『誕生日休暇2026〜沖縄編〜』| 「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第81回
都会に住んでいると、自然そのものを忘れて生きているように感じるときがある。夜空に月と金星と木星が並んでいたり、川でヘビが泳いでいるのを見かけたりすると、めずらしい光景を見かけたような気になる。だけどそんな感覚はもちろん都会に住んでいる人間の傲慢であって、むしろ自然の方がずっと前からあるのだ。私が普段出会わないから、あるいは気にしないから、想像できていないだけで。

5月下旬の沖縄滞在。初日の日中は那覇で遊び、夕方からは今帰仁村(なきじんそん)の宿を拠点にして過ごした。梅雨の真っ只中だったが、そうとは思えないほど見事な晴れにも恵まれた。番組ロケのたびに「私、大事な日に雨降ったことないんです!!」という謎の主張してきたのだが、休日にも晴れ女を発揮できて誇らしい気持ちに。こういう迷信は日頃の善行が功を奏すると思うので、日常に戻ったらまたコツコツと徳を積んでいこう。
沈んでいく太陽に合わせてどんどん色を変えていく海。深く沈むような濃紺のビロードに、無数の砕いた水晶をちりばめたかのような夜空。アラームをかけずに眠りに落ち、ふと目を覚まして外に出ると、上空にはまだ夜空の静寂を残す深い青が広がり、そこから地平線に向かって息を吹き返すように燃え上がる鮮やかな黄金色に染め上がっている。その手前に広がる木々は深い闇をまとい、力強くうねりながら絡み合う枝葉のシルエットが、奥で輝く朝焼けの色彩をより一層際立たせる額縁のようにくっきりと浮かび上がっていた。



二度寝から目覚め、一杯の月桃茶から始まる朝食をいただいた。しばらく部屋でくつろぎ、今度は宿のご主人に案内されるがまま、土地勘のない人間が下手に入ると迷子になりそうな沢へ。マリンシューズ越しに感じる水の冷たさが心地よく、道なき道をザブザブ進んでいく。
どうしてこの姿になったのかまるで想像がつかないような草木たちに気を取られていると、せせらぎの音色が変わり、深い緑の奥から滝壺が現れた。黒々とした岩肌を縫うように流れ落ちる一筋の滝。周囲にはシダなどの亜熱帯特有の植物が生い茂り、水飛沫が小さくきらきらと輝く。どこまでも澄み切っていて、荘厳で、神秘的な空間が広がっていた。

普段よりも多めに歩いて日差しを浴びた分、宿で昼寝をして、次は海へ。広大な海原を目の前にすれば胸がときめき、まっすぐ伸びる水平線に心が穏やかになる。自然は本来の自分らしさを思い出させるように、余計な感情を洗い流してくれる。それと引き換えに小さなことを気にしない大らかさを得て、海の中へと突き進んだ。海と空の境界線がどこまでも続く。青、蒼、碧、藍、紺、群青、瑠璃、水色。英語の「blue」にあたる日本の言葉や色名は非常に多く存在するが、沖縄の自然が織りなす青の豊富さに驚いた。
生まれてこの方インドアで、趣味も室内で完結するようなものばかり通ってきた。海辺に住む親戚の家に行っても決して水中に入ろうとせず、砂浜で黙々と貝殻を拾っていた。そんな人間が、29歳にもなって自ら浸かりに行くなんて。そしてこんなにも気持ち良いなんて。海なんか入ったら肌かゆくなるし〜、髪もキシキシするし〜、水着も面倒だし〜、なんて舐め腐った理由を付けて自然豊かな場所に近づこうとしなかった過去の自分を引っ叩きたい。
お腹がすいたら食べ、眠くなったら眠り、自然に触れたくなったら動く。欲のままに毎日たらたら過ごしていたつもりだったが、宿主のご夫婦から「こんなにアクティブに過ごすのは山崎さんたちくらいですよ、体力ありますね」と言われた。普段都会で忙しなく生きているからか全くアクティブなつもりがなかったが、本当に豊かな「たらたら」はもっと虚無の中にあり、それもまた贅沢な時間なのだろう。
「日頃インターネットばかりしている人間が地球に放たれた図」を一緒に行った相方とたくさん記録し合っていたのだが、どの写真も本当に穏やかな顔で写っていた。夕食の予定時刻に大量の羽蟻が結婚飛行を始めてしまい開始を遅らせたり、早起きをして野生のヤンバルクイナの親子を見に行ったりと、自然の摂理の中で生きているうちに日頃の鬱々とした気持ちが無駄に思えて来るからだろうか。

でも、普段見かけないものを、私たちは簡単に想像できなくなる。また忘れてしまう前に、自然に溶け込みに行き、穏やかさを取り戻さなければ。今帰仁はそう思わせてくれる場所だった。
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