苅田梨都子の東京アート訪問記#4 『キュビスム展』国立西洋美術館 CULTURE 2023.10.25PR

ファッションデザイナー・苅田梨都子さんが気になる美術展に足を運び、そこでの体験を写真とテキストで綴るコラム連載です。第4回目は、国立西洋美術館で開催中の『キュビスム展』へ。(PR/日本経済新聞社)

連載第4回目は、東京・上野にある国立西洋美術館へ。会期は2023年10月3日から2024年1月28日まで。
『パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展ー美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ』と名付けられた本展。今回の展示の見所は、フランス・パリにあるポンピドゥーセンターに所蔵されている50点以上の作品が日本国内ではじめて公開され、大変貴重な機会となっている。

そもそもキュビスムとは?
20世紀初頭の1900年代、パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって創始された表現のこと。見える空間をそのまま描くことなく、複数の視点から見たイメージを一枚の絵の中に集約して表現しようとした新たな美術表現の試み。この挑戦は後の時代に続くアーティストたちに大きく影響を与えた。

hanako_キュビスム_苅田梨都子

展示会場に入ってすぐ、入り口付近ではキュビスム以前について触れられており、“ポール・セザンヌ”や“アンリ・ルソー”らの絵画が並ぶ。キュビスムの起源はセザンヌにあるという。

さらに会場を進むと、すごく惹かれる絵があり思わず立ち止まる。それは“マリー・ローランサン”の褐色ベースの絵画であった。マリー・ローランサンの作品が以前から好きで、ポストカードを集め、さまざまな美術館でも見る機会が多くあった。しかしこの絵には彼女の描く絵の代名詞である淡い“パステルカラー”はほとんど使われていない。ピカソやブラックにも影響を受けたらしく、この作品のキリリとした表情は少しピカソに通ずるものがあった。

マリー・ローランサン『アポリネールとその友人たち(第2ヴァージョン)』1909年/ポンピドゥーセンター所蔵
マリー・ローランサン『アポリネールとその友人たち(第2ヴァージョン)』1909年/ポンピドゥーセンター所蔵

マリー・ローランサンの最初期は、どちらかというと渋い色遣いだったものから、作風はだんだんと淡く柔らかな印象に変化していった。私自身のものづくりと重ねると、自分がデザイナーを務めるブランド〈ritsuko karita〉ではマリー・ローランサンとは逆で、淡い色の優しいものから徐々にシックな佇まいや色合いを中心に変化していった。そんな部分にも、マリー・ローランサンの描く作品に強く共鳴し、心の変化や時代の変化を受け入れながら作品に反映している姿が改めてとても良いと感じた。

続いてジョルジュ・ブラックやパブロ・ピカソのこれぞキュビスム!と言わんばかりの大作がずらりと並ぶ。一見キュビスムの絵は難しく捉えられそうだが、私はこれらを観て素直に色合いが素敵だと感じた。コラージュ作品のようにも見えた。

会場を先に進むと、今回の展覧会のキービジュアルでもある大きな絵画が並ぶ空間に辿り着く。

ロベール・ドローネー『パリ市』1910-1912年/ポンピドゥーセンター所蔵
ロベール・ドローネー『パリ市』1910-1912年/ポンピドゥーセンター所蔵

この空間には私の身長より高い絵が壁一面にずらりと並んでおり、とびきりの迫力だ。絵画を遠くから眺めた時と、近くで鑑賞した時の印象や気持ちにはそれぞれ異なる面白さや発見があった。これこそ美術館に直接足を運んで絵画を味わう醍醐味というか。ポスターですでに観たことがある絵でも、新しい気持ちになる。改めて作品の偉大さに気付かされる。

ロベール・ドローネーの『パリ市』は中央に立つ人々とパリの街並みやエッフェル塔などの建物を組み合わせ、色鮮やかに描く。人の存在も確かにあるが、配色のリズミカルなバランスで背景との調和も取れているように思う。絵は停止しているのに、人々が動き出しているようにも見える。人々がパリの街を行き交う様子がだんだんと見えてきた気がした。

フェルナン・レジェ『婚礼』1911-1912年/ポンピドゥーセンター所蔵
フェルナン・レジェ『婚礼』1911-1912年/ポンピドゥーセンター所蔵

先ほどの『パリ市』の右隣にあるフェルナン・レジェの『婚礼』も度々眺めてしまう。全体を観ると少し硬さのある絵だと受け取っていたが、近くで観ると中央にピンク色がほのかに使われており、その優しい色遣いにうっとり。ポイントになっているピンクは花嫁のドレスの一部らしいが、キュビスムも感じつつ色のテクニックで硬さからも脱却できるのかと驚いた。引き締まる黒と柔らかなさり気ないピンクの色遣いのバランスも好きだ。周りに青や緑があっても際立っている。

最後の展示室には、展示会場である国立西洋美術館を設計したル・コルビュジエによる『静物』と『水差しとコップー空間の新しい世界』の絵画も並ぶ。

hanako_キュビスム_苅田梨都子

国立西洋美術館は、入り口の1階から2階へ上がるためになだらかなスロープがある。展示物の位置が変容して見える楽しさや、館内の階段を上や下へと進みながら自分自身が一体どこに居るのか。そんな不思議な感覚になる造りもお気に入りの理由の一つである。

暗さの感じる部屋では窓から光が差し込む。安らぎも感じられる、そんな国立西洋美術館の建築が一等好きだ。

国立西洋美術館の外観©︎国立西洋美術館
国立西洋美術館の外観©︎国立西洋美術館

本展を訪れてみて、訪れる前のイメージではキュビスムについて難しく捉えていたけれど、その後の美術の原点でありそこから影響を受けたアーティストがたくさんいることがわかった。新しいものは原点から派生していくことがほとんどで、現在もこのような歴史ある事柄について触れられる機会は大変貴重で、刺激的だった。

また、今回の展示ではアーティストのWALNUTさんが手がけたキュビスム展のイラストをフォトブースにしたり、ステッカーにしている。ステッカー付きチケットは展覧会の公式サイトで購入することができる。目や口などの顔のパーツが複数あり、福笑いのようにして楽しめるもの。早速私も体験することに。

hanako_キュビスム_苅田梨都子

今回のキュビスム展を通して、少しアンバランスな美の印象を持った。男性の顔は敢えて大きな片目を顔の輪郭から少しはみ出してキュビスムっぽいバランスに。完成した後ノートに貼ってみた。エッフェル塔やワイングラスなどのモチーフシールも周りに飾り付けてみた。みなさんも是非キュビスム展の記念としてスマートフォンの裏面やファイルの表紙などに貼って遊んでみては。

photo_Tomohiro Takeshita edit_Kei Kawaura

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