【横浜】実はアレの発祥地。〈ホテルニューグランド〉が愛され続ける理由。

国内に点在するクラシックホテルの中でも〈ホテルニューグランド〉は特別な存在だ。1927(昭和2)年に開業した本館を、建て替えることなく今も大切に受け継ぐ白亜の洋館は、横浜市民に慕われる街のランドマーク。いつも変わらずそこにある安心感とともに、訪れるたび、新たな発見がある。

たとえば2024年4月には、本館から徒歩1分の場所にホテル初となる直営ショップ〈S.Weil byHOTEL NEW GRAND〉をオープン。初代総料理長、サリー・ワイル氏の弟子・大谷長吉氏が1951年に創業した洋菓子店〈エスワイル〉の名を蘇らせ、当時の看板商品をモダンに再構築した「モカルーロ」は、コーヒー風味のバタークリームを薄く巻き上げたクラシカルな佇まいも相まって、シグネチャーとして浸透中だ。

パッケージデザインも新調し、クッキー缶など手土産にぴったりな新アイテムをはじめ、ホテルメイドのパンや焼菓子、コーヒー好きだったワイル氏にちなんだオリジナルブレンドのコーヒー豆など幅広い品が揃う。もともとシーフードドリアやスパゲッティ ナポリタンなど発祥メニューがあり、「食のニューグランド」と謳(うた)われるこのホテルにふさわしい、胸躍るラインナップだ。


もう一つ、新たな取り組みとして2022年からスタートしたのが「ニューグランドマイスター」制度。ホテルの歴史やエピソードを熟知した、深い知識を有する者に与えられる称号で、現在マイスターバッジを付けるのは21名。このマイスターによる館内ツアー付き宿泊プランやレストランのプランも展開中だ。

「たとえばバー〈シーガーディアンⅡ〉には、横浜の美しい夕焼けや1989年の横浜博覧会にちなんだカクテルがありますし、隠れた定番デザートや朝食など、泊まっても泊まらずとも楽しめる魅力をご紹介したいです」とは、マイスターの一人、コンシェルジュの喜田晴香さん。


そして〈銀座和光〉などを手がけた建築家・渡辺仁氏による本館も、マイスターと一緒に巡ることでより解像度が増していく。関東大震災で焼失した横浜の復興の象徴としてホテルが建設され、フェニックス(不死鳥)がモチーフとして随所に描かれていること。またイタリアで焼き上げたタイルを使用した、アールを描く大階段の優美さや、開業時から使われる2階「ザ・ロビー」の横浜家具たち。中でも〝触れると幸運が訪れる〞というジンクスを持つ天使の彫刻が施されたマホガニー製チェアなど、細部まで時代を垣間見る物語が息づいている。


「復興のシンボルとして、世界中の客人をお迎えするため開業したのが当ホテル。横浜の街とともに歩んできた月日こそ唯一無二の財産です」(喜田さん)

マイスターとの会話で感じたのは、老舗の伝統を守りながらも堅苦しくなくアップデートする、しなやかな精神だ。

「もともと世界中から横浜港に届く文化をフランクに受け入れ、柔軟に進化させてきたのが港町である横浜らしさ。その歴史があるからこそでしょう」と喜田さん。だからいつ訪れても懐かしく、次へと繋ぐストーリーがある。そこが老舗ホテルの鑑(かがみ)といわれる所以(ゆえん)なのだろう。
住所:神奈川県中区山下町10
TEL:045-681-1841
客室数:全230室
1927(昭和2)年開業、圧巻の大階段が出迎える本館が横浜市認定歴史的建造物に指定される、屈指のクラシックホテル。ドリアやスパゲッティ ナポリタンなど発祥メニューを持ち日本の洋食の礎ともなる存在。
住所:神奈川県横浜市中区山下町31-7 1F
TEL:045-681-1841
営業時間:10:00~19:00
定休日:無休
初代総料理長、サリー・ワイル氏の弟子が1951年に開業した洋菓子店から店名を受け継ぎ誕生した直営ショップ。看板のモカルーロやホテル製の焼菓子やパンなど、早くも横浜の新手土産に。