小石原はるかの“食事放談”EATING OUT 食のプロが太鼓判を押す、肉名人のいるレストラン4選。 FOOD 2024.03.25

一口に肉料理といっても、ステーキ、ハムやパテなどのシャルキュトリ、フライ、とフレンチ&イタリアンだけでも幅広い。どのレストランでどんな肉料理を食べるべき?肉を語らせたら止まらない二人が考えた。

一食たりとも無駄にしたくない」と、どこで何を食べるか吟味を欠かさないライターの小石原はるかさんがゲストを招いて対談。今回は日本バーベキュー協会公認の上級インストラクターの資格も持つ松浦達也さんと一緒に、肉料理の匠がいる店を考察した。

小石原はるか(以下、小石原) 松浦さんは近著に焼肉の本もあり、〝焼肉の人〟になりつつありますね。それに限らず肉にお詳しい松浦さんから見て、東京に数多あるお店の中から注目すべきスポットや料理人を教えていただきたいなと思います。

松浦達也(以下、松浦) 普段から我々が話している内容ですが(笑)。肉料理で評判がいいフレンチの最たる例が〈マルディ・グラ〉。早くから短角牛を扱っていたパイオニアです。

小石原 肉シェフという感じで認知されたのが、同店の和知徹シェフでしたね。牛がメインだけど、フライドチキンやラムチョップなど肉の種類はさまざま。

松浦  和知さんは始祖ですね。

小石原 肉の名店といえば、〈イバイア〉のヒレカツがすごいと思います。寡黙なシェフですが、おいしいものを作ってくれそうという雰囲気もあり。

松浦  気がついたらヒレカツがシグネチャーになっていました。

小石原 既製品のソースが添えられる店もあると思いますが、手をかけたソースを敷いている点にフレンチの矜持を感じます。

松浦  イタリアンなら塩と胡椒。魯山人ならわさび醤油(笑)。

小石原 マダムのご実家が農園をやっていて、野菜も大変おいしいんですよね。

東銀座 〈IBAIA〉 (フレンチ)

お客のオーダー率100%!鮮やかなロゼ色の牛ヒレカツ。

住民も多い東銀座の街になじむよう試行錯誤して作った気取らないメニューのなかで、分厚い肉を使ったほかにはない牛ヒレカツが大ヒット。ミラノ風カツレツに着想を得て、パセリやニンニク入りの衣を纏わせ、柔らかい肉質を損なわないようミディアムレアに。

そのまま食べても、ソースにつけても。
衣の下味だけでも味わい深いが、赤ワイン、ポルト酒、マディラ酒、フォン・ド・ボーと野菜を煮込んだソースもさっぱりと美味。

“パテアンクルートにはフレンチの技術が詰まっています”(小石原はるか)

小石原 〈イバイア〉のように、長くやっていらっしゃって定着しているお店では、〈レストラン ユニック〉のシェフも肉名人ではないでしょうか。

松浦  ジビエ系が多く、クラシカルな料理が得意ですね。

小石原 パリの二ツ星レストランで肉のセクションも担当されたとか。中井シェフのパテアンクルートは素晴らしいですよ。焼きだけでなく、加工もお上手。

松浦  料理の練度と精度が如実に反映されるメニューですよね。

小石原 コンソメをひいて、パイを作って、中身の肉だねを作って、とフランス料理のいろんな技術が詰まっていますから。「焼き」にフォーカスすると、今はやはり塊肉でしょうか?

松浦  そうですね。少し前までのNY式のTボーンステーキの流行は落ち着いて、質のいい肉を塊で焼く店が増えました。

小石原 素人目では難しそうですが、塊で焼くほうがおいしいんですかね。

目黒 〈restaurantunique〉 (フレンチ)

旬の肉を詰め合わせたパイ包み。
春には乳飲み仔羊、秋冬にはジビエなど、肉の種類でも季節を感じられるここでは、パテアンクルートのレシピも旬の食材で作り替える。今の時季はイノシシや鴨胸肉にフランス産のトランペットキノコやピスタチオを合わせて。粗くカットした肉が食感と風味を増強。

フレンチの基本的な技術の高さを見せる一皿。
パイ生地を作り、コンソメをひき、肉をマリネするなど、一台完成させるのに4日以上かかるパテアンクルートは、技術力の賜物。

“塊で肉を焼くのは見た目にも味にもいい作用”(松浦達也)

松浦  肉焼きに精通したシェフは、むしろ塊のほうが焼きやすいと言います。炭火なら〈イルジョット〉も素晴らしいですよ。魚やパスタもお上手ですが、肉の火入れが抜群なんです。いつもビタッと完璧な具合で。繊細な作業には見えないのですが、仕上がりがいつもバッチリで「この人は見えないはずの肉の内側が見えているのだろうか」と思うくらいに内部まで精妙な加減で焼かれています。

小石原 外は香ばしく、中はしっとりとしている感じですね。

松浦  断面を一面綺麗にロゼにしたり、グラデーションをつけたり、その時々の肉や調理法に合わせて見事に仕上げてきます。

小石原 実は私は一回しか行ったことがなくて。

駒沢大学〈ILGiOTTO〉(イタリアン)

炭焼きの肉を塩でいただく、プリミティブで豊かな体験。

松浦  それはもったいない! ほかには〈メログラーノ〉の後藤シェフも同じようにお上手で、焼きをすごく研究していますね。ほかのレストランの焼き方もすごくよく見ていて、熱心な姿勢が素晴らしいなと思います。

小石原 いろんな匠がいますね。

松浦  ここまでの流れと少し違ったルーツを持つ〈クラフトミートラボ〉もおすすめです。牛肉好きが高じてIT業から精肉業に転身した店主なのですが、肉を酸化させずに熟成を進めるため、窒素を充填できるように冷蔵庫を改造するほど熟成を追求しています。

小石原 アカデミック!

松浦  鮮度命のホルモンも10日ほど寝かせて、柔らかい食感なのに臭みゼロ!

小石原 極まってますね。東京の肉シーン、まだまだ盛り上がりそうです!

赤羽〈CRAFTMEAT&LAB.〉(肉料理)

牛肉をいかにおいしく食べるか、お客と一緒に追求するラボ。

次号のゲストは小宮山悠飛さんで、テーマは「ソロ飯の極意」です。

photo_Kaori Ouchi illustration_Chihiro Yoshii text_Kahoko Nishimura

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