今のあなたにピッタリなのは? 藤原さくらさんのために選んだ一冊とは/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』 (最終回)

LEARN 2022.09.30

早朝の本屋さんに “はじめまして” の方を呼び出して、一方的に本を勧め続けるこの連載も、ついに今回が最終回! ゲストの藤原さんが、前のめりに話を聞いてくれたおかげで、気付けば、ものすごい数の本を差し出してしまっていた私…。今回はその中から、選りすぐりの3冊をご紹介させていただきます。連載の終了はちょっぴり寂しいけれど、もう思い残すことはありません!

今回のゲストは、藤原さくらさん。

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初めてのライブは、高校1年生の時に長野県のホテルで。お客さんの入りが悪く、くじけそうになりながらも、予定にはなかったビートルズの歌を歌って、人を集めた経験が大きな自信に。以降、「どうやったら、たくさんの人に聴いてもらえるだろう?」という考えが、ライブをする上でのスタンスになっているのだとか。

まずは、音楽を始めたきっかけから。

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木村綾子(以下、木村)「はじめまして。最終回にお越しいただき、ありがとうございます。実は私、藤原さんの声が本当に好きで…!女性で一番好きな声なんです」
藤原さくら(以下、藤原)「ええ、そんなに!?(笑)最大の誉め言葉じゃないですか」
木村「 初めて拝見したのはドラマの『ラヴソング』だったんですけど、喋っている声を聞いて「あ、好き…」となって、歌声を聞いて完全にノックアウトされてしまって。 今日はその声を独り占めできるのかと思って内心興奮しています(笑)」
藤原「嬉しいです…!」

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木村「藤原さんが音楽を始めたきっかけは、何だったんですか?」
藤原「小学生の時に、父からクラシックギターを譲り受けたんです。「これが弾けたらカッコイイかも」っていうナンパな気持ちで、最初は弾き始めました。男の子の言う「モテたい!」みたいな感覚に近かったんじゃないかと思います」
木村「小学生の、しかも女の子がクラシックギターを弾く姿…、間違いなくカッコいいですね。人前で歌うようになったのはいつ頃から?」
藤原「お花見の時に「スピッツさんの曲を歌うので、来てください」とか言って、手づくりのチケットを配って回っていたのを覚えています。あと、小学生の時に「茶話会(さわかい)」っていう、みんなでお茶を飲みながらお喋りをする会があったんですけど、そこでも出し物として歌ったりしていましたね」
木村「父親からギターを譲り受けて、身内や地元の人に聞いてもらうところから歌う世界を広げていったんですね。プロを意識しはじめたきっかけは?」
藤原「高校生の時に、YUIさんの存在を知ったのがきっかけでした。『Rolling star』っていう曲を地元の〈TSUTAYA〉で聞いた時に、ビビッと来て! 自分で曲を作って、それを歌う人のことを「シンガーソングライター」と呼ぶことを知ったのも、その頃だったと思います」

エピソードその1「“耳なじみの良さ”を大事にしたい」

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木村「藤原さんの楽曲作りについても伺いたいです。どうやって作っているんですか?」
藤原「メロディーが先行で、そこに馴染む言葉を探していく感覚で作っています。「この気持ちを歌にしたい!」みたいな衝動に駆られて曲を作るというよりも、気持ちいいなと感じるメロディーに言葉を乗せていくうちに、だんだん歌の世界が見えてくる感覚ですね」
木村「おもしろいですね。でも分かる気がします。さっき私、藤原さんの声が好きだと言いましたけど、歌も、音と声と言葉が自然に混じり合っていて、聞いていてとにかく耳が気持ちいいんですよね」
藤原「嬉しいです。父の影響で小さい頃から洋楽を聞く機会が多かったことが影響してるんだと思います。言葉が分からないから、音として捉えるしかなくて。ただ、言葉の意味を飛び越えて、感動したり涙が出たりっていう感覚は、幼いながらにあったんですよ。きっと、クラシックを聴いたり、インスト※ の曲を聴く感覚に似てるのかなと思うんですが… 」
木村「言葉を音として捉えていた原体験が、ご自身の曲作りにも生きているんですね」
藤原「あとは、昔から、カフェやレストランなど、本来、音楽を聴く目的で来ていないお客さんがいるところでライブをする機会が多かったので、“耳なじみの良さ” みたいなのは自然と意識しているのかもしれません」

