スイーツ賢者3人によるトレンドキーワード座談会。【前編】 FOOD 2023.03.17

2023年、日本のスイーツは果たしてどんな盛り上がりを見せるのか。ゴージャスなカウンターデセール、発酵菓子、フィナンシェ…。コロナ下での激動の3年を経て見えてきた、12のキーワードとは?

それぞれの視点でスイーツ界の動きを定点観測し続けるスイーツマニア3人が、最新トレンドを徹底分析。スイーツ愛あふれる糖度高めな鼎談がスタート!

TREND KEYWORD#1 いまこそ、デザートコース&カウンターデセール体験を。

藤森陽子(以下、F)本日はスイーツ賢者の皆さまとお話しできて光栄です。パンケーキハットが間近で拝見できてうれしい。

スイーツなかの(以下、N)これ、特注で作ったんですが、すっごく重いんです(笑)。さっそくですが、僕が今回の座談会でまず思い浮かんだのが「オンラインからオフラインへ」という言葉なんです。このフレーズ、最近よく目にするのですが、コロナが少しずつ落ち着いてPO P UPなどの催事も盛り上がっているし、それはスイーツ界にも当てはまるなと。

chico(以下、C)そうですね、コロナ下でしばらくできなかったからこそ、直接会えるオフラインの価値を再認識する感覚があります。まさにいま、私が一番気になっているのがシェフが目の前で作ってくれるカウンターデセール。日本茶をテーマに懐石のようなコースを出す田中俊大シェフの〈VERT〉や、素材を大切にする青木繁シェフの〈As〉もそう。どこも基本的に完全予約制なので、ネットの予約システムが格段に進化したこともトピックかも。

N 確かに!カウンターで食べるパフェは以前からあったけど、最近はコーススタイルが主流になりつつあります。あまりの人気ゆえ予約が抽選制という〈Nami zaimokuza〉のさわのめぐみシェフは、構成がとても面白い。〈リベルターブル〉もデセールに店の世界観が注ぎ込まれていて。

F 昨年11月にオープンした森井美紀シェフの〈un plato〉も“アシェットデセール第2章”といいますか、新展開を予感させますよね。〈NEWoMan新宿〉に登場したアシェットデセール人気の火付け役の一軒〈ジャニス・ウォン〉出身の方で。

C 〈VERT〉の田中シェフしかり、〈ジャニス・ウォン〉チルドレンの活躍が目覚ましい。

F&N “J・Wチルドレン”!

C アシェットデセールが高級志向になるなか、〈unpla to〉はコース以外はふらっと来てもOKというスタイルで。崇高になり過ぎないスタンスもいい。

TREND KEYWORD#2 独自スタイルのアフタヌーンティー、百花繚乱。

N 高級化、体験化という視点では、アフタヌーンティーもますます盛り上がっていますね。

F あの、そもそもですが、少し前まで五ツ星ホテルの最高級アフタヌーンティーで5000円くらいのイメージがありましたが、今は「グラスシャンパン付き1万円」も珍しくない。そして連日満席の人気という…。この価格の上昇はいつ頃から?

C 「ヌン活」と言われはじめた頃かな(笑)。

N 旅行に行けないから「ホテルで贅沢する」という流れがあって、内容もラグジュアリーになっていった印象がある。SNSから発信される情報の影響力も大きいですよね。

C 安定した人気はあったけど、コロナ下の2021年ごろからあらゆるお店のアフタヌーンティーの予約が取れなくなって。1万円でも納得してその時間を楽しむ人が増えて、裾野がすごく広がった気がします。

TREND KEYWORD#3 注目パティシエの新店に連日行列が!

