軍事境界線のある小さな街でのお茶会|前田エマの秘密の韓国 vol.13 bangim craft TRAVEL 2023.11.14

この連載では、韓国に留学中の前田エマさんが、現地でみつけた気になるスポットを取材。テレビやガイドブックではわからない韓国のいまをエッセイに綴り紹介します。第13回目は、小さな秋のお茶会の旅へ。

そうだ。この向こうに見えるのは、違う国なのだ。

韓国の西のいちばん上に、パジュ(坡州)はある。
軍事境界線があり、北朝鮮と接している小さな街(街ではなく市なのだが、街って感じの雰囲気)。
今日は、そんなパジュで行われた、小さな秋のお茶会への旅について、書いてみたい。

前回、この連載で訪れたポジャギの先生が「今度、日本人が関わってるお茶会がパジュであるみたいよ」と教えてくださり、「なんだか面白そう!」と、何も分からないまま予約してみた。
パジュにはずっと前から行ってみたいと思っていたので、とてもいいきっかけを作ってもらったような気がした。

ソウルからバスで1時間もかからず、到着。秋晴れが気持ちいい。
車窓の左側には、海が見え、海面がきらきらと光る。
車道と海の間には、有刺鉄線が貼りめぐらされている。
そうだ。この向こうに見えるのは、違う国なのだ。

バス停を降り、赤唐辛子やカボチャが覗く畑を歩いた先に、お茶会の舞台〈bangim craft〉があった。
ここは木工作家ヤン・ビョンヨンさんの「小盤(ソバン)」(小さなお膳)の工房であり、横はギャラリーとなっている。

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店内にはソバンの他に、様々な作家の茶碗やグラス、オブジェといった作品が並んでいた。
日本のファッションブランドや、作家の商品も多く取り扱われている。
様々な日本の作家と交流があるギャラリーだと、知人に聞いた。

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ソバンは朝鮮半島の伝統的な小さな“お膳”である。
おぼんに脚がついた、小さなテーブルのような一人膳。
今でこそ韓国料理と聞くと、大人数で皆一緒に、鍋やおかずをつつくイメージがあると思うが、それは戦争がきっかけだったとどこかで読んだ。
昔は小さな皿に取り分け、テーブルのようにソバン使って、ひとりひとり別々に、床に座って食事をしていたそうだ。

ここで作られたソバンは、おぼんの形も色も様々だが、どれもスッキリしていて、小ぶりで使いやすそう。
キッチンテーブルの上にソバンを置いて、ちょっとしたお茶やお菓子出す時にも使えるだろうし、ランチョンマットの代わりとして使うこともできるだろう。

ビョンヨンさんは、木を選び、作り、漆を塗るまで全てを行う。
そういった作家は今ではとても少ないそうだ。

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お茶会は、愛知県犬山市で〈Hosizukiyo星月夜〉というレストランとギャラリーを営む加藤里奈さんをお迎えして行なわれた。
加藤さんが作られるビーガンのお菓子と、韓国在住の茶人・内田良子さんのお茶が、コースとなって出てきた。

ウェルカムドリンクの次に出てきた一皿目は、ダマスクローズのスープのデザート。そして白茶。
豆乳で作られた杏仁豆腐はアマレットを使っているそう。白玉、ライチやタピオカの食感、フルーティーな香りもおもしろい。

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二皿目は、稲穂と藁の実りのデザート。
「捨てるものをなく、食材を全部を使う」というコンセプト。黒米の稲穂を揚げたものがアクセントになっている。カボチャを使ったカタラーナという洋菓子はプリンのよう。色々な仕掛けがあってアイス、カラメルソース…とにかく、たのしい一皿だった。
お抹茶と一緒にいただいた。

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三皿目は、冠茶の揚げ餅と、柿の生八ツ橋。
冠茶は海藻に似た味のお茶らしい。上にのっている豆腐チーズはさっぱり。
八つ橋は、無農薬の干し柿とこしあん、シークワーサーの果肉や皮を使っている。
16種類の生薬の有機穀物茶は、体がスーッと透き通っていくようだった。

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とても素敵な言葉でたくさんお料理とお茶の説明を受けたのに「美味しい!美しい!」という気持ちが溢れてしまって、ちゃんと覚えていられなかったのが、少し残念だ。
お店の健やかで風通しのいい雰囲気と合間って「韓国は秋が一瞬しかない」とよく聞いていたのだが、束の間の秋を満喫できた。

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さあここで少し余談だが、お茶会が始まるまで、私は少しパジュをひとりぶらぶらと歩いた。
その時のことを、少し書き留めてみたい。

まず向かったのは、2021年に開館した〈国立民族博物館坡州〉だ。
ソバンはもちろん、韓国の伝統的な陶芸である白磁、昔の生活が分かるような写真、オリンピックのキャラクターがモチーフとなった焼酎のグラスなどが展示されていた。
展示の仕方が古臭くなく、明るくて気分のいい博物館だ。

お次は「ヘイリ芸術村」をぐるりと散歩。ここは、ギャラリーやレジデンス施設などがありアーティストが集まる村なのだが、想像以上に小さな美術館とカフェが充実していた。
私は音楽を聴くためのカフェ〈カメラタ〉に入ってみた。

パジュに行きたかったのは「出版都市」として有名だからだ。
出版社や製本所や印刷所、レタリングの学校などが集まっている街なのだ。
前日に仕事の打ち合わせでお会いしたスタイリストさんが「明日、私の好きな詩人が、パジュでフリーマーケットをするよ!」と教えてくださったので、その様子をチラ見したり、趣向を凝らした図書館やブックカフェを覗いたり、その近くにある映画施設〈ミョンフィルムセンター〉をうろちょろしたりして、お茶会が終わった後は〈ミメシスミュージアム〉という現代美術館に行った。

photo_Mio Matsuzawa edit_Kei Kawaura

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