小石原はるかの“食事放談”EATING OUT 2024、食のトレンド予報。 FOOD 2024.05.07

2024年もあと少しで折り返し。2023年末からのフードシーンを振り返り、今を象徴するお店を考えます。語るのは、小石原はるかさんが「新店情報を聞くならこの方」と頼りにする編集者の大木淳夫さんです。

まぐるしく変化する東京のフードシーンを注視しつつ、毎食どこで何を食べるかを考え続けるライターの小石原はるかさん。今回は、その確かな情報力に小石原さんが信頼を寄せる編集者・大木淳夫さんと、2024年のトレンドを予想します。

小石原はるか(以下、小石原) 今年もこの季節がやってきました。昨年の後半から今年にかけて心に残ったお店はどちらでしょうか。

大木淳夫(以下、大木) 今話題なのは、〈立呑み中華 起率礼〉ですね。大阪では立ち飲み中華っていくつかお店があるらしいんですが、東京では珍しい。オーナーは〈立呑み 鉄砲玉〉を成功させた方です。店は狭くともガス台は本格中華店の佇まい。また、厨房に立つのはまだ20代の女性料理人なのですが、その日入った魚を蒸して出してくれたり、立ち飲みとは思えない料理が出てきます。

小石原 鮮魚料理って贅沢じゃないですか。それがカジュアルなお店でつまめるのは画期的。

大木 ハムユイ(魚を塩漬けにした発酵食品)チャーハンとか、〝通〟な感じの広東料理もあります。小皿もアンティークでおしゃれなんですよね。すごく上手だと思います。

自由が丘〈立呑み中華起率礼〉(中華料理)

本格中華料理をカジュアルにつまむ。

大皿をみんなでシェアするのが一般的な中華料理だが、ここは一人で二品、三品つまみながらお酒が飲める小粋な店。広東料理や四川料理をはじめ、旬の野菜や魚を活かす創作も、軽やかに仕上げる。香り高い台湾茶を使ったお酒をお供にすれば、次々と箸が進む。

小石原 お酒は何を合わせるんですか?

大木 お茶割りにこだわっているみたいです。流行る要素がたっぷり。このお店を筆頭に、今年は中華の勢いがいいですね。

小石原 同感です。そういえば近頃、老舗の復活が続いているような。直近では2021年に閉店した〈コルシカ〉ですね。

大木 かつてのオーナーシェフ公認で、愛弟子が引き継いだんですよね。いい流れです。

小石原 尊いことですよね。大木さんが詳しい寿司の分野はいかがでしょう? 立ち食いのブームは一旦落ち着いた印象です。

大木 より一層、いろいろな価格帯に細分化してきましたよね。

小石原 コース5万円、6万円というものがあまりに増えたことによる反動ですよね。

恵比寿〈コルシカ1970〉(イタリアン)

“あの味”を徹底的に再現し続ける誇り。

「イタリアンというよりは古き良き洋食屋のような店でした。常連客でにぎわい、ここにしかない空気があって。この食文化を受け継いでいきたいんです」と、店主の北村新さん。復活に向けた準備期間に知識と経験を積み、当時の料理にも磨きをかけている。

大木 いきなり高級なものを食べるより、段階を踏んだ方がいいということもありますから、選択肢が増えたのは良い傾向。最近のおすすめは〈すし乾山〉。町寿司の物件を買い取って改装したお店なので、内装は昔ながらで落ち着く感じで、店主の新田真治さん自らが握ってくれます。

小石原 若い料理人の活躍も目立っていますね。私がいいなと思ったのは〈繁邦〉の青木虎太郎シェフ。昼はカフェ、夜はビストロとして営業しています。

大木 センスが良くて、気配り目配りが行き届いていますよね。

小石原 ベーカリーを併設していることもあり、クロスティーニや、前菜としてのトーストを食べましたがどちらもいい感じ。勘所を押さえていますね。

大木 ソムリエは〈ラ・ボンヌターブル〉出身。セレクトがさすがだなぁ、と思いました。

小石原 落ち着いた内装もいい。

恵比寿〈繁邦〉(ベーカリーカフェ&ビストロ )

“今年は中華のいい店が増えています”(大木)

両親のパンづくりを源流に素材を見極め組み合わせる。

大木 あとは、虎ノ門ヒルズでは引き続き話題が豊富。特に〈cask〉は良かったですね。下に吹き抜けになっていて、日比谷線が見えるおもしろい造りです。まるでヨーロッパのような景色で。

小石原 老舗スーパー〈信濃屋〉の新業態に青山のワインレストラン〈W Aoyama〉の新店舗が併設しているんですよね。ワインのセレクトは間違いなさそう。虎ノ門ヒルズステーションタワーは4階が楽しいですよ。〈fa
lò+〉が圧倒的にいいと思います。こちらも若いスタッフが頑張っていて。パンのかけらや豆から味噌や醤油にしていたりと、おびただしい種類の発酵調味料を自家製しているんです。豚で熟鮓を作り、ポルケッタに合わせたメニューが象徴的。

大木 「イタリアっぽい風呂吹き大根」という料理も面白い。

小石原 吟味された素材が発酵調味料と組み合わせられ、本当においしい。席の作り方もよく考えられています。

大木 ほかのお客さんとうまく目線が外れるように椅子の向きや高さが工夫されているんですよね。これから応援したくなるいい店です。

虎ノ門ヒルズ〈falò+〉(イタリアン)

“若い料理人の活躍が目覚ましい!”(小石原)

都会の中心でプリミティブな炭火料理を。

次回のゲストはじょいっこさんで、「新大久保で世界旅行」がテーマです。

photo_Kaori Ouchi illustration_Chihiro Yoshii text_Kahoko Nishimura

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