「一日、一短歌」2024年3月の歌人・山階基インタビュー

CULTURE 2024.03.03

毎月1人歌人が登場し、自選の短歌を毎日1首ずつご紹介。2024年3月は山階基さんの作品たち。これまでに刊行してきた2歌集から全29作をセレクト。これに合わせて、短歌との出会いとこれまでの付き合いかた、歌集を発売するまでのエピソードを教えてくれた。

約3か月で捨て去った幻の短歌ノート。

短歌をはじめて意識したのは高校3年生の冬でした。図書室で受験勉強の息抜きに棚を見ていて俵万智さんの『サラダ記念日』を見つけたんです。そこで「あれか!