今のあなたにピッタリの一冊は…? 小松彩夏さんのために選んだ一冊とは?/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』 LEARN 2019.09.22

〈本屋B&B〉のスタッフ、木村綾子さんがさまざまな業界で活躍する「働く女性」に、今のその人に寄り添う本を処方していくこちらの連載。第5回目のゲストは、モデルや女優などマルチに活躍する小松彩夏さん。話題はデビュー時のエピソードから、今後のフリーランスとしての活動まで。木村さんとの共通点も多く、盛り上がりを見せた対談となりました。

今回のゲストは、女優の小松彩夏さん。

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2003年に、実写版『美少女戦士セーラームーン』で女優デビュー。今年春、所属していた事務所を退所し、フリーに。5年ぶりとなるグラビアや、ゾンビ本の帯への出演など、ますます活躍の幅を広げられています。今年夏からはハナコラボメンバーの一員に。

はじめましてのおふたり。意外な共通点がぞくぞく!

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木村綾子さん(以下、木村)「私、結構前から小松さんのことは存じ上げていました。お仕事を始めてからどれくらいになるんですか?」
小松彩夏さん(以下、小松)「わ、嬉しいです。デビューは中学3年生の頃なので今年で16〜7年になりますね」
木村「そんなに早くからお仕事をされていたんですね!当初から女優さんとして活動されていたんですか?」
小松「いえ。私は『CANDy』っていうティーン誌からのスタートです。デビュー当時、しばらくは読者モデルみたいなことをしていましたね」
木村「そうだったんですね。実は私も10代の頃は読者モデルをしていました。出身は静岡なんですけど、18の時に上京してきて」
小松「あ、私も上京したの、18の時です!」

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木村「なんだか私たち、境遇が似ていますね(笑)24の時に芸能事務所に所属したんですけど、文学の方面に進みたいという思いが次第に強くなり、31の時にフリーになりました」
小松「私、今32なんですけど、実は今年の4月からフリーになって。いま木村さんにすごく親近感が湧いています!」
木村「ほんと、キャリアの積み重ね方が似ていて、他人事じゃない気がします!(笑)独立は何かきっかけがあったんですか?」
小松「そろそろ環境を変えなきゃ駄目だなと思ったんです。それこそ昔から、芸能のお仕事しかしてこなかったので、一度自分で全部やってみたいなと思って」
木村「素晴らしい。どうですか、約半年間一人でやってみて?」
小松「改めて、マネージャーさんって頑張ってくれていたんだなと気づかされました。ぜんぶ自分でやってみて、これは大変だ!って(笑)」

エピソードその1「読者モデルからのスタート」

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木村「『CANDy』の読者モデルからスタートしたってことは、元々はファッションに興味があったんですか?」
小松「そうなんです。けど私、やりたいって手を挙げるまで、時間がかかっちゃって。出身が岩手なんですけど、地方だとスカウトマンとかもいないじゃないですか。だからそういう世界って自分には無縁だと思い込んでいたんです」
木村「え、でもその時中学3年生だなんて、全然遅くないって思うけど…!無縁だと思っていた世界へ飛び込むきっかけは自分で見出したんですか?」
小松「はい。たまたま見つけたモデルの募集要項が、年齢制限ギリギリだったんです。「今しかない!」と思って、自分で履歴書を書いて送りました。だから親に伝えたのも雑誌に載ってからのことで(笑)」
木村「行動力がすごい。若い子の勢いを真剣に受け止めてくれる雑誌文化があの頃にはありましたよね。私も雑誌にどれだけ可能性を広げてもらったか」

木村さんが処方した本は…『捨てられないTシャツ(都築響一)』

『捨てられないTシャツ』(筑摩書房)「個人的な思い出なのに、とても他人事とは思えない」(木村さん)
『捨てられないTシャツ』(筑摩書房)「個人的な思い出なのに、とても他人事とは思えない」(木村さん)

