「一日、一短歌」2024年4月の歌人・橋爪志保さんインタビュー
毎月1人歌人が登場し、自選の短歌を毎日1首ずつご紹介。2024年4月は生まれ育った京都を拠点に活動する橋爪志保さんの作品たち。第一歌集『地上絵』から全30作をセレクト。これに合わせて、短歌との出会いとこれまでの活動、短歌と小説の制作の違いまで語ってくれた。
中高生の頃に出会った穂村弘のエッセイと雪舟えまの短歌。
小中学生のころから小説や詩を書いていました。短歌も存在は知っていたけれど、意識するようになったのは中学3年生のとき。教科書の後ろのほうに載っていた穂村弘さんの短いエッセイ「それはトンボの頭だった」を読んだことがきっかけでした。短歌の選者を務めていたときに、路上にトンボの頭が落ちていた、という内容の歌を見つけてすごくいいなと思ったという話で。社会的には無意味で役に立たないものこそ、詩歌の中では価値が出るのだと。そのことがすごく印象に残ったんです。
穂村さんの短歌を熱心に読んだのは高校1年生になってからでした。授業で作歌することになったのを機に現代短歌を読んでみようと手に取った本のひとつです。ほかにも本屋さんで「短歌」と書いてあるものは見てまわりました。その1冊に雑誌『短歌研究』も。たまたまこのときの特集が「短歌研究新人賞」で、次席になった雪舟えまさんの短歌が載っていたのですが、この作品との出会いは、世界が変わった! と感じるほど私にとって大きな出来事でした。
「京大短歌」から同人活動へ。
以来、雪舟さんの作品は大切な存在で本格的に短歌を作るきっかけにもなりました。というのも「京大短歌」に参加したのも雪舟さんの歌集『たんぽるぽる』があったからこそなんです。大学生のときに本を紹介するポップの賞レースがあって、取り上げたのがこの歌集。このポップが銀賞をもらって、その結果が新聞に載り、紙面をみた「京大短歌」の当時の会員の廣野翔一さんがSNSで声をかけてくれて、参加することになったんです。
初めての歌会は、びっくりしました。短歌を一首持って行ったのですが、初対面の人に「雪舟えまさんの作風、好きじゃないですか?」と言われて(笑)。嬉しいような恥ずかしいような気持ちではありつつ、たった31音をそこまで深く読んでくれるのかと。作るほどにハマっていって、月3、4回ペースの歌会も4年生のころにはほとんど全部出席したほどでした。
「京大短歌」の活動は歌会のほかに早稲田短歌会と共催する合宿もありました。これに限らず学生短歌会同士は繋がりがあります。私が参加する短歌同人「羽根と根」も、もとは学生歌人の集まりです。「羽根と根」のほかに「のど笛」「ジングル」に参加しています。短歌同人では文学フリマなどを目標に同人誌を作ったり、ネット歌会をやったり、メンバーで展示を企画することもあります。
第一歌集を上梓。短歌作りはノリノリで。
同人活動を継続しながら、短歌賞にも投稿しました。といってもたくさん作れるタイプではないと思ったので、当時あった新人の賞すべてに一度ずつだけ応募しようと頑張って、評価してくれたのが書肆侃侃房が主催する笹井宏之賞。個人賞の永井祐賞をいただいたのを機に、第一歌集『地上絵』をまとめました。掲載する短歌はすぐに決められたけれど、連作の並び順は悩みに悩んで......。初見の読者がどういう流れで読んでいくかうまく想像できなかったんです。結果、賞をくれた永井さんに監修していただきました。このことはもちろん、尊敬する歌人の宇都宮敦さんに解説を、表紙はこの人にと思っていた画家・イケガミヨリユキさんに装画を、それぞれ手がけていただいて大満足の1冊になりました。
歌集を発売した翌年、2022年から短編小説も意識的に書くようになりました。小さい頃から書いてきたし、この年、雑誌『文藝』が1年限定で「文藝賞〈短篇部門〉」を復活させたのもきっかけのひとつ。小説は、苦しいです。単純に書き上げるまで面白いのかわからない。だから書き切ることすら難しい。その点、短歌はできた瞬間にわかる。自分をすぐに喜ばせることができるんです。実際、作歌中はいつもノリノリです(笑)。ときにノリノリで、ときに苦しみつつ、自分のペースで制作していきたいですね。
橋爪志保/著『地上絵』(書肆侃侃房)1,870円
2021年に発売した橋爪さんの第一歌集。20歳から27歳の間に作ってきた317首を収録。