※歌のない楽曲だけで演奏された曲のこと。

処方した本は…『夜の声(スティーヴン・ミルハウザー)』

木村「これは、スティーヴン・ミルハウザーというアメリカの作家作品を、柴田元幸さんという翻訳家が訳した小説集です。翻訳小説って、一回言葉の壁を挟むじゃないですか。私は英語がさっぱりなので、面白い翻訳小説に出会うたびに、「原文で読めたらもっと作家の肉声に近づけるのに…!」ともどかしくなってしまうんですが、柴田さんの訳するものは、まるで作家の声が聞こえてくるようなんです。英文を音で捉えて、日本語で物語を再構築していく作業が、どこどなく藤原さんが話してくれたことに通じるなと思いました」
藤原「わ、この表紙、紙の触り心地がすごくいいですね。肌が吸い込まれていくような感じがします。それに表紙絵も、耳を澄ませてるイメージが浮かびます」
木村「まさに表題作「夜の声」は、旧約聖書に書かれている、夜中になると自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくるというエピソードを元に、毎夜、耳を澄ませ続ける少年の物語なんですよ」
藤原「素敵ですね。私、曲作りはいつも夜にするんです。話を聞いていて、メロディーが浮かぶのを待っている感覚を思い出しました」
木村「他にも、人魚や幽霊が出てくるお話や、ラプンツェルのように有名な寓話をモチーフにしてまったく新しい物語に語り直していく作品など、発想にも驚かされます」
藤原「ラプンツェル…!実は私、コロナに感染して自宅隔離中だった期間、「私はいまラプンツェル…」って感じていたんです。めちゃくちゃ暇すぎて(笑)」
木村「…かわいい(笑)。ラプンツェルもミルハウザーの手にかかるとどうなるか、ぜひ読んでいただきたいです」

エピソードその2「オンとオフの切り替えは、頭のなかを空っぽにすること」

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木村「18歳で福岡から上京して、20歳でドラマの主人公に大抜擢されて、現在26歳。怒涛の日々だったんじゃないですか?」
藤原「そうですね。正直に言うと、ところどころ記憶がないんです…(笑)。特に初めてのドラマ現場での感想は、「福山雅治さんってほんとに存在してたんだ!」とか、「セットの壁が急に消えた!」とか。とにかく、自分に与えられた役をやり通すことに必死で、無我夢中でした」
木村「音楽活動に専念するために上京した一方で、演技初挑戦で臨んだ月9ドラマで女優としても一躍注目を浴びられたわけですが、そこに葛藤みたいなものはなかったですか?」
藤原「それはなかったですね。というのも、『ラブソング』で私が演じた役は、歌を歌う女の子だったので、自分と重ねられる部分が多かったんです。吃音症に苦しむ役どころは難しかったですが、「伝えたいことがあるのにうまく言葉にならない」みたいな経験は私もたくさんしてきたので、そのときのもどかしさを呼び覚まして役に活かしたりしてました」
木村「他者を演じることで、むしろ自分の感覚が冴えたり、忘れていたことを思い出したり…。いい相互作用が生まれてるんですね」
藤原「そう思います。最近は、自分とまったく違うタイプの役を演じることにも面白みを感じられるようになってきました」
木村「音楽とお芝居、仕事とプライベート。スイッチの切り替えは上手にできるタイプですか?」
藤原「いろいろやっているからこそ、そこから受けた刺激が新しい表現に繋がってるなと思うんですが、舞台のように、一定期間集中して作品世界にグーッと入り込んでいる時は、逆に作り込まれている作品が見れなくなってしまうことがあります」
木村「完璧に世界観が出来上がっていたり、コンセプトが明確でメッセージ性の強い感じの作品、みたいな?」
藤原「そうです。エッセイやドキュメンタリーのような、自然な人間を見るのがラクに感じる時がありましたね。あと、とにかく気楽なもの…!」
木村「藤原さんの言う「気楽なもの」が、すごく気になります」
藤原「ロバート秋山さんの『市民プール万歳』って番組とかご存じですか? 秋山さんが、ただただプールに来ている主婦に話しかけるっていう…」
木村「頭を空っぽにして観れそうですね(笑)」
藤原「そうなんです。今でも、そういうのが心底、心地よく感じる瞬間がありますね」

処方した本は…『そして誰もゆとらなくなった(朝井リョウ )』

木村「頭空っぽにしてただただ笑って楽しめる本といえば、朝井リョウさんのエッセイ集です!大学時代の青春エピソードや、会社員時代のこと、直木賞作家の日常などをテーマに綴ってきたエッセイシリーズの、これは完結編なんですが、なんと今回なぜか500枚もの書き下ろしで発売されました(笑)」
藤原「私、朝井さんのエッセイがすごい好きなんです! シリーズものの『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』も読んでいて、本読んでこんなに笑ったの初めてってくらい笑ったんですが、最新刊、しかも完結編が出ていたのは知らなかったです」
木村「藤原さんもすでに“ゆとらー”だったんですね! それなら話は早いですが、本作も、これまでと言ってることやってることほぼ変わりません!!(笑)」
藤原「相変わらずお腹が弱くて、旅行に行けば失敗して…?(笑)」
木村「痔持ちで、余興に全力投球して呆れられて(笑)。作家・朝井リョウとして磨いてきた筆力フルで笑かしにかかってくるんで、今回も覚悟してくださいね」
藤原「「あなた本当に『何者』書いた人ですか!?」ってツッコみたくなるくらい、振り幅がすごいんですよね(笑)」
木村「ほんとほんと(笑)。学べることとか、生活に役立つこととか、人生の教訓とかまるでナシ。ただただ笑って無になれる文章に、ものすごく癒やし効果があるから不思議です」

