娘から父へ…おいしい日本酒おしえます! 【裏ラベル日本酒】ラベルの文字が反転!? 「純米大吟醸 裏 手取川」~第二十三夜1本目~
弱冠24歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入! 酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは? 第二十三夜は、ラベルの文字が反転した「裏ラベル」を特集。1本目は、石川県の人気のお酒の裏ラベル。
(photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)
第二十三夜1本目は、愛情100%で造られた「純米大吟醸 裏 手取川」
娘・ひいな(以下、ひいな)「今回は、裏ラベル特集です!」
父・徹也(以下、テツヤ)「裏ラベルって何?」
ひいな「ラベルの文字を反転させた裏シリーズというのがあってですね」
テツヤ「へぇ、おもしろいねぇ」
ひいな「それを、今回は裏ラベルと名付けまして、裏ラベルと近しいスペックのものを表ラベルとして、今回は表と裏の2本を飲み比べてみようかと!」
テツヤ「つまり、表になるものと裏の2種があるってことだな?」
ひいな「表ラベルというお酒はないんだけど、それに近しいお酒を私がそう呼んでみただけ。表と裏で対になっているわけではないよ」
テツヤ「なるほど」
ひいな「どうして裏ラベルがあるのかというと、特別なスペックな場合とか、隠し酒的な意味合いだとか、少量生産の場合にレア感を出すためとか、希少性があるっていう印象を与えるっていうことが考えられるんじゃないかな、というのが私なりの分析です」
テツヤ「あぁ、なるほどね。確かに裏ってつくと気になるもんなぁ。じゃ、今日は表と裏、2本を飲むってことね」
ひいな「そう。飲み比べてみようと思って」
テツヤ「わぁ、本当にラベルが反転してる! 自撮りするには裏ラベルのほうがいいね(笑)」
ひいな「確かに(笑)」
テツヤ「自撮りしてみようよ! わ、ほんとにちゃんと映った(笑)!」
ひいな「『裏 手取川』は、精米歩合45%の純米大吟醸なんだけど、同じ精米歩合45%の純米大吟醸『手取川』を探してきました!」
テツヤ「ということは、スペック的にはほぼ同じだね。アルコール度数は1度違うのか。こりゃ相当マニアックな世界だね」
ひいな「まず、表から飲んでもらおうかな」
テツヤ「本流の味を知ったうえで、裏を飲もうか。あえての裏なんだもんね」
ひいな「うん。そうだね」
テツヤ「じゃ、それぞれ注ごうか。俺は『裏 手取川』をいれるね。わ、色が違う! こんなに色が違うんだねぇ。すごい!」
ひいな「濃いほうが裏ね」
テツヤ「米の種類が違うのかな?」
ひいな「うん、それはまたあとで話すね」
テツヤ「まずは表から、乾杯〜!」
ひいな「ちなみにこのグラス、ちゃんと香りが嗅ぎやすいようになってるから」
テツヤ「うん、すごく香る。わ、ぜんぜん味が違うね!」
ひいな「え、もう飲み比べしちゃったの?」
テツヤ「どっちが好みか、指差してみよっか」
ひいな「いいよ」
テツヤ&ひいな「せーのー!」
テツヤ&ひいな「おぉーーーー!」
テツヤ「裏がいいね」
ひいな「うん、裏がいいね。造り方はわからないんだけど、山廃っぽさ感じない?」
テツヤ「あるね」
ひいな「最初の香りは、表のほうが王道な感じしない?」
テツヤ「うん、わかる」
ひいな「裏ラベルのほうが、穀米感があるっていうか」
テツヤ「こくまい?」
ひいな「穀物の味がするっていうか。フルーツグラノーラの匂いを嗅いでるみたいな感じ」
テツヤ「あぁ。これって値段は違うの?」
ひいな「裏のほうが安かったかな」
テツヤ「裏の方がレアなのにね」
ひいな「蔵の情報によると、『手取川 本流』は、はちみつのようなやさしい香りと芳醇でまろやかな味わい。食中酒として最適とのこと」
テツヤ「確かに、突出した個性があるというよりは、食事に合わせやすい感じ」
ひいな「そうだよね。どうして裏なのかは明確じゃないんだけど、裏のほうには、愛情100%の酒造りって書いてある。酒は蔵だけで造るものではありません。酒造、酒屋としてお客様が、お互い情報交換をして築いていくものと考えます。よりおしい酒をみなさまとともに造っていきたいと思います。上品な香りで優しい味わいの純米吟醸です、とのこと」
テツヤ「その説明だと、なぜ裏なのかは、わからないね(笑)」
ひいな「だいたい、裏シリーズって、どうして裏なのかを明かしてる蔵って少ないんだよね」
