いまも昔も最先端! 兜町レトロ建築探訪。
#みんなが兜町に集まる理由 TRAVEL 2023.04.22

日本一の金融街として栄華を極めた兜町は、歴史的な建造物が多く残る場所でもある。旧きを尊び、未来へつなぐ。兜町イズムを感じられる建築散歩の旅へ出かけてみよう。

明治から昭和にかけて、金融の街として発展した兜町。関東大震災で町一帯が焼失したことをきっかけに、耐熱耐火性を見直した建物が次々と建てられ、近代的な街並みへと変わっていったといわれている。

現在もその面影は街のいたるところに残っており、建築ファンのみならず、レトロな建物を目指してこの場所を訪れる若い世代も多い。例えば、昭和初期に「日本資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一邸の跡地に竣工した日証館。証券会社を集めた古典様式風のモダン建築は当時、ここで働く人々にとって日本経済の飛躍を確信させる存在だったことを想像させる。多くの銀行建築に携わった西村好時による山二証券フィリップ証券など、創建時からの雰囲気をそのまま伝える建物がある一方で、外観や佇まいはそのままに、アダプティブリユース(適応型再生利用)の考えのもと再スタートをした〈K5〉のような施設が誕生していることも、兜町に新しい人の流れを生んでいる理由だ。

さらに、昨年の4月には高層木造建築の可能性を追求した〈KITOKI〉が開業。環境負荷にも配慮した“次世代建築”に注目が集まる。

兜町の名建築を巡れば、受け継がれてきた価値を継承し、豊かな未来へつなげる心を体感できるはずだ。

日証館

DMA-日証館外観 (入口)

兜町の“顔”としてオーラを放つ昭和初期の名建築。
1928年に東京株式取引所により旧・渋沢栄一邸の跡地に竣工。高度経済成長期は多くの証券会社が入る金融ビルとしてその名を馳せた。地上5・6階はひな壇のような形状になっており、古典様式風のモダンな佇まいに兜町の歴史を垣間見ることができる。リノベーションされた1階に2021年、チョコレート&アイスクリームショップ〈teal〉がオープンし、話題に。

山二証券

DMA-_MG_9156

レトロさと華やかさが共存するスパニッシュ様式を採用。
大正から昭和にかけて多くの銀行建築を手がけた西村好時によるデザインで、1936年に竣工。屋根にはスペイン瓦、丸窓、煙突などを取り入れ、銀行としてはめずらしいスパニッシュ様式に。同じ建築家による建物ながら、まったく異なる意匠として、隣接するフィリップ証券(旧成瀬証券)と対比されることも多い。実際に訪れて、その違いを見てみるのも一興。

フィリップ証券

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アール・デコ様式を取り入れた石づくりのモダンな建物。
山二証券を手がけた西村好時による設計で、1935年に竣工。もともとは成瀬証券が入る建物だったが、2011年にフィリップ ファイナンシャルスと合併したことで現在の屋号に。石張りの列柱が4本並び、そのあいだに開口部がはめこまれたデザインはシンプルながらモダンで個性的。その重厚感漂う雰囲気でドラマや映画の撮影に使用されることも多い。

K5(ケーファイブ)

歴史的建造物の雰囲気はそのままに新たな文化を発信。
1923年に竣工し、以前は銀行だった建造物の外観をそのままに2020年にリノベーション。往時の雰囲気を残しながらホテルと飲食店などが入るマイクロコンプレックスとして生まれ変わった。ホテルの空間デザインや客室インテリアはスウェーデンの建築ユニット「クラーソン・コイヴィスト・ルーネ」によるもので、和と北欧のテイストが絶妙なバランスで融合。

KITOKI(キトキ)

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地球に優しいハイブリッド木造建築でSDGsの“起点”を体現。
鉄骨コンクリート構造のなかに木造建築を組み合わせた日本初の建築様式で、国土交通省が推進する「サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」としても注目を集める。オフィスフロアの内装には、緑や自然の要素を取り入れたバイオフィリックデザインを採用。1階に木材ブロックを利用したベンチも。木質感のある〈平和どぶろく兜町醸造所〉もオープン。

photo : Kayoko Aoki text : Kimiko Yamada

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