木村「この本は、家にある「なんだか捨てられないTシャツ」の数々が、持ち主のエピソードと写真で紹介された一冊です。すべて投稿文、投稿写真で構成されてるんですが、70枚それぞれに添えられているのは極めて個人的な思い出なのに、読んでいるととても他人事とは思えない。人生が染み込んでいるように感じられるんです」
小松「タイトルですでに、心をぐっと掴まれます!」
木村「都築響一さんが編集を務めているんですが、最初は自身のメールマガジンでこの企画を始めたそうです。投稿された文章も編集するつもりだったそうですが、いざ集めてみるとその内容が予想以上に素晴らしかったみたいで。企画自体がどんどん編集者の意図を越えていくことに、驚きと、編集者としての喜びを感じたと聞きました」
小松「すごい。Tシャツにまつわるドラマが、まさにドラマティックな展開を起こしていったわけですね」
木村。「Tシャツって、お洒落着としての一枚もあれば、二軍落ちして部屋着に変わった、なんていうのもよくある話じゃないですか。生地もすっかりダルダルになっちゃって「何だこれ?」と思うんだけれど着馴染みがあって捨てられないだとか、ほろ苦い思い出があるのになぜかTシャツだけは捨てられないだとか。そんなエピソードがいっぱい紹介されていて、リアル・クローズ・ドキュメンタリーとしても楽しめます」

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木村「モデルさんはたくさんの洋服を着ると思うんですが、ただ洋服をキレイに見せるだけがお仕事じゃないですよね。一着のコーディネートには、特集の意図、デザイナーやスタイリストの思い、それを引き立てるようなメイクやカメラワークまでが込められている。それってつまり物語を請け負うってことじゃないですか。モデル経験の長い小松さんが、この本をどう読むか、とても興味があります」
小松「あ、岩手出身の子がいます。彼氏が初めて家に泊まりに来た時に置いていったTシャツだって(笑)」
木村「「ねぇねぇ聞いて」って感じで、世間話をしているような気負ってない文章もいいんですよね。読んでると自分も誰かに話を聞いてもらいたくなる、コミュニケーションに繋がる本が日常にある喜びを感じられます」

エピソードその2「10代からの変わらない関係」

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木村「モデルとしてデビューして、その後、徐々に女優としてのお仕事がメインになっていったと思うのですが、これはご自分で希望されてのことだったんですか?」
小松「いえ。実は当時、演技をしたいっていう思いはまったくなくて。事務所に所属してすぐの頃は「あ、こういうお仕事があるんだ」くらいの気持ちで俳優さんや女優さんのことを見ていました」
木村「きっかけを与えてもらって、やり進めるうちに自分の人生に組み込まれていった感じですね」
小松「そうですね。与えられた役柄を必死でこなしていくうちに、気づけばお芝居が大好きになっていました。デビュー作が『セーラームーン』で、撮影していたのがもう16年ぐらい前になるんですが、その時のメンバーが今でも仲良しで。しょっちゅう集まっては、ご飯を食べたり、誕生日会をしたりしています」
木村「素敵ですね。10代でできた友だちって、ほんと一生モノな気がします」
小松「撮影期間も1年半くらいあったので、一緒にいる時間が学校の友だちよりも長かったんですよね」
木村「その瞬間を一緒に精一杯生きた、みたいな関係って、きっとこれからも長続きすると思います」

木村さんが処方した本は…『トリニティ(窪美澄)』

『トリニティ』(新潮社)「自分の友人関係を、見直すことができる」(木村さん)
『トリニティ』(新潮社)「自分の友人関係を、見直すことができる」(木村さん)

木村「この小説は、出版社の新雑誌編集部で出会った3人の女性の物語です。気鋭のライター、イラストレーター、そして事務という仕事に就く彼女たちが、人生をどう切り開いていったか」
小松「わ、おもしろそう!本のタイトルはどういう意味なんですか?」
木村「「トリニティ」は、キリスト教で三位一体を表す言葉です。この物語には、「結婚」「恋愛」「出産」「仕事」の4つの中から3つを選ぶとしたら? というテーマもあって。結婚すると恋愛ができなくなったり、出産するとお仕事を続けにくくなったり。今よりずっと男性中心だった1960年代の日本社会で、働く女性に厳しく問われた生き方の問題がリアルに描かれています」

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木村「小松さんも、さっきのお友達と16年も一緒にいると、人生のシーンで、それぞれが何を選んで何を諦めてきたかっていうのを間近で見てきたと思います。無意識に自分と人とを比べちゃったり、「あの子はいいなー、全部持ってて」と嫉妬しちゃったりみたいなことも、少なからずあったのかな?って。この物語に描かれた3人の生き様を知ることで、自分の友人関係を改めて見直すことができるとも思いました」