テツヤ「え〜、そこがめちゃくちゃ聞きたいのに。何が裏なのかの理由が知りたいよなぁ」
ひいな「言えないことがあるんだろうけどね」
テツヤ「そっか」
ひいな「今回、合わせるおつまみなんだけど、裏を基準にして考えました!」
テツヤ「なんだろうな。意外と酸があるからなぁ」
「純米大吟醸 裏 手取川」に合わせるおつまみは「ヨーグルト 玄米甘酒がけ」。
テツヤ「え、これは何だろう?」
ひいな「ヨーグルトです! とろみのあるヨーグルトの上に、食べる玄米甘酒をのせてみました!」
テツヤ「裏に合わせるんだね?」
ひいな「そう。一口で一気に食べちゃって!」
テツヤ「いただきます! うまい! これだけでうまい!」
ひいな「これとお酒の相性がね、さらに最高だから」
テツヤ「あぁ〜。裏と合うねぇ」
ひいな「でしょ? めっちゃ合うよね」
テツヤ「この玄米甘酒、うまいなぁ」
ひいな「おいしいよね。〈結わえる〉ってお店の玄米甘酒なんだけど、ヨーグルトは小岩井生乳100%ヨーグルトを使いました!」
テツヤ「『本流』とも合わせてみるね。あれ? ちょっと苦味が出るかも」
ひいな「うん。苦い!」
テツヤ「こんなにも違うんだ。不思議だなぁ」
ひいな「『本流』は山田錦で、裏のほうは、麹米は五百万石を使ってて、掛米(ライター注:かけまい。もろみ造りに使われるお米のこと)は、石川門っていうお米を使ってるらしくて。蔵は、五百万石のことをきまじめなさわやか系って言ってて、石川門のことをプリンスのような繊細さって言ってるの」
テツヤ「おもしろい表現だね(笑)」
ひいな「ほら、愛情いっぱいでしょ? プリンセスのような繊細さっていうは理由があるらしくて。石川門は石川県で開発されたお米なんだけど、蒸す時に割れやすくて、菌にも敏感なんだんって」
テツヤ「へぇ」
ひいな「ちゃんと手入れしてあげないとヘソ曲げちゃうんだって」
テツヤ「だから愛情100%なのか」
ひいな「それが、プリンセスのような繊細さってことなんだね。そもそも、プリンセスのイメージがどうかというのはあるけれど(笑)」
テツヤ「これくらい色も香りも含めて裏な感じはすごくおもしろいね。同じ蔵から、同じ味のお酒出しても意味ないもんね」
ひいな「同じ蔵が出してる、純米大吟醸なのに、こんなに色も味も違うっていうのは、裏を出す意味があるのかもしれないね」
テツヤ「山田錦を使ってる『本流』が食中酒っていうのはわかる気がするな」
ひいな「料理に合わせるには、ある程度の雑味が必要なのかもしれないね」
テツヤ「なるほどね。確かに雑味の良さってあるもんなぁ。きれいすぎる酒がいいわけじゃないのと一緒でさ。雑味=うまみだったりすることもあるもんね」
ひいな「うんうん。合わせるものによって感じ方も変わるしね」
ほかにも裏シリーズいろいろ。見つけたらぜひお試しを!
ひいな「ちなみに裏シリーズで一番有名なのは『裏・雅山流』。家でも飲んだことあるよ。あとは『裏鍋島』も」
テツヤ「へぇ『鍋島』も」
ひいな「あとは、『裏口万(ろまん)』。『裏死神』っていうのもある」
テツヤ「おもしろいね(笑)」
ひいな「あとはね『裏上喜元(じょうきげん)』とか『裏車坂』とか」
テツヤ「いろいろあるねぇ。その裏シリーズ、どこの蔵がはじめたんだろう?」
ひいな「『裏・雅山流』っていわれてるかな。けど、一番有名で火付け役になったのは『裏鍋島』だっていわれてるね」
テツヤ「裏ラベルっていうジャンルがあるっていうことなの?」
ひいな「裏ラベルとか裏シリーズとか反転ラベルとかいろいいろ。少しマニアックな感じかな」
テツヤ「それって、つまり蔵の遊び心だよね。表ではできないことをやってみようっていうね。あんまりたくさんは流通してないの?」
ひいな「でもネットで検索すると出てくるよ」
テツヤ「今はコンピューターで簡単に裏ラベルってつくれちゃうからな。手書きだとさ、反転させて書くの大変だもんな」
ひいな「手書きは難しいだろうね(笑)」
テツヤ「裏と表でこんなに味が違うとは思わなかったよ。もしかしたら、裏が本流になる可能性もあるわけだよな?」
ひいな「好みは断然、裏だったもんね」
テツヤ「蔵へのコメントどうするの? 『裏が表になる日は来るんでしょうか?』とか?」
ひいな「私は裏が好きでしたって正直に(笑)」
【ひいなのつぶやき】
手取川の遊び心に身を委ね、感覚で味わうのが楽しみの1つです!でもやっぱり裏が好みでした(笑)
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