第1回 誰かの住む街と菓子 大崎〜五反田 『 朝と、昼と、夜のスイーツ 』 FOOD 2022.07.23

写真家の高野ユリカさんが写真と文で綴る新連載。街や建築についてのお仕事をフィールドワークとする高野さんが、街を歩いて見つけたスイーツを切り口に‶街と菓子”を語ります。

典型的なコンクリートの四角い箱が立ち並ぶタワマン・オフィス街。ビルの下をいろいろな人たちが行き交っている。
典型的なコンクリートの四角い箱が立ち並ぶタワマン・オフィス街。ビルの下をいろいろな人たちが行き交っている。

目的がない散歩が、私は案外苦手だ。
本屋に行くから、郵便物を出しに行かなければだから...。そんな小さな理由でも作らないと、撮影で出張が多いためか、あまりに家が好きす ぎて私用で玄関のドアを開ける気にはならない。それでもなんとか外に 出る理由のひとつに「あの街の喫茶店のプリンが食べたい、あの街のあのドーナツが食べたい」と、菓子を目的で出かけることは、意外と多いことに気づいた。なので、私が出かける理由になる菓子とその街について綴ってみることにする。

平日の朝の東京豆漿生活一帯の空気は気持ちいい。大崎〜五反田間の 角地に突如現れる台湾の朝。木に覆われた謎の外観。ここは台湾の路地の朝ごはん屋? というくらい地元の人と思われる出勤前のお客さんたちが入れ代わり立ち代わり出入りしている。さくっと「花生餅(ピーナッツモチ)」(ピーナツがすりつぶされたほろほろの自然の甘み〜)や「胡麻餅(ごまもち)」(薄皮饅頭のあんこ並みに高密度で隅々までずっしり)を頬張る。朝の甘いものとあったかい豆乳の染み入る優しさ。片手でパクッと食べれ る大きさなので子連れのお母さんがさっと子に食べさせ片付けて、颯爽と自転車の後ろに乗せて去っていった。こんな朝の風景が見られる角地の店がある街に住んだら、毎日仕事頑張れそう。

五反田といえば大人の歓楽街がある街だけれど、 日中はまだその気配をそっと潜めてる。その歓楽街 を抜けると大崎方面へ。すぐ山側に清泉女子大学(!)、相反する要素が隣り合わせの五反田の街の底知れなさよ。そのうちにいつの間にか高層オフィス ビルとタワーマンションの乱立するサラリーマンタウン大崎に到着。見渡す限りの無機質なグレーで結構退屈。味しなそう。そんな中に紛れた大崎の民のオアシス〈CAFE & HALL Ours〉に入ってお昼休憩してみる。キャロットケーキ(人参入りのしっとりめな生地の上にほんのりレモンの酸味の白いクリームチーズ。栄養満点でボリュームもあるのでお昼ごはんにもな りそう。花が散らされた可憐さはケースの外から見て一目惚れ...写真を 撮っていると外見で選びがち)とプリン(しっかり卵感のある固めで濃厚な味。カラメルもしっかり苦めで嬉しい。垂直立ちミント)をお供に、窓際の席から外を眺めていると思ったよりもグレーじゃないことに気づく。ベビーカーを押すお母さん、走り回る配達員さん、ATM に入る男性、休憩中の気怠そうなOLさん、お昼休みは結構やることがたくさんあるよね。プリンの固さをスプーンの先で崩しながら、その人たちの用事の先を想像してみる。

夜にはがらっと変わる五反田駅前。ここで夜のスイーツとは一体...と若干不安になりつつ、飲み屋の多い通りへ戻ると一度見たら忘れられないほど大きな暖簾の店〈そのだ〉が…! 風になびいてゆっくりと漂う、夢とうつつの間のような暖簾。その暖簾をくぐって入った先の白くて明る い店内はふわっと暖簾で包まれた内側のような安心 感のある食堂が広がっているのでした。出てきたの は手塚治虫先生のキャラクターのグラスに注がれた ピンクのバイス(梅? しそ? 風味。想像より全然甘くなくて爽やかで飲めてしまう! 度数が高いので1人3杯まで。シャーベット形状の氷の涼スイーツ感良い〜)と思い出のパタヤサワー!(懐かしの青リンゴ味)可愛い。喫茶店のメロンソーダとベリーソーダみたい。五反田らしい夜のスイーツとさせていただきます。

写真と文 高野ユリカ

こうの・ゆりか/写真家。新潟生まれ。ホンマタカシ氏のアシスタントを経て、2019年に独立。建築、環境、街などの分野を中心に活動。 https://www.yurikakono.com/

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