どうしたら心地が良い空間を作り、保つことができるのか。『リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s – 1970s』国立新美術館

どうしたら心地が良い空間を作り、保つことができるのか。『リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s – 1970s』国立新美術館

苅田梨都子の東京アート訪問記# 18
どうしたら心地が良い空間を作り、保つことができるのか。『リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s – 1970s』国立新美術館
CULTURE 2025.04.23

ファッションデザイナー・苅田梨都子さんが気になる美術展に足を運び、そこでの体験を写真とテキストで綴るコラム連載です。第18回目は、国立新美術館で開催中の『リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s – 1970sへ。
苅田梨都子
苅田梨都子
〈RITSUKO KARITA〉ファッションデザイナー

かりた・りつこ/1993年岐阜県出身。4年前に自身のブランドを〈RITSUKO KARITA〉としてリニューアル。

今回は乃木坂にある国立新美術館で現在開催中の『リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s – 1970sを訪れる。

本展は、20世紀にはじまった住宅をめぐる革新的な試みを、「衛生、素材、窓、キッチン、調度、メディア、ランドスケープ」というモダン・ハウスを特徴づける7つの観点から再考する。傑作14邸を中心に、20世紀の住まいの実験を写真や図面、スケッチ、模型、家具、テキスタイル、食器、雑誌やグラフィックなどを通して多角的に検証する。

私は建築や家具についてとりわけ学があるわけではないが、2020年ごろから段々と惹かれるようになった。住まい・暮らし・生活などのワードは私たちが生きていく上で切っても切れない。そんな身近にある住まいについて、本展を通して改めて見つめ直すことができたらと思う。

「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s – 1970s」国立新美術館 2025年 展示風景 撮影:福永一夫

展示会場に入ってすぐ、部屋から会場内を見渡すことができるような構成になっている。複数の仕切りは窓を彷彿とさせる。

冒頭でも触れた、「衛生、素材、窓、キッチン、調度、メディア、ランドスケープ」のうち、個人的に惹かれるのは窓とキッチンだ。

窓のサブタイトルである『内と外をつなぐ』というワードからは窓についての役割を改めて考えさせられる。私は透明なものへの憧れが強く、窓もそのうちの一つだ。窓から山や木々などの自然が見えるお家は、季節によって緑の青々とした爽やかな景色や花々に癒しをもらうことができる。外に居たら当たり前な景色も、部屋の中の窓から見える景色は特別に感じる。

東京都町田市の鶴川付近に住んでいた頃、自然に囲まれた一軒家で4年間過ごした。その家はとても窓が大きかった。窓が大きな家ってこんなにも惹かれるのだと、住みながら日々感動していたことを今でもよく覚えている。14時ごろになると木漏れ日がとても綺麗で、その時間を楽しみにもしていた。窓がなかったら、そんな楽しみもなかっただろう。

また、本展を巡りながらル・コルビュジエの「窓は、内と外の境界ではなく、身体と風景を結び付ける装置としてデザインされている」という説明に出逢った。実際にコルビュジエの建物に入り、窓から眺めるという体験をしてみたい。個人の体験としても、コルビュジエが言いたいことが理解できるような気がした。

続いて、キッチンについて。「フランクフルト・キッチン」とは何かご存じだろうか? 1926年に約1万戸の公営住宅のために設計され、機能主義の理念が結実したシステムキッチンの始祖であり、当時の一般的なキッチンの1/2の面積の中に、女性一人のコンパクトな仕事場を生み出した。

そんな「フランクフルト・キッチン」は、食材の準備から調理、配膳、片付けという一連の作業が最小限の歩幅となるよう設計されている。

キッチンは当たり前にあるからこそ、その便利さに気付けないでいた。人々の生活の営みによる、もっとこうであったらいいという気付きの積み重ねによって今のような当たり前のキッチンが存在すると思うと感慨深い。

フランク・ゲーリー フランク&ベルタ・ゲーリー邸 1978年 ©︎Frank O.Getty Research Institute,Los Angeles(2017.M.66)

なかでも、フランク・ゲーリーによる天井がガラスであしらわれた光溢れるキッチンに特別魅了された。やさしい木漏れ日に包まれて料理ができるなんて、癒しの時間であるに違いない。

また、展示にはキッチン道具が並んでいた。その一つにガラス容器「クーブス」がある。窓と同様に、ガラスや透明なものに惹かれる私は一目置いた。さまざまな大きさのガラス容器が積み木のように綺麗に積み重なっていた。「クーブス」はバウハウス出身であるヴィルヘルム・ヴァーゲンフェルトによるもの。小さな建築物のように、積み重ねると美しくコンパクトにまとまる。保存した食品をそのまま食卓にも提供できる、無駄なくデザインされたキッチン道具。こちらはぜひ、実際に展示に訪れて見つけてみてほしい。

また個人的には家具が好きで、展示されていた中では特にルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエとマルセル・ブロイヤーのチェアが大変美しかった。

マルセル・ブロイヤー《サイドチェア B32》1928年 ミサワホーム株式会社 撮影:立木圭之介


そしてなんと言っても本展の見どころは2階の展示室、天井高8メートルの会場に設置されるルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(1886 – 1969年)の未完プロジェクト「ロー・ハウス」の原寸大展示である。原寸大での実現は世界で初めてとのことで、大変貴重な機会となっている。


実際に訪れてみて、こんな部屋に住んでみたいという理想の空間だった。広々としたクリーンな白ベースの空間に、エッジの効いたチェアが数種類並ぶ。一部、座れないチェアもあるが、ほとんどのチェアは座り心地も体験できるのでお気に入りのチェアを探してみてはいかがだろう。1階の展示は有料だが、こちらの2階の展示は入場無料で見学可能だ。

自身の生活空間に限度はあれど、今ある空間の中でどうしたら心地が良い空間を作り、保つことができるのか。また、外出先でも意識して道具や空間を眺めることができたらより楽しく過ごせると思う。

本展は6月30日までの開催であるが、兵庫県立美術館で9月20日から巡回展示を予定しているそうだ。ぜひ関西圏の方も訪れてみては。

『リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s – 1970s』展

会期:2025年3月19日(水)~2025年6月30日(月)
休館日:毎週火曜日
※ただし4月29日(火・祝)と5月6日(火・祝)は開館、5月7日(水)は休館
開館時間:10:00~18:00

※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで

会場:国立新美術館 企画展示室1E、企画展示室2E

巡回情報:兵庫県立美術館
2025年9月20日(土)~2026年1月4日(日)

edit_Kei Kawaura

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