「好き」が一番の原動力。その道のプロに聞く。 落語愛好家がビギナーにおすすめする落語家は?【初級編】 LEARN 2022.03.11

写真家の大森克己さんと小説家の木内昇さんは、ともに落語ファンとして知られる。あらたな落語の見せ方を写真集で提示した大森さんと、幕末や明治を舞台に数多くの作品を生み出す木内さん。自身の作品に落語のエッセンスを取り込むふたりに、その魅力を大いに語り合っていただいた。

【初級編】まずは知っている顔からら。面白そうな人を探す。
はじめは音源からでも。とにかく聴いてみよう!

木内昇(以下、木内):以前、お仕事で会った時は落語の話を聞いたことがなかったので、柳家権太楼師匠の高座を撮った写真集『心眼』を拝見してびっくりしました。いつからお好きになったのですか?

大森克己(以下、大森):10年くらい前、友人に〈池袋演芸場〉の初席に連れて行ってもらったんです。それがすごく面白くて、そこから積極的に聴き始めました。木内さんはいつから?

木内:小さい頃に祖母と暮らした時期があって。夕方になるとからいつも落語が流れていたんですね。でも、その時は好きじゃなくて(笑)。意識的に聴き出したのは執筆のため。風俗を知る点でも有意義なので最初は古典落語を本で読んで、その後に(古今亭)志ん朝のCDを聴いたら大爆笑。お腹を抱えて笑うみたいな感じでした。同じ噺でも語る人によって別のものになるんですよね。

大森:演じるという意味では演劇も一緒だけど、落語家は子どもになったり女性になったり、おじいさんやおばあさんとひとりで何役も演じ分ける。ほんと、不思議な芸ですね。

木内:幼少期はテレビ画面を観ないで音だけ聞かされていた感じなので、わたしにとっての落語は観るよりも聴くもの。結果的に小さい頃から江戸言葉の英才教育を受けて、それがいま書いている文章のリズムになったのかなって思います。

大森:ぼくは、落語はライブ派。だけど、まだ落語未経験なら『幕末太陽傳』という映画から入るのもちょっと面白いかも。古典落語の「居残り佐平次」をベースにしたストーリーで、そこに「芝浜」や「品川心中」といった有名な噺のエッセンスも盛り込まれている。落語と切り離して、映画単体で観てもすごく楽しめる作品です。

木内:古典芸能は能にしろ文楽にしろ全体的に難しそうな印象がある。でも、落語は枕で現代的な話題を入れ込んでくれるから、初心者でも世界観に入りやすい気がします。

大森:そうですね。まずは、なんとなくでもいいから面白そうな人を探してとりあえず聴いてほしい。

木内:たしかに(柳家)喬太郎さんの顔はテレビやドラマで知っているけど、落語自体は聴いたことがないっていう人は多そうですね。

大森:いろんなメディアに取り上げられているからというわけではなく、喬太郎さんや(春風亭)一之輔さんは本当に面白い。周りに落語好きがいれば、その人がおすすめしてくれる落語家の噺を聴いてみるのもいいですね。とにかく、まずは聴いてみないと良し悪しもわからないから。

木内:そうですね。見たことある顔だな、くらいの人からでいいので(笑)。まずは音源から聴き始めてみてください。

最初に聴くならこの人!ふたりのおすすめ落語家。

【Omori's Choice】
1.『柳家三三』あの人間国宝の愛弟子。
人間国宝・柳家小三治の寵愛を受けた精緻な高座は、初心者でも芸の巧みさを即座に感じ取れるはず。大森さんが語るとおり、落語も身体表現であればこそ、痩身でゆらりと揺れながら様々な人物を映し出す姿からは、この人しか演じられない落語があるのだとわかる。

2.『春風亭一之輔』アグレッシブな“いま”の噺。
現代の落語家ではトップクラスの人気と知名度を誇り、様々なメディアの落語特集で必ず名前が挙げられる。古典の名手である春風亭一朝から受け継いだ伝統的な古典落語をベースに、スピード感のある現代的なギャグを盛り込み、会場は常に爆笑の渦に巻き込まれる。

【Kiuchi's Choice】
1.『柳家喬太郎』古典と新作の二刀流が魅力!
古典と新作のどちらも高座でかける落語家はほかにもいるが、両方が抜きん出た存在として初心者から通までファンが多い。古典の技術はもちろんのこと、卓越した創作センスはお客さんからお題をもらってその場で噺をつくる「三題噺」でも感じ取ることができる。

2.『立川志の輔』唯一無二の“志の輔らくご”を。
「どの会に行っても絶対に外れはない。テレビで観ているイメージで行くとびっくりするくらい、すごいって唸ると思います」と木内さん。1,000人規模の大ホールでもチケットは即完。運良くチケットが取れたら、たっぷりと“志の輔らくご”の真髄を味わってほしい。

Teachers

◆大森克己(おおもり・かつみ)/写真家。2020年、柳家権太楼が三遊亭圓朝による古典落語「心眼」を演じる一部始終を写し取った写真集『心眼』を上梓し、話題となった。

◆木内昇(きうち・のぼり)/小説家。編集者、ライターとして活躍した後、2004年に小説家デビュー。第144回直木賞受賞作『漂砂のうたう』には、初代・三遊亭圓朝も登場する。

(Hanako1206号掲載photo : MEGUMI illustration : Manako Kuroneko text : Mariko Uramoto, Satoru Kanai, Ami Murasakino edit : Kana Umehara)

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