東京喫茶店研究所二代目所長・難波里奈さんがナビゲート。 今、行っておきたい、文化遺産的喫茶店。#1
難波流・喫茶店の楽しみ方とは? FOOD 2023.05.15

次々と消えつつある、古き良き昭和の純喫茶。店が紡いできた歴史と物語、人々の想いこそ、「文化遺産」そのものだ。今回は、東京喫茶店研究所二代目所長・難波里奈さんが、お気に入りの一軒とともに喫茶店の楽しみ方を伝授!

何もかもが愛おしい。めくるめく純喫茶の世界。

お気に入りの一軒〈喫茶 クラウン〉にて。「お店の方の人生を懸けた情熱が伝わってきます」と難波さん。
お気に入りの一軒〈喫茶 クラウン〉にて。「お店の方の人生を懸けた情熱が伝わってきます」と難波さん。

まるでホテルのロビーと見紛うほどゴージャスなクリスタルシャンデリア。3階から吊るされたそれを見上げ、「すごいですよね」と感嘆の声を漏らした難波里奈さん。東京駅から電車で約30分。埼玉県の蕨駅から徒歩3分の場所で昭和35年から店を構える〈クラウン〉は、彼女のお気に入りの一軒だ。
「螺旋階段、照明、天井のタイルに波打つ壁。どこを切り取っても、オーナーがこの店に託した想いが伝わってきませんか」
そう言って優しい笑みを浮かべる。にわかに盛り上がりを見せる純喫茶ブーム。その開拓者ともいわれる難波さんだけに、愛は深い。改めてその魅力を聞いてみると...。
「純喫茶の多くは個人店です。企業ではない一個人が“一生を懸けてやる店だ”と、開いたわけです。どんなに小さな空間でも、そこには人生を懸けた物語が詰まっている。そこに惹かれます」
確かに、シンプルで無駄のない画一的なデザインとは真逆。店ごとに炸裂する個性豊かな世界こそ、純喫茶の最大の特徴かもしれない。ちなみに、カフェと純喫茶の違いだが、厳密には飲食店営業許可と喫茶店営業許可、どちらを取得しているかで調理できる料理や提供できるドリンクが異なる。でも、あくまでも法律上の違いであって、アルコールを提供する純喫茶もあるし、手の込んだ料理が人気の店もある。難波さんは2000軒以上を訪れた経験から、「直感で」判断しているそう。最近は閉店した空間を引き継ぐ人も多いが、掲げる看板は同じでも、人が替わればそれは“別物”だと難波さんは感じている。
「人が替わった時点で、それは第二章のスタート。そこからまた歴史が始まるんです。でも、店の看板を継承していくのは素晴らしいこと。素敵な空間がそのまま残ることもうれしいです」
今回、難波さんが教えてくれた店は全部で29軒。店主の高齢化に加え、家賃の高騰やビルの建て替えなどもあり、廃業する純喫茶も増えている。行っておくなら、早い方がよさそうだ。「みなさんが住む街にも、きっと隠れた名店があるはず。ぜひ、お気に入りを見つけて、その空間に浸ってみてくださいね」

How to enjoy #1
すぐに中には入らず、 外観をじっくり観察。

「まずは遠目から全体を把握。次に店名のフォントや看板を眺め、少しずつ距離を縮めます。店頭の食品サンプルは開店当時のままのことが多く、現在はもうないメニューがそのまま残っていることも。実際のメニューと比べ、移り変わりを知るのも楽しいです」

How to enjoy #2
入り口から一番遠い端の席に座り、店内の雰囲気を味わう。

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「私にとっての特等席は、店全体が眺められる場所。“お好きな席へどうぞ”と案内されたなら、迷わず最奥へと進みます。お客さんたちとお店の方々の日常に目をやり、そのやり取りから、関係性を想像したり。店に流れる空気を味わいます」

How to enjoy #3
その日の気分に合ったフード&ドリンクをオーダー。

「郊外のお店など、またすぐに来られないお店では、つい頼みすぎてしまうことも。オムライスにサンドイッチ、パフェにクリームソーダーまで、一度に注文したこともあります(笑)」。

How to enjoy #4
建築、照明、インテリアをゆっくり愛でる。

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「パープルが華やかなパーテーションに、波打つ壁や照明に至るまで。どれも替えがきかないものばかり。それらを眺めるだけでも、愛おしい気持ちに。たとえ有名デザイナーによるものではないとしても、当時設計されたものは今見てもモダンなデザインばかり」

How to enjoy #5
タイミングを見計らって、お店の人と話す。

「純喫茶の魅力が凝縮した、素敵なお店ですね」と難波さん。
「純喫茶の魅力が凝縮した、素敵なお店ですね」と難波さん。

「ご両親から店を引き継いだ〈クラウン〉のマダム、本多和代さんによると、開店当時、建物の斬新さが話題となり、こちらで結婚式をあげた方もいたそう。入り口には噴水もあり、螺旋階段から下りて来る二人は美しかったことでしょうね」

photo:Kenya Abe, Chihiro Oshima, Natsumi Kakuto text:Wako Kaneshiro, Moe Tokai, Ami Hanashima, Yoshie Chokki edit:Yoshie Chokki

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