J SONGBOOK 日本の音楽を学ぼう! 『浜崎あゆみはわたしたちを救ってくれる。』平野紗季子さんとゆっきゅんが語る、初めてのayu。
集まったのはセンター街を抜けたところにある〈渋谷カラ館(カラオケ館渋谷本店)〉。浜崎あゆみフリークとして知られる平野紗季子さんとゆっきゅん。二人が語る、初めてのayu。
スターダムの絶頂でも居場所を探してた。(平野)
ゆ:歌詞を読み込んで聴いていくうちに、ayuはラブソングの人ではないなと気づきました。
平:分かる。
ゆ:ずっと己の孤独を歌っているんです。
平:ayuは自分でも語っていますが、家庭環境が複雑なことも影響して、ずっと居場所探しの旅をしてきた。その先で居場所を見出したのがショウビズの世界。でも、それもまた安住の地ではない。
ゆ:そう。歌手になりたかったわけでもない。やはり「TO BE」ですよね。「誰もが通り過ぎてく気にも止めないどうしようもないそんなガラクタを」って。自分のことガラクタって呼べてしまうayuに凄みを感じます。デビューして世間的な「成功」を重ねても、ここで歌ったような孤独をずっと抱えている人なんです。居場所のなさ。彼女の歌はその気持ちを最初から、そして今も赤裸々にさらけ出しているんです。
平:終わりのない葛藤をずっと歌い続けているんですよね。2000年の初の全国ツアーのライブ映像で「ayuはここにいるんだ。いていいんだ」って口上をするんですけど、もうそれが泣けて泣けて。だって2000年ですよ。あれだけスターダムの絶頂を極めた瞬間に「ここにいていいのかな」って思う!?って。
ゆ:社会に注視される存在になって、そこに自分自身との歪みが生じて。ayuは引き裂かれながらもそれを歌にしているんです。徹底して一個人として生きている。実は全然、共感を重視した作詞ではないと思います。
平:分かりすぎる。もう本当にただ自分に素直なだけなので。
ゆ:「ourselves」で「世界中の誰も知らないけれどたったひとりあなただけに見せている」と歌っていますが、普通の人の恋愛って「誰も知らない」が当たり前なんですよね。「世界中の人に知られている恋愛」になってしまうのはあなたがayuだからなので……。彼女の歌は彼女でしかないんです。
平:私は中学2年生の自由研究で「浜崎あゆみ」をテーマに据えたんです。ちょうどayuがアルバム『MYSTORY』をリリースした頃。
ゆ:でた、名盤。
平:そう。もうタイトルからしてそうなんですが自伝的な超大作で。
ゆ:あれはayuの大河ドラマです。
平:その収録曲の中でayuは「僕は君へと君は誰かに伝えて欲しいひとりじゃないと」(「Replace」)って歌っているんです。ayuはファーストアルバムで「一人きりで生まれて一人きりで生きて行く」って歌ってたのに……。
ゆ:『ASongfor ××』。
平:そう。ずっと一人きりだと思ってたけどアルバム6枚目にして、やっと一人じゃないって思えたんだというのが衝撃でした。人って変われるんだって感動したんですよね。だから、自由研究では「浜崎あゆみはこの世界の闇とそこに差す一筋の光だ」と締めくくっています。彼女が傷つきながら試行錯誤して見つけたもの、生き様そのものが一筋の光になって私を照らしている。そのことにティーン紗季子はどれだけ救われたことか。
ゆ:私にとってayuは孤独のカリスマです。結局不器用なところが愛おしいですよね。葛藤に次ぐ葛藤、一つの正解にはたどり着かない。曲によっては矛盾した感情も歌われている。でも、それってめちゃくちゃ人間らしい。心を使って生きていればどんな感情になる時もあるし。でもそこに「浜崎あゆみだから」という芯が通っている。矛盾があったって、不器用だっていい、そしてそれを歌っていい。自分の人生の主人公は自分でいいんだってことをここまではっきり歌ってくれた人はいないんです。
平:そうなの〜(泣)。
背中を押してもらってきた。大人になってからもそう。(平野)
ゆ:自分は誰だ、自分は孤独だ、分かってもらえない、でも君だけにはどうか……、そんな個人的な感情をこんな大々的に、たくさんの人の前で、めちゃくちゃギラギラとしたエンターテインメントとして魅せるしかなかったお姫さま。でも、それは全然大げさなことじゃないんだよって教えてくれて、救われている人がたくさんいると思います。
平:だから、ayuだって戦ってるんだ、と思うと、頑張りどきが増えるんだよね。「SURREAL」の「背負う覚悟の分だけ可能性を手にしてる」には本当に背中を押してもらってきた。大人になってからもそう。
ゆ:本当に、大人になってから響くこと多いです。また「SURREAL」の引用になりますが、「私は私のままで立ってるよねえ君は君のままでいてねそのままの君でいて欲しい」ってayuは言ってくれるんです。ayuが言ってくれるなら、私は私のままでいなきゃって思える。この世の中にそう思える歌があるだけで本当に幸運です。ayuが言ってくれてるから、私は自分では歌詞は書かなくていいと思ってました。
平:でもayuは「DIVA ME」とは言ってくれないから。
ゆ:そう。だから私が言うしかない(笑)。
平:長く生きるほどayuの歌への理解が深まっていきます。例えば責任ある仕事で矢面に立って初めて「ああ、ayuが背負ってたものってこれだったのか……」とかシンパシーを感じます。
ゆ:また、その背負っているものを全然下ろさないのも、ayuのすごいところですよね。
平:うん。同世代の歌姫を見ても、安室奈美恵のように華々しく引退する人もいれば、人間活動を宣言した宇多田ヒカルのように立ち位置を変える人もいた。その中でayuは一歩も引かない。ハッピーエンドのその先さえ生きていく。
ゆ:引かないですよね〜。