『ざっくり逃亡計画』| 「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第69回


10連休を取得した。労働基準法に保護されていない個人事業主の端くれこと私は、自ら休もうとしない限り、土日祝日を無視して働き続けることができる。自分で選んだ生活なので文句はなく、仕事があることに感謝しつつも、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を行使するモチベーションは高い。よって年度区切りで一度、全ての仕事を調整して長期休暇を取得することに決めている。ラジオの帯番組をやっているので、取れるのは最大10連休。せっかくなので、気合いを入れないと行けないような国で過ごしたい。

今までの長期休暇は、どちらも極寒だった。一昨年の2月はヨーロッパ6カ国をはしごして(連載の過去回にこの時の旅行記があります。スペイン編、ポーランド編、イギリス編。よろしければぜひ)、昨年の1月はニューヨークに1週間滞在。偶然にも、市内全域の人気高級レストランで特別価格のコース料理を楽しめる「レストランウィーク」というイベントの開催期間と重なったので、日中は食を忘れて美術館や劇場をぐるぐると回り、ディナーにしては少々早めの時間を狙ってミシュランの星獲得店を訪れた。きらびやかなエンタメにあふれていて、夜遅くまで外に人がいる、まさに眠らない街。ステーキハウスで友達ができたり、ジャズバーに通ったり、日常にはないシチュエーションはどれも新鮮。しかしなぜか感覚としては東京とほぼ変わらず、休暇なのに全然心が休まらなかった。やっぱり私は、ちょっと物足りないくらいで荷物をまとめて次の都市に移動するような、身軽で自由気ままな旅が向いている。


しかし2024年度は最高潮に忙しく、夏頃にふと気付くと、マネージャーと共有しているスケジュールはすでに3月末までポツポツ埋まっていた。急いで2025年5月のページを確認すると、誕生日当日を含める形で連休を取れそうだということが判明。早めに動いたおかげでチケットが早割り対象期間だったので、「ヨーロッパの中でも内陸だし、気分次第で東西南北どこにでも出やすそう」という地理的な勘だけで、羽田・ミュンヘン往復便を購入した。人生初ドイツ。ミュンヘンの知識はビールの祭典「オクトーバーフェスト」くらいだけど、会期とは程遠い。でもまあ、着いてから調べればどうにかなるだろう。

国外へ逃亡したい気持ちを何度も抑えながら年を越し、4月に映画『教皇選挙』を観て本物のシスティーナ礼拝堂は絶対に行こうと決めた矢先、フランシスコ教皇の訃報に接した。コンクラーベ期間中はもちろんシスティーナには入れない。周辺にも入場規制がかかるし、秘密保持のためバチカン市国全域で電波が遮断される。いつ新教皇が決まるのか、いつサン・ピエトロ広場で即位ミサが行われるのか、誰も知る由はない。タイミングが合えばローマとバチカンに行こう、難しければミュンヘンからの飛行機の価格次第で、ミラノかバルセロナかニースのどこかに飛ぼう。ざっくりそのくらいの心算で5月を迎え、新ローマ教皇レオ14世が誕生した頃、自分が全く荷物の準備をしていないことに気がついた。

今回は冬の旅ではない(かつまだオフシーズンで人も多くなく値段も抑えられる最高の月!!!)ので、かさばるセーターやダウンを持って行かなくていい。ヨーロッパの気候なら、Tシャツやインナーは手洗いして一晩干せば乾く。石畳みとキャリーケースは相性が悪すぎるが、機内持ち込みのリュックなら空港から出るまでの時間も短縮できる。あれ、これもしかして、人生初の完全なるバックパッカーで行けちゃうのでは? ということで、出国予定日の1週間前に機能性重視の40Lリュックを購入し、最低限の荷物をドカドカ放り込み、出発日の5月16日を迎えた。


チュニック39,600円(オダカ|エスアンドティ 03-4530-3241)/スカート 134,200円(参考価格)、パンツ 34,650円(参考価格)(共にリンダ ホップ|office.koizumi contact@officekoizumi.com)/ネックレス55,000円、イヤリング38,500円(共にセシル・エ・ジャンヌ|セシル・エ・ジャンヌ 青山店 info@cecileetjeanne.jp )/サンダル23,980円(ユナイテッドアローズ|ユナイテッドアローズ 新宿店 050-8893-4220)
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