丁寧な暮らしとはほど遠い私が、土鍋でご飯を炊くわけ。|前田エマの、日々のモノ選び。#20
数年前から、土鍋で米を炊くのにハマっている。
正直に言うとそれまでは、土鍋で米を炊く人のことを、私とは住む世界の違う人だと思っていた。土鍋で米を炊くようなていねいな暮らしとは、ほど遠い私の生活。土鍋で米を炊くほど、料理に対して情熱も向上心もない私。
しかしある日、母親が土鍋を買ってきた。
仕事の関係で、土鍋で米を炊く教室のようなものに参加したそうで「すっごく簡単に炊けるのよ」と言う。しかし、私はその言葉が信じられない。
「火加減が難しそう」
「ずっと火を見張っていないといけなさそう」
「時間がかかりそう」
そんなイメージでいっぱいだった。しかし、いざやってみるとものすごく簡単だったので、ここで紹介したい。
〜土鍋で米を炊く・1合の場合〜
1. 米1合(150グラム)を研ぐ。土鍋に移し、1カップ分(200ml(200cc))の水を入れ、米に浸透させる。(私は朝のうちにこの作業を終わらせておき、夜、帰宅してから炊き始める。最低でも30分くらいは水を浸透させておきたい)
2. 土鍋の蓋をして、強火で5〜6分ほど火にかける。すると「ぷしゅ〜」っと白く煙をあげ沸騰しはじめるので、その状態の火力で1分ほど沸騰させる。
3. 弱火にして4分ほど火にかける。
4. 火を落として10分ほど蒸らす。
5. 蓋を開け、優しくほぐしてできあがり。
土鍋の種類によって多少の時間の違いはあるだろうけれど、土鍋を火にかけている時間はたったの10分ほど。
炊飯器のように長時間の保温はできないが、必要な量をその都度炊くというのは、私にとって気分がいい。
保温している間の電気料金を心配する必要もないし、もしも食べきれない分が出た場合は冷凍したり、翌日の朝や昼に簡単な“おじや”やリゾットにすればいい。
土鍋で炊いた米でしか感じられない心の満足感がある気がする。沸騰したときの白い湯気に、テンションが上がる。釜の蓋を開けた時の炊き立ての匂いは、最高。火加減によって、おこげができたりできなかったりする、面白さ。
私が愛用しているのは〈Homeland/ホームランド〉の信楽焼の米炊き釜だ。ころんとしたフォルムがかわいらしく、黒と茶が混ざり合ったような色合いが好きだ。信楽焼では定番の色らしい。つやっとした感じも、私好み。台所にこの土鍋が置いてあるだけで、とても気分が上がる。
〈ホームランド〉の米炊き釜は2種類あって、もうひとつは優しい土のような、やわらかな色。こちらも捨てがたかった。
米を釜で炊くようになると、少し自分が生まれ変わったような気がするから不思議だ。料理を盛り付けるときに、美味しく見えるよう少し気を配るようになったり、台所の掃除を以前よりも頻繁にやるようになったり…。
何かひとつ“美しい”の基準が生活の中に定まるだけで、他のいろいろなことも、その“美しい”に近づけようと、頭のどこかが切り替わるのかもしれない。そうやって“美しい”を揃えていくことが、大人になっていくことなのかもしれないなと、最近感じる。
米を釜で炊く人となった今でも、私はガサツで、大雑把で、適当な人間だ。しかしそれでも、少しずつ何かが変わっていっている。私の次の“美しい”の基準との出合いは、何だろうか。
1992年神奈川県生まれ。東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーの留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。アート、映画、本にまつわるエッセイを雑誌やWEBで寄稿している。2022年、初の小説集『動物になる日』(ミシマ社)を上梓。6月20日に韓国カルチャーガイドブック『アニョハセヨ韓国』(三栄)を刊行。
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