前田エマの秘密の韓国 vol.3 DDP TRAVEL 2023.06.14

この連載では、韓国に留学中の前田エマさんが、現地でみつけた気になるスポットを取材。テレビやガイドブックではわからない韓国のいまをエッセイに綴り紹介します。第3回目は、ザハ・ハディドが設計した宇宙船のような複合施設「DDP」へ。

街中に突如降り立った宇宙船みたい

アートやデザインの仕事をしている友人たちがソウルへ来ると、必ずと言っていいほど見たがるのがDDP(東大門デザインセンター)だ。

2014年に誕生したこの建築は複合文化施設。アートホール、ミュージアム、デザインラボ、ショッピングモールなどで構成されている。『ソウルファッションウィーク』もここで開催されているし、ドラマや雑誌の撮影でもよく使われている。

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DDPが日本人から一際注目を集めるのは、なんと言ってもザハ・ハディドが設計したからだろう。ザハはイラク出身の女性で、建築界のノーベール賞といわれるプリツカー賞を受賞している。

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2020年に開催予定だった東京五輪。メイン会場となる新国立競技場の建て替えを、ザハが担当することになった。2012年にコンペティションを勝ち抜き、計画も進んでいたが、予算含め様々な理由でザハ案は2015年に白紙となり、2016年にザハはこの世を去った。

私を最初にDDPへ連れて行ってくれた韓国人のオンニ(おねえさん)は「韓国でも、この建物が建つ前、反対の意見が多くて大変だったんだよ」と言っていた。私が初めてソウルを訪れたのは2022年なので、DDPが建つ前のこの土地の風景を知らない。

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ヌメッとしたグレーの膨らみ。
初めて遠くから見たときは、「わあ、街中に突如降り立った宇宙船みたいだなあ」と、その大きさにとにかくびっくりした。
近づいてみて、建物のまわりをぐるぐる歩いたり、くぐったりしてみる。
すると外観からの印象とはだいぶ違って、親しみを覚える。
なんだか居心地がいい。
なだらかな曲線にも気持ちよさを覚えて、不思議な感覚になる。

子どもたちが自由に遊びまわり、人々がベンチで昼寝をしたり、ストリートピアノを弾いたりと、思い思いに振る舞う様子は、見ていてたのしい。

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夜になるとライトアップされる。
写真で見ていたきらびやかな姿とは少し異なり、それほど派手なものではなく、柔らかい黄色い光は何度見ても心がキュウッとなる。
見に来た友人たちは「きれいだね」とか「なかなかいいね」とか言って、良い顔をしている。
近くの背の高い建物の窓から見下ろして眺めるもの、私は好きだ。

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私の実家は土手の目の前にあるのだが、自宅の前の芝生が少しだけ刈られ、整備され道ができただけでも「私の許可なしに、家の窓から見える風景を変えるなんて、もう腹立たしい!」と思うほどの人間なので(それなのに、すぐにその風景に慣れてしまった)何も言えないのだが、ここへ来る友人たちが“幻の東京五輪”の風景を想像しながら歩く姿を見ながら、建築が作り出す“街”と“人”の風景のことを考えてみたりする。

Photo:Mio Matsuzawa

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