F この人気と併せて、作り手側の進化も目覚ましい。大人気ホテルの一つ〈フォーシーズンズホテル東京大手町〉の青木裕介シェフパティシエとセイボリー担当の平野覚シェフのシンクロ感といいますか、コラボのクオリティが非常に高い。お茶も〈Saboe〉が監修していて。

N 〈パレスホテル東京〉も開業10周年を機に輪島の塗師・赤木明登さんが手掛けた漆塗りの器に一新。クリームやムラングシャンティイで枯山水や雲などを表現する和洋の一体感も新鮮で。メニュー構成にも進化や多様性を感じますね。

C デザートコースにもいえますが、アートや音楽など異なるジャンルの作り手とのコラボが増えているので、色んな文化とフュージョンした世界観ごと体験する楽しみが生まれている。あと、コロナが落ち着くのを待ってましたとばかりに、注目パティシエの出店も続いていて。いいお店が多数登場しています。德永純司シェフの〈エキリーブル〉はSNSの情報の早さもあって、オープン直後から話題で。

N いきなり大行列でしたよね。モンブランの種類も多くておいしいんですよね。古屋健太郎シェフの〈アルタナティブ〉といい、実力店ばかり。

C 改めて“お店を訪ねるうれしさ”を噛み締めます。

TREND KEYWORD#4 “店舗を持たない”自由なスタイルの菓子店が続々。

F かと思えば、デセールやアフタヌーンティーの高級化・体験化と対照的に、「店舗を持たない」のもキーワードですよね。これも営業が困難だったコロナ下の時期とSNSの発信力という「今」を反映するスタイル。

N ええ、〈ノー・レーズン・サンドイッチ〉や〈リフェンリ〉とか、とにかく皆さんセンスが良くて発信の仕方も巧みで。ブランディング含め、自己プロデュース力に長けている方々が成功されていると思う。

C 〈Mr. CHEESECAKE〉の田村浩二シェフと〈Seiste〉の瀧島誠士シェフは火付け役であり、牽引役的な存在ですよね。

TREND KEYWORD#5 麹、味噌、酒粕…。発酵菓子が次代のブーム。

F あとね、発酵の話を少しさせていただきたいのです。私、お茶やらお酒やら液体の取材が多いのですが、その流れで発酵食材を使った「発酵系お菓子」を目にする機会が多くて。

C 発酵!?楽しそう!

F 全国のおいしい発酵食品が集う〈発酵デパートメント〉の新作が、一休寺納豆を使った甘じょっぱい発酵月餅「発酵丸。」。京都の純米吟醸蔵〈玉乃光酒造〉が自慢の酒粕を使った酒粕フィナンシェを開発したり、麹を活かしたお菓子の作り手、静岡の〈檸檬とラクダ〉も今年1月に実店舗がオープンしたばかり。〈星のや東京〉の1日1組限定という贅沢アフタヌーンティーも、テーマがズバリ、発酵です。

N なるほど、味噌やチーズ、チョコレートも発酵食品ですし、お菓子と親和性があるはず。

F ええ。なかでも気になるのが発酵あんこ。和菓子は時代とともに白砂糖控えめが好まれる傾向にありますが、発酵あんこはそもそも砂糖を使わず、麹の甘みのみでしっかり甘い。

C アガベシロップを使うお店はあるけど、麹は日本のものだからさらに相性が良さそう。

F なので、静岡〈円居 つきのか〉の月餅のように、今年は発酵あんこを使ったお菓子がもっと登場するのではないかと!

TREND KEYWORD#6 「 和スイーツ 」の洗練された世界。

C 洗練された和スイーツも勢いがありますよね。京都の老舗〈京菓子司 末富〉の新ブランド〈SUETOMI AoQ〉とか。

F あんこ界の大ニュースですよね。あんことフィナンシェのセットやチョコ風味の麩焼きとか、伝統の味を新解釈する老舗の手腕にワクワクします。

N 〈五郎丸屋〉の琥珀糖「きせつのさがしもの」は、ガラス造形作家さんの作品を忠実に再現していて、本当にキレイで感動しました。味もカクテルがモチーフですごく今っぽい。

F 〈八芳園〉の料亭〈壺中庵〉の手土産ブランドもさすがの完成度。〈銀座 凮月堂〉の新作「白餡とブルーチーズのテリーヌ」は、風味と食感を重ねる“レイヤード感”がパフェを得意とする名店らしい仕上がりで。あんこ界からは以上です。

photo : MEGUMI text : Yoko Otsuka

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