月岡ツキさん特別寄稿「あの日の体育館から取り戻したいもの」


つきおか・つき/会社員として週3勤務しながら、ライター・コラムニストとして活動。ポッドキャスト『となりの芝生はソーブルー』ではDINKs(仮)の〝つっきー〞として配信中。
様々な側面から「産む産まない問題」を綴った初のエッセイ集『産む気もないのに生理かよ!』。1,760円(飛鳥新社)。
「みんなが将来お母さんになる時のために、女性の身体のことを知っておきましょう」
いつもより神妙な面持ちの先生が、そんな言葉とともに始める〝特別な〞授業。いま31歳の私が小学生だった頃、性教育はまだ男女別に行われるスタイルだった。
私たち女子は体育館に集められ、冷たい床の上で体育座りをしながら、生理についてのビデオを見た記憶がある。「ヒトがどうやって妊娠するのか」は結局ぼやかされていてよくわからなかったが、「生理は赤ちゃんを育てる子宮のベッドが毎月剥がれ落ちるもの」ということを教えられ、みんなにナプキンのサンプルが配られて終わった。
教室に戻ると、男子たちは自習をしていた。私がもらったナプキンをランドセルのポケットにサッとしまうのを目ざとく見つけた前の席のヤマシタ君が、「なんの話してたの?オンナは将来赤ちゃん産むって話?」とデカい声で話しかけてきた。こいつうるせーなと思いながらも(私も将来〝赤ちゃん産む〞んだろうか)とボンヤリ考えて、でも全然想像がつかなすぎて、なんだか別の誰かの話みたいだな、と感じたのを覚えている。
それから程なくして生理が来て、生理歴は20年選手になる。「ヒトの妊娠方法」はスーパーの本コーナーにある女性向けコミック誌の立ち読みによって把握した。10代で付き合った彼氏が「避妊しなくても妊娠しないって友達が言ってた」と言い出したのに対して、嫌われたくなかったけれどなんとか頑張ってガラケーで色々調べながら反論したり(その後破局)、20代で付き合った彼氏が泊まりの際コンドームを持っていないと判明し、「今すぐそこのコンビニで買ってこい」とパンイチの相手に向かって抵抗したり(その後破局)してきた。

PMSが重くてずっとしんどくていろいろ試した末、20代の終わりに自分に合う低用量ピルをようやく見つけた。自分に適したナプキンも頭痛薬も不調への対処法も、自分を守るための戦い方も、全部自分で見つけてきた。その都度悩んで考えて、傷つきながら。だって誰も教えてくれなかったから。
私たちの身体に起こる様々なことは「お母さんになるため」の機能に起因している。けれど私はまだ「お母さんになる」とは、決めてない。私が自分を守るのも、痛いのや辛いのをなんとか取り除こうとするのも、「将来お母さんになるため」じゃない。私のためだ。
30代のいま、「将来の妊娠や出産のことを考えて、○○しましょう」という言説によく触れる。やっぱりうるせーなと思う。私の身体は、私のものだ。何かを生み出す機械じゃない。不調や病気を良くするのは、他でもない私が元気に生きて、どんな選択でも自由に選び取れるようにするためではなかったか。
私はいまからでも「性教育」を私たちの手に取り戻したい。誰かや何かのためじゃない、私たちの人生のために。あの体育館の冷たい床から、もっと温かい場所へ私たちを連れ出してあげるために。