている姿をみて、本当にまいにちの積み重ねだと感じ、自分のこぶしに自然と力が入った。

こうして形になっているものすべて、鹿児島さんが自身と向き合っている大切な時間の集積であることの証明だ。自分に向き合えば向き合うほど、何かが生まれてくる。それは決して全て表に出ているものばかりではないけれど、失敗含め地味なまいにちを繰り返していくことが答えなのかもしれない。近道もないのだと自身にも言い聞かせる。きらきらと輝いている人は、やっぱりコツコツ自身とひたむきに闘っている。

edit_Kei Kawaura

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