伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第10回 LEARN 2021.12.17

アイドルとしてはもちろん、ラジオパーソナリティとしても大活躍。乃木坂46の山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを、自由に綴ります。

(photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Yu Kuroda)

「かつての私が残した過去問たち」

これまで、場の空気にのまれる経験をたくさんしてきた。実は反対したかったこと、嫌だったこと、好きだったこと。言ってしまったら周りの空気を壊してしまいそうで、自分の内側にたくさんの本音を追いやった。数え切れないほどの不可抗力に絶望して、負の感情を味わうたびにモヤモヤしていた。心をすり減らされて、時間まで奪われているのに、のまれた側だけが耐えて結局何も解決しないなんて、やるせない。

そこで、うまくかわすにはどうしたら良かったのか、考えるようになった。面倒に向き合いつつ、今後への対策を練っておく。それは実践ありきの貴重な副産物だし、むしろ回収しないともったいない。
かといって、頭の中だけでやろうとしたら、プシューと音を立てて湯気が出そうになった。頭一つでさばくには複雑すぎる。だから、ほとぼりが冷めた真夜中にノートを開いて、何がどうだったのかを静かに振り返る時間を作った。

書く作業には二つの作用がある。一つは自己整理、もう一つは、くすぶる念のお焚き上げみたいな作用だ。どうして殺気立っているのか、どうして落ち込んでいるのか、どうして迷っているのかなどと、心のゆらぎを簡潔に言語化しながら、ノートに箇条書きすることにした。ずーっと自分を見つめ直すことは、正直しんどい。それでも、あるがままを否定すると前に進めない。だから、知恵の輪のように絡まってしまった脳内を、少しずつほどいてみることにした。すると、平静を保てなくなってしまった原因と経緯が見えてきて、光が差したような気がした。
私は、自分の中で迷子になった時、書くことによって現在地を確認してきたのだ。感情を細かく言語化できる人はストレス耐性が高いという研究もあるらしく、たしかに噂や仮説に怯えなくなったし、外部からの刺激に機嫌を左右されることもなくなった。そして、人から何かを教わったり、仕事のアイデアを思いついた時も、同じノートに書き込むようになった。安らげる場所は、紙の上だった。

過去の自分が書いたノートは、すべて残してある。読み返すと、不条理をしっかり真正面から食らっているのが、あまりに不器用で抱きしめたくなった。鋭利な感情は鋭利なまま、過去に取り憑かれ、未来が見えない内容が多かった。生き辛さを抱えたまま、どうにか冷静に現状を分析して、どうするべきか問うていた。
そうして残された過去問たちのおかげで、負のループからの脱出方法がいくつか身についている。あの夜、もう頑張れなくなった私のために綴った言葉は、今も私の心強い味方だ。

とはいえ、安らげる場所が、紙の上のままだけで良いとも思っていない。そもそも、安心できる存在が、場所なのか人なのかモノなのか概念なのか、今でもよく分からずにいる。でも、あれやりたい、これやりたいであふれている日常には、空気にのまれる側の私はもういない。

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