エピソードその3「フリーとしてやっていく決意」

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木村「フリーに転身して、いま全部一人でやらなきゃいけない環境にいると思うんですけど。例えば、ギャラ交渉とかも自分でしてるんですか?」
小松「そうなんです。実はそれがめちゃくちゃ苦手で。交渉方法も分からないし、何ならメールの返し方とかも自信がなくって…」
木村「そうですよね。私もフリーになった時は、お作法的なものが全く分からなくて苦労しました。常に不安と戦っていて、「私この先大丈夫なの!!」って、夜中に冷や汗かきながら目が覚めてしまうこともありました(笑)」
小松「ありますよね。「どうしよう、この先食いっぱぐれたら」みたいな不安(笑)」
木村「私はとにかく、自分がこれからやりたいことをとにかく口に出すことで突破口を見出しました。人に会って話したり、文章に書いて伝えたり…。そうすると、見てくれてる人ってのは必ずいて、新しい出会いのきっかけを得たんです。振り返ってみると、私は本当に人に恵まれていたと思いましたね。小松さんは今後、女優業以外にやってみたいことはありますか?」
小松「私は旅行とか写真を撮ったりするのが好きなので、旅の記事とか書けたらいいなと思っています」
木村「わ、素敵!文章は自分の想いがダイレクトに届くからいいですよ。事務所所属のタレント、と、フリーランスのタレント、という違いだけでも、書くものが変わってくると思います」

木村さんが処方した本は…『東京を生きる(雨宮まみ)』

『東京を生きる』(大和書房)「生々しく、ヒリヒリしていて、だけど愛おしい」(木村さん)
『東京を生きる』(大和書房)「生々しく、ヒリヒリしていて、だけど愛おしい」(木村さん)

木村「これは著者の雨宮まみさんが、東京で過ごした日々を綴ったエッセイ集です。お金、美しさ、努力、退屈、女友達、居場所、そして、幸せ…。綴られる端々に自分の気配を感じるほどに生々しく、ヒリヒリしていて、だけどどとても愛おしい。実は私、冒頭の文章で「あ、ここに書かれてあることは私の物語かもしれない」と思った箇所があって」
小松「すごく気になります。どんなシーンですか?」
木村「「十八歳で上京し、私は今年、三十六歳になった。ずっとずっと待っていた瞬間だった。九州で過ごした年月を、東京で過ごした年月が超えていく。」私もまさにその瞬間を待ち望んでいた一人だったんです」
小松 「同じことを考えている人が、この本の中にいらっしゃったわけですね」
木村「地方出身の人には刺さりますよね。生まれる場所は選べないけど、生きる場所は選べる。「私は私で決めて、いまここで生きているんだ」っていう選択を裏付けてくれる「時間」という保証が欲しかったんです。あれから3年が経ち、いまでは仕事をしていない人生より、仕事をしている人生のほうが長くもなりました」
小松 「そう考えると、私もすでに仕事してる人生のほうが長いです。あっという間のような、ものすごく長かったような…」

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木村「最近すごく感じているのは、私たちは「何者か」になるのではなく、「自分自身」になるために生きてるんだなってこと。モデルや女優、タレント、その他にもこの世の中にはあらゆる肩書きがあります。でも、その肩書きを得たからといって、それは記号でしかない。大切なのは、「自分とはどんな人間なのか」を自分で知っていくことなんですよね。自分が知って、はじめて他人とともに生きられる。『東京を生きる』は、悩んだり失敗したり、傷ついたり逃げたくなったり、誰かに人生の責任を押し付けたくなったりする日々の中で、雨宮まみが雨宮まみになっていった軌跡を感じられます。日常の中で消化しきれない感情や問題に、ふと立ち止まってしまったとき、この本が存在していることがどれほど頼もしいか知れません」

今回、ご購入いただいたのは…

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対談後、『捨てられないTシャツ/都築響一』と『トリニティ/窪美澄』の2冊をご購入いただいた小松さん。「境遇の似ている木村さんとお話ができて、すごく背中を押してもらえました!帰ってゆっくり本を読むのが楽しみです♪」とにこやかに話してくれました。彼女の今後の活躍にも乞うご期待!

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