酷暑に豪雨、おまけに多忙。夏越の祓 (なごしのはらえ) で乱高下しがちな心身をリセット。

現代であっても心落ち着かないこの時期、医療技術が発展していない時代は、どれだけ不安が募ったことでしょう。そんな時、人々が頼りにしたのが古き神々。疫病退散はもちろん大雨や台風などの災厄から逃れられるよう、祈りを捧げました。それこそが夏越祓。6月30日に日本各地の神社で執り行われる神事にほかなりません。
神域に設けられた茅の輪をくぐり形代で身を拭ってた穢れを祓い、心身の清浄を取り戻して無病息災を祈願。向こう半年を健やかに穏やかに、幸せを感じながら過ごせるよう心を引き締めてまいりましょう!
その一 大崎鎮守、居木神社で厄除け開運。
オフィスビルやタワーマンションが立ち並ぶ大崎副都心にありながら、穏やかな気配が漂い静寂を保っています。駅から歩いて3分ほどの場所に鎮座する居木神社は大崎一帯の鎮守。創建年代こそ明らかではないものの、少なくとも江戸時代初期には現在地に遷座したと伝わっています。


数多あるご利益の中でも筆頭に挙げられるのが厄除開運。夏越大祓の神事にも多くの人が訪れます。例年6月下旬には社殿の前に大きな茅の輪が登場します。茅の輪に用いられる茅萱は旺盛な生命力を持つイネ科の植物。邪を祓うとされ、古くからさまざまな神事に用いられてきました。

6月30日の夕方から執り行われる夏越大祓の神事では、神職を先頭に参拝者が茅の輪をくぐります。まずは正面からくぐって左回りに正面へ戻り、右回りで再び正面へ戻り、もう一度左回りで正面へ。ちょうど8の字を描くように左・右・左とくぐってから神前へ進み、拝礼します。
この時に「水無月の夏越の祓する人は千歳の命のぶというなり」と唱えるのが作法です。これは『拾遺和歌集』に収録された題知らず、よみ人知らずの一首。江戸時代の書物『後水尾院当時年中行事』にも、この和歌を唱えながら茅の輪をくぐることが記されています。

この茅の輪くぐりは蘇民将来の説話に由来するもの。「備後国風土記逸文」によれば、神代の昔に旅の宿を求めた神に対し、裕福な弟・巨旦将来は応じず、兄・蘇民将来は貧しいながらも喜んで神を迎え精一杯もてなしたとか。やがて年を経て再訪した神は、蘇民将来に茅萱で編んだ輪を子孫の身につけるよう告げます。その夜に訪れた厄災により、蘇民将来の子孫を除き皆ことごとく滅亡。神はスサノオであると名乗り「後の世に疫病が蔓延しても蘇民将来の子孫である証の茅の輪を身につけていれば免れる」と宣言。居木神社でも「夏越大祓お守り」として小さな茅の輪が授与されます。

また神事に先んじて大祓形代も配布されます。これは人をかたどった紙で身を拭うことにより罪穢れを移すもの。私たちの身代わりに引き受けてくれた罪穢れは水に流すことで祓い清められるのです。
6月30日の神事に参加できない場合も、茅の輪は7月7日頃まで設けられており、設置期間中は誰もが茅の輪くぐりを行えるようになっています。夏越大祓に際しては限定の御朱印を授かる楽しみも!

東京都品川区大崎3-8-20
https://irugijinjya.jp/
その二 江戸庶民もこよなく愛した芝大神宮で心身を再起動。
伊勢の内宮外宮を勧請して創建されたことから、“関東のお伊勢さま”の名で親しまれる古社。平安時代中期から千年をゆうに超える歴史を刻み続けています。源頼朝を筆頭に名だたる武家に崇敬され、徳川の世になってからも家康をはじめとする将軍家・幕府から厚い庇護を受けたといいます。
また江戸市中と市外の境界に位置することから、東海道中を行き来する旅人が道中の安全を祈願する場にも。社頭には茶屋や芝居小屋が並び、相撲や富くじの興行も行われて、江戸の名所となりました。広重や豊国が描く錦絵からも往時の賑わいが想像できます。

水無月の晦日が近づくと、鳥居と御社殿との間に青々とした茅の輪が設けられます。石段下から見上げると、ここだけ異なった空間に感じられます。みずみずしく凛とした空気が流れていて、ここに立つだけで心が洗われるような気持ちに。ただ、場所が石段の踊り場なので茅の輪をくぐるときは足元にご用心を。
夏越の祓に向けては6月の下旬に「茅の輪御守」と「蘇民将来守」の頒布が始まります。いずれも茅の輪を疫病よけの印とした「蘇民将来」の物語に由来するもので、例年多くの参拝者が手にしようと訪れます。特に「茅の輪御守」は数に限りあり。どうしても!と思うなら早めのお参りを。
東京都港区芝大門1-12-7
https://www.shibadaijingu.com/
その三 サラリーマンの聖地・新橋に現れる異空間、烏森神社。
烏森神社の茅の輪が設置されるのは、例年6月第2週から。晦日を待たず半年分の罪穢れを祓い清められます。飲食店が軒を連ねる界隈にあって清浄な空気が漂うご神域は普段から異彩を放っていますが、参道に茅の輪が現れると神さびた気配がますます濃厚に。

茅の輪設置の前、6月の声を聞くとすぐに「茅の輪御守」や期間限定「夏越大祓御朱印」の授与が始まるのも、忙しい日常を送る私たちにとってはありがたいこと。


平安の昔に平将門の乱を討ち世に平安を取り戻した俵藤太こと藤原秀郷ゆかりの古社にして、江戸明暦の大火も免れた強力な神威を誇る。将軍家から庶民まで心を寄せた古社のご加護を授かりに急ぎましょう。
東京都港区新橋2-15-5
http://karasumorijinja.or.jp/
その四 この時期だけの和菓子、水無月のみずみずしさに癒される。
神社にお参りして身を清め心の澱を祓ったら、甘いご褒美を! 白い外郎生地に小豆を乗せて蒸し上げた「水無月」は夏越祓の季節限定。冷蔵庫のない時代、氷室に保管していた氷を取り出して暑気払いをした故事になぞらえて三角形の生地を氷に見立て、破邪の力を持つとされる小豆を乗せたものなのだとか。いつの頃からか夏越祓に食べる菓子として広まりました。
烏森神社から歩いてすぐの和菓子舗〈文銭堂本舗〉でも、6月になると店頭に水無月が登場します。〈文銭堂本舗〉の水無月は、白外郎を使う一般的なレシピと異なり、敢えて本蕨粉を生地に使用しているとか。つるんぷるんと滑らか&弾力のある食感で、ひんやりと涼やか。体の内側からすっきりキレイになった気がします。
東京都港区新橋3-6-14
https://bunsendohompo.com/