気づけば“好き” の真ん中にいた。自分の心に耳を澄ませることの大切さを知って

気づけば“好き” の真ん中にいた。自分の心に耳を澄ませることの大切さを知って
私が、私を好きであるためにしていることVol.3
気づけば“好き” の真ん中にいた。自分の心に耳を澄ませることの大切さを知って
LEARN 2025.05.29
人生を歩んでいくなかでちょっとずつ感じる、環境や心の変化。その壁が立ちはだかったとき、“自分はこれでいいんだ”と胸を張って生きていくには、どうすればいいのだろうか。他者との比較ではなく、自分を愛するため、肯定するためにしている趣味、仕事、考え方を見い出し、輝き続けている人たちを温かく追っていきます。第3回は、アロマ空間デザイナーとして活躍する石井保子さんにインタビュー。
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石井保子
石井保子
〈IRiS Tokyo inc.〉代表、アロマ空間デザイナー

いしい・やすこ/ブライダル、ホテル業界、オーガニック&ナチュラルコスメを提案する会社などを経て、独立。2018年に〈IRiS Tokyo inc.〉を設立し、アロマ空間デザイナーとしてワークショップなどのイベント企画や商品開発、ホテルなどの心地よい空間デザインやウェルネスを軸としたライフスタイルを提案する。Instagram:@yacco_ishii

「何の香り?」が成功の証。目に見えないものに記憶、思い出、ストーリーをのせて

アロマ空間デザイナーをしています」と太陽のような明るい笑顔で自己紹介をしてくれたのは、石井保子さん。ウェディングプランナー、ホテルスタッフ、ナチュラルコスメのPRなど、華のあるキャリアウーマン業なるものを経て辿り着いたのが、この肩書きだった。一体どんな仕事なのだろう。

「“空間を演出するための香りをデザインする仕事”と思われがちなのですが、私の場合は香りづくりだけが目的ではないんです。

あくまでも香りは、プロデュースする空間に付加価値を付けるためのツールのひとつ。香りの先にあるもの、空間と人、ストーリーを繋げていくことが私の役目だと思っています。

五感の中でも、嗅覚は本能的にダイレクトに伝わって記憶に残る感覚。実は私がこの仕事を目指したのも、箱根旅行で宿泊した老舗ホテルの空間の香りに魅了されたから。

世の中は便利なものに溢れていますが、作られるまでのストーリーや感情まで動かせるものにも魅力を感じると思います。香り=リフレッシュ、リラックスという固定概念に縛られず、ふと『何の香りだろう?』と心に残り、思い起こしたときに、それがそっと思い出に変わっていく・・・そんな力が香りにはあるように思うんです」

目に見えないものに価値を付けるのは難しい。しかし石井さんは、アートや音楽など空間的なデザイン要素も組み合わせて、香りを新しい価値へと生み出すことに面白さを感じているところだ。そしてある時はホテルスタッフ、ある時はブライダルスタッフの目線になって考えたり…これまでの経験もしっかり生きている。

「ウェディングプランナー時代、人に伝えるときは色をつけて話せるようにと教わってから、“おしゃれな結婚式をやりたい!”とフワッとした要望でも具体的なイメージに落とし込めるように、手作りカタログを常に持ち歩いていました。この経験はかなり今に繋がっていて、香りも目に見えないものなのでイメージに近い画像や色などを必ず添えて、想像を膨らませられるように提案しています」

これまで石井さんがプロデュースした仕事の一例

「食×香り」の空間演出 
沖縄〈Southwest Grand Hotel〉のホテルエントランス、パウダールームに2種の香りをデザイン。沖縄の特産物“シークワーサー”の精油を使用し、レストランに隣接するパウダールームには、ブラックペッパー、カルダモンの精油をブレンドして“食欲をそそる香り”を表現。

「宇宙×香り」の空間演出(プロジェクト進行中)
宇宙生活の課題から宇宙と地上双方の暮らしをより良くするプラットホーム「THINK SPACE LIFE」に参画。主に宇宙・地上双方で活用できる睡眠の質を向上する循環型機能性商品(アロマ入りアイマスクなど)を開発。嗅覚を含めた五感にアプローチするリラックス空間創出の総合プロデュースも行う。

自分を俯瞰してみると気づいた、好きを仕事にするというリスク。

石井さんは、アロマ空間デザイナー以外にもヨガインストラクターメディテーションコーチ(日本瞑想協会認定コーチ)などの資格も取得。会社員時代に培った経験や気づきが、次第に自分らしい働き方を考えるきっかけとなり、のちに独立への後押しとなるきっかけになったようだ。

