言いたいコト、書きたいコトバ…混じり気ナシ! 弘中綾香の「純度100%」~第8回~ LEARN 2019.08.09

ひろなかあやか…勤務地、六本木。職業、アナウンサー。テレビという華やかな世界に身を置き、日々働きながら感じる喜怒哀楽の数々を、自分自身の言葉で書き綴る本連載。第8回は救われた言葉について。

「期待は身勝手」

 モットーも座右の銘もルーティンもないが、私には心掛けていることがある。決して誰かに期待しないこと。他人からの期待と自分を切り離すこと。これだけは常日頃心に留めている。
 もともとは私、期待に応えることがモチベーションのすべてだった。特に小さい頃は、周りからの期待や希望を言葉の端から察知して、先回りして自ら選ぶような子どもだった。学校も部活も習い事も、今思えば本当に自分がやりたいものだったのか分からない。就職だってそう。まさか自分がアナウンサーとして受かるなんて夢にも思わなかった。大変な仕事というのは分かっていたし、何の準備もしていない自分にそんな役目が務まるのかも、心底自信がなかった。どこにでもいる、何者でもない大学生だったから。家族からも出来るはずない、と反対された。けれども、テレビの世界の第一線で働いている人たちが自分の伸びしろに期待してくれているんだ、と思ったら、その期待に応えたいという気持ちになった。だから入社を決心した。

 そんな私が期待に応えること、そして期待することをやめたわけ。それは、「期待していない」と言われたことで救われた自分がいたから。

 私にその言葉を言ったのは『ミュージックステーション』の名物プロデューサー。音楽業界で彼の名前を知らない人はいないだろう。番組を30年以上支えている。そんな彼に、私がMステを担当することが決まってからおそるおそる自己紹介のメールを送ったときのことだ。選ばれたうれしさ、そして不安、でも精一杯頑張らせていただきたい、ということを私なりに伝えた。間もなくして返信が来た。そこには、「今のお前には、何も期待していない。何もできないよ。」と、書いてあった。

 期待を受けてそれに応えることがすべてだった私には、この言葉の理解に苦しんだ。どういうことか、さっぱり分からなかった。フリーズした。怒らせたの私?へ?挨拶しただけだけど。こわ。けれども、そのメールは「期待していないから、気にせず、そのままでいればいいんだよ」と続いていた
 何だか、知らず知らずのうちに背負っていたものがスッと取れた気がした。「そのままでいい」とは、なんという魔法の言葉なんだ。今までずっと誰かの「理想とする私」像を超えることがすべてだった。そのままの私でいいなんて。面食らった。有難かった。きっと真意は、まだ素人に毛が生えたような新入社員が小手先で背伸びしてそれらしくやっても見透かされるから、無理に繕うな、ということだと思う。
 でもこの言葉があったから、私はあの番組を5年間、担当できたのだと思う。いつも、ただ音楽を楽しむためだけに、あの席に座っていた。ありのままの自分で。

 期待は、身勝手。「期待しているよ」なんて、たやすく言わないでください。言われたら、聞き流してください。いいんです、人の期待に応えなくて。
 また、自分自身への期待が重くのしかかるときもあります。そんなときには「そのままでいいよ」と、自分に言ってあげてください。

Photo:moron_non
Photo:moron_non

(次回は8月23日更新予定)

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