エピソードその3「あ、好きかもしれない…!」

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木村「そういえば、先日、担当の編集さんから、4年前の『BRUTUS(アミューズ創立40周年特集号)』に載っている藤原さんのインタビューを見せてもらったんですよ。『きたれ変態(マニア)さん!』ってコラムなんですけど、覚えていますか?」
藤原「うっすらとですが、覚えています。私が、“牛” と “筋肉” について、熱苦しく語っているものじゃないですか?(笑) 」
木村「そう、それです! これが、本当に面白くて。藤原さん自作のキャラクター「牛マッチョ」も、しっかりと紹介されていました。ちなみに、筋肉に目覚めたきっかけとかって、何かあったんですか?」
藤原「映画の『ゴッドファーザー』に出てくるソニーは分かりますか? 主人公のお兄ちゃんで、すぐに死んでしまう役なんですが」
木村「ごめんなさい、ちょっと分からない(笑)」
藤原「彼が、かなりガッチリしているんですが、暗殺を企てるシーンで白のタンクトップ姿にサスペンダーを合わせていたんですよ。初め、それを笑いながら見ていたんですけど、それがだんだんと頭から離れなくなってしまい…。「あ、好きかもしれない…!」って」
木村「すごい瞬間に、開眼してしまったんですね」
藤原「マッチョってあんなに強そうに見えて、体脂肪率が低いゆえに風邪を引きやすかったり、サプリメントの撮りすぎで内臓が弱っていたりと、脆いんですよね。そういう儚さみたいなものも含めて、なんだか愛しい気持ちになるんです」

処方した本は…『我が友、スミス(石田夏穂)』

木村「筋肉好きの藤原さんなら、このタイトルにある「スミス」が何か、分かりますか?」
藤原「えっ、なんだろう…」
木村「ヒント、これは女性ボディ・ビルダーのお話です」
藤原「もしかしてトレーニングマシーンのスミスですか!? こう、バーベルがレールに固定された。パーソナルに通っていた時に、めちゃくちゃやっていました」
木村「正解です! それを「我が友」と呼んで、日々筋トレに励んでいた会社員が、ボディ・ビル大会への出場を勧められて、結果残すために必要なことと向き合っていくんです。筋トレと食事制限で体はどんどん引き締まっていく一方で、実は女性ビルダーに求められるのは筋肉だけじゃなく、綺麗に伸びた髪だったり、脱毛した体だったり、12センチのハイヒールだったりピアスだったり、ハイビスカス色のビキニだったり…。「別の生き物になりたい」と願って臨んだボディ・ビルが、実は「女らしさ」も鍛えなければならない世界だったことに気づく」
藤原「わー、皮肉! でもすごく面白そうです!」
木村「ジムや会社での人間観察も面白くて、リアルなんですよね。ジムに来てるのに自撮りばかりしている子に向ける視線や考察には、思わず唸りますよ(笑)。スミスを使ったこともあって、筋肉を愛する藤原さんにこそ読んでいただきたい一冊です!」

対談を終えて。

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対談後、『夜の声』を購入してくれた藤原さん。「この連載が終わってしまうのが残念です。永遠(とわ)に続いてほしいぃぃ」と、最終回を惜しんでくれました。藤原さんの作品&ライブの最新情報はこちらから。現在、全国ツアー『弾き語りツアー 2022-2023 “heartbeat”』が開催中のほか、11/9(水)には、新シングルEP『まばたき』の発売も控えているのだそう。皆さん、是非チェックを~!

https://www.fujiwarasakura.com/

お世話になった皆さまへ。

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「2019年5月からトータルで37回。私の転職や独立、コロナ危機も乗り越え、長い期間お世話になりました。毎月はじめましての方をお迎えして、本を差し出すという即興を完走できたことが、自信になり財産にもなりました。この連載に出演してくださった35人のゲストの皆さま、そして毎月の公開を楽しみにしてくださったハナコ読者の皆さま、本当にありがとうございました。どこかでばったりお会いしたら、そのときは、私に本を処方させてください!(笑)」

photo:Hiromi Kurokawa 撮影協力:二子玉川 蔦屋家電

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