「振り返ってみると、企業に属していた頃は、やりがいを感じる反面、自分の役割以上に多くのことが求められる日々に、心も体も限界になることや、立ち位置が上になればなるほど、上下のバランスに悩んだりすることも多々ありました。

そんなとき、気分転換で通い始めたヨガのレッスンで出会った先生が、生き生きと楽しそうに見えたのが印象的で、「この人といると元気が出るし、なんだか気持ちが軽くなるな」と感じて。私も誰かにとってそんな存在になれたらいいなと思ったんです。

当時は、インストラクターになれたら自分もヨガを学べるし、人も幸せにできるのでは…という気持ちで資格を取りましたが、きっとそれはほんの建前。本音は自分に自信を持てず、何か自分の存在を認めてもらえる肩書きが欲しかったんだと思います」

それでもメンタル面での支えにつながり、自分を俯瞰してみれるようになってからは気持ちが楽になったという。

資格をきっかけに学びが増えたことで、考え方が変わりました。昔ほど着飾ることは無くなって、あくまでも自分は自分と潔く割り切れるように。

そんな心境の変化が訪れた頃、自然と“香り”で空間をデザインする仕事への道が開けました。決して遠回りではなく、今までの仕事や経験がしっかりアウトプットされて好きな仕事へと繋がっている気がします。

でも正直、好きなことを仕事にするって、楽しさとしんどさの紙一重なんです。いくら好きなことでも、見えないプレッシャーや不安に押されたり、周囲の雑音に心がざわついたり…。気持ちがついてこない中で、『やらなきゃ・・・』と自分を奮い立たせることも。

自分で選んだ道だしやるしかない!と気合いを入れる時もありますが、悩んだ時には同じ経営者の立場の方や自分にはない価値観を持った人と交流する機会を設けています。色々な方とのお話やアドバイスを通して、自分がどうしたいのか、大切にしたいもの、譲れないものが明確になるんです」

ときめくものには素直に。自分の心も好きな香りも、“本能”で感じるものだった

“好き”を強みに変えて、自分のペースで着実に、自分らしく向き合う石井さん。プライベートの日には何をしているのか、趣味について聞いてみると「ありません!(笑)」と、ここでも彼女らしい潔い回答が。

「無趣味というわけではなく、その時の自分が興味を持っていること、ワクワクしているものへ惜しまず注ぎ込んでいます。元々、好奇心旺盛なので(笑)。最近だと作業に集中したい時にスイッチが入るカフェを探していて、良い場所を見つけました。

メディテーションコーチの資格を勉強していた時、ある先生に『ストレスは過去のトラウマや未来への不安からきているもの。それは、“今”に意識が向いていない状態なんですよ』と言われた時にハッとしました。

今を生きるということは、心が動く瞬間に気づき、行動に移すことだと。香りも体調や時期で好みが変わるように、いまの自分の心に耳を澄ませて素直になれば良いんだと。

今まで趣味は持ってなきゃいけないと思っていましたが、焦ると何も見つからないんですよね。それよりも、趣味に出合うためにアンテナを高く張って、触れる瞬間を作ってあげられる自分でいることの方が大切なことに気がつきました。

続けていく中で、段々楽しいと思えるものが、結果趣味につながるはず。その瞬間を私はまだ待っているところかな?」

仕事でもプライベートでも、好きなものには貪欲に。でも愛のある接し方自分のあらゆる可能性を見いだしていた石井さん。彼女の持ち前の明るさと逞しい行動力に、私たちも自然と心を動かされていた。

石井さんがときめく、お気に入りアイテム5選

パロサントWHOLE TREE
主に南米で育つ、野生の香木。スッとする香りが特徴のエクアドル産と、甘い香りのペルー産の2種。家ではあまり香りのするものは置かないが、パロサントはシーンによって使い分け。

バスソルトSHIGETA PARIS
仕事が落ち着いて、湯船に浸かるようになってから使い始めたアイテム。朝までぐっすり寝られる。いつか自分でも作りたい!

ノートロメオ Wリングノート
〈itoya〉で見つけた、打ち合わせの必需品。サイズ感、書きやすい方眼紙の質、色やデザインもお気に入り。字を書くことで思考も整理できて、自然と集中力も高まっていく。

サングラスBLANC
自分のアイコン的存在。全体は白の縁で、先セル(耳にかかる部分)の片方の先だけ色が違うのがお気に入り。香りと一緒で、ちょっとした魅力やこだわり、ストーリーにキュンとする。

グリーンのアイテム
自分のモチベーションをあげてくれる色。主に名刺入れ、横書きのスケジュール帳、ボールペンなど仕事に使うアイテムが多め。

photo_Takaki Yamawaki(cheki) Kanta Torihata text_Ami Hanashima

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