「まだ見ぬパン屋さんへ。」by Hanako1195 【長野】人口8000人の街にできたベーカリー〈望月のパンと,ピザ家 the OK bread & pizza〉。 LEARN 2021.05.15

パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まだ見ぬパン屋さんへ。」を掲載。中国でベーカリーチェーンを成功させた岡田信一さんが、故郷・長野県佐久市望月に戻り、大自然の中でパン屋をはじめました。材料は地元産。新鮮で、ほかでは食べられないものばかりです。

田舎は人と食と自然の宝庫でした!

岡田信一さん、妻の美帆さん、一帆ちゃん。
岡田信一さん、妻の美帆さん、一帆ちゃん。

車を降りたのは「こんなところに?」という山の中だった。約1年半前開業した〈the OK bread & pizza〉。店主の岡田さんは、25歳のとき、右も左もわからない中国の天津市に渡った人だ。パン屋をオープンするため。「根拠もなく、行けばなんとかなるだろうと(笑)」中国人スタッフ全員に職場をボイコットされたこともあったが、珍しい日本のパン屋さんは中国で人気になった。いちばん受けたのは、意外にもライ麦パン。「当時の中国では、甘くて、ふわふわで、でっかいパンばかり。『無糖のこういうパンがほしかったんだよ』と言われました」

中国で成功し、家庭を持つと、逆に故郷の風景や人間関係が新鮮に映るようになった。「田舎での人とのつながりは密だから楽しい。野菜をもらったりなんて、あっちではなかったこと」人口約1500万人の天津から約8000人の佐久市望月へ。材料は近隣の生産者が持ってきてくれるものばかり。「パン屋が作る」ピザ生地には、ホエーを使用、佐久の〈ボスケソ〉でチーズを作るときの副産物で、捨てられそうになっていたもの。ピザの具材は、「山の博士」鈴木茂さんが栽培する雁喰豆(がんぐいまめ)、融幸雄(とおるゆきお)さんが栽培したヤーコンや獣害を防ぐ目的で捕獲した鹿など。同じ土地でできたものには響きあいがあり、「ミスマッチ?」という先入観は、口の中で「おもしろい!」に変わる。

「お客さんといろいろ話せるのは田舎のいいところ。特にお年寄りと子供の反応がうれしいです」「長パン」(プチバゲット)に、意外と小さい子供がはまったり。長野県産小麦を焼き込んだ「長パン」の皮は焼きとうもろこしみたいな甘い香り。地元産素材のおいしさは、子供の曇りない味覚でこそよくわかるのだろう。

〈望月のパンと,ピザ家 the OK bread & pizza〉

〈望月のパンと,ピザ家 the OK bread & pizza〉

長野県産小麦100%のパン、地元産ホエー使用のピザとナチュラルワイン。心が疲れたときにうってつけの、広大な自然の中のパン屋。
■長野県佐久市協和2806-2
■0267-77-7957
■9:00~14:00 水木休
■14席

Navigator…池田浩明(いけだ・ひろあき)

パンラボ主宰。パンについてのエッセイ、イベントなどを柱に活動する「パンギーク」。著書に『食パンをもっとおいしくする99の魔法』『日本全国 このパンがすごい!』など。

■パンラボblogpanlabo.jugem.jp

(Hanako1195号掲載/photo&text:Hiroaki Ikeda)

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