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漫画家・鳥飼茜が巡る、 沖縄のパワースポット。
エッセイ編 Learn 2022.03.16

沖縄に来ると、足元から得も言われないパワーを感じることがあるだろう。中でも、聖地とされる場所の強さはすごい。写真では表現できない、力の秘密を漫画家・鳥飼茜さんが巡る。Hanakoだけの特別な漫画とエッセイをお届け。

漫画編はこちら

パワースポット(聖地)を巡る旅。そう提案された私は正直狼狽えていた。スピリチュアルなことが苦手なわけではない、むしろ目に見えない力の存在を人一倍畏れていると言っていい。パワースポットには畏れ多すぎてなるべく近づきたくないし、そういう場に積極的に出向くことは、そこはかとなく「肝試し」に近い印象すら抱いていた。

ちょうど私は『スピリッツ』で連載していた長編作品の『サターンリターン』を完結したところで、言わば無職である。これまで複数作同時連載が普通だった私が、初めて一本に向き合った作品だ。連載を終えて完結巻の発売を待つ以外何もすることがない状態はこの15年間で初めての経験だった。

『サターンリターン』は、30才を迎え無気力な暮らしをしている一発屋小説家・理津子が、輝かしい10代の頃親しかったある男友達を自殺により亡くしたところから物語を始めた。亡くなった彼の本心や隠された交友関係を巡って、その正体を暴いていくつもりが、同時に理津子も実は仮の人生を生きていたことが明らかになる。主人公が(私を含めて)読者を裏切りながら想定外の人物像になっていく様を、ラストまで息切れしながら描ききった。

単なるフィーリングで作品の第1話に書いた「それ、ほんとにお前の人生?」という台詞は、私自身をも最後まで見逃すことなく追い込み続けた。私は自分の漫画にそう問われながら2度目の結婚をし、過剰な祝福に煽られ、身の丈に合わない生活にそれでもしがみつき、結果的に2度目の離婚を決めた。疲れ果てていたけれど、その山を超えた後に完結した漫画の中で、少なくとも主人公は本当の人生を取り戻したようだった。それでは、私自身は?

人生のシビアな局面をなんとかやり過ごし、自ら作った物語からも締め出され、放心状態の私に与えられたミッションが沖縄に行ってパワースポットを巡ることだというのは面白かったが、弱り目に祟り目という言葉が頭をもたげたのも事実だった。

沖縄には何度も訪れたけれど、今まで私が知らなかっただけで沖縄は想像以上に聖地とされる場で溢れかえっている。予備知識として渡されたスピリチュアル読本には覚えきれないほどの聖地が登場し、完読できないままとうとう那覇空港に着いた私はいつもなら南国の暖気に心が躍るところを身震いしてしまう。余計なことは考えず、心配も期待もせず、流れに身を任せよう。そう無理矢理言い聞かせて深夜の沖縄そばを腹に収め翌朝に備えた。

ここで、この旅で私が訪れた場を順に挙げておく。

まず、「斎場御嶽」。沖縄の人がウタキと呼ぶ祭祀を行う場は数あるが中でも一番の霊場と言われる。

それから「垣花樋川」。ここは川と名のつく通り、飲用水の湧く聖地。

「シルミチュー」は琉球王国をつくった神様を祀っているとされる洞窟。

「座喜味城跡」は、沖縄本島にいくつかある城跡のひとつで世界文化遺産に登録された、石壁が何重にも曲線を描く美しい城跡。

「七滝」と呼ばれる、大宜味村・喜如嘉にある、鳥居と拝所を擁する滝。

そして、原初沖縄を生んだとされる島で、神女ノロがいることでも有名な、最もスピリチュアル度の高い「久高島」である。

初日から天気に恵まれ、斎場御嶽入り口付近の遥拝所から望む目映い海景に早くも緊張感がほどけていく。お日様があるところ、気持ちが和らぎテンションが上がるのは皆同じ、怖がることは何もない。斎場御嶽をご機嫌で参拝し終えた私は次の聖地で痛い目に遭った。水場の湿った地面で足を滑らせ尻餅と同時についた手のひらを怪我してしまったのだ。捲れた皮膚は流血して砂が混じってしまっているが聖地の清い水で洗い流すことは心が咎める。頭の中で目に見えない力に対する畏怖が限界を超えそうだ。なんとか正気を保ちつつ車に戻り、ペットボトルの水で傷を洗い流した。大した怪我には至らなかったが私の中でスピリチュアルにひれ伏す気持ちは二箇所目にして最高潮を迎えた。この先の無事以上の欲を捨てきった私は、引き続き洞窟や城跡を巡るなかでこんな気づきを得た。どの聖地も、陽と陰の要素がそれぞれ多様なバランスで成り立っている。単に明るさや湿度や温度の問題ではあると思うが、人間は単純で、そういう分子のバランスで簡単に前向きになったり神妙になったりするものらしい。私にとってのパワースポット巡りとは、その地面や空気のバランスと、私自身との対話のように思えた。この場において自分は今どう感じる? 気分はアッパーなのかチルなのか、手足を止めて積極的に自分の感覚を探ることが、かなり新鮮なことに感じられた。自分の体が、陽の雰囲気の場所をより好むこともわかった。いつから蓋をしてたのか、ずいぶん久しぶりの気がした。
 
海を一望できる宿を用意してもらった恩恵もあってか、日を追うごとに私は元気になった。「七滝」と呼ばれる静かな水場は、人気のない山道奥に突然現れる鳥居に護られ、「聖地のため遊泳禁止」と書かれた看板が経年劣化でややホラーだったりと神妙な陰の雰囲気に溢れていたが不安な気持ちは全く無く、もはやパワースポットは私の中で「肝試し」ではなくなっていた。
 
とはいえ、最終目的地の久高島は別格である。例の本には迂闊に近づくべからずとありチキンな私には敷居が高すぎる。フェリーに乗る直前、とうとう気分が悪くなってしまった私はこれが「呼ばれてない」という状況なのでは、と自問自答を始め、迷った時の人任せで、同行の編集長に勇気を出して正直な心情を打ち明けた。「行くのが憂鬱なんです」。感情の全く読めない顔で「じゃあやめますか?」と返してくれた編集長だったが、本音を言葉にした瞬間気分が晴れたため、大きなおにぎりを2個食べて大揺れのフェリーに乗り込み、とうとう久高島に降り立った。訪れたその日が晴天であったことも手伝って、畏れていた久高島は全体的に陽の雰囲気にきらめいて見えた。とくにニライカナイ(天国)に繋がっているとされるイシキ浜は圧巻のパノラマビューで、太陽が海面から昇りまた海面に沈む様を丸ごと拝める場所である。ノロをはじめとするこの島の独特な伝統的歴史には畏怖を感じたが、目の前の海と太陽に支配されたこの場所の圧倒的解放感に勝るものはないと感じた。ただその場に立ち尽くしているだけで、酒を飲まなくても〆切との追いかけっこなしでも、心は解放されるのだと久しぶりに理解した。今このタイミングでこの場に立っていることも奇跡だ。雑談から始まった旅だったが、仕事とプライベートと、全てがひと所に片付いた今でしかこの解放を感謝できなかっただろう。漫画というのは強欲で、業やしがらみが積もった結果に生まれるものでもあるのだ。自らを解放し、あらゆる持ち物を手放して良いのは今だけだ。ご利益こそ期待はしなかったが、無事に旅を終えられた私は相当な頻尿になった。2日ほどで治ったが、見えない力に浄化され、不要なものが出ていったとしたい。
 
俗世東京に戻った私はまた別のしがらみを積もらせるだろう。それが物語として形になった暁には、またあの聖地は私を空っぽにしてくれるだろうか。畏れよりも、今ではやや期待が上回る。

illustration & text : Akane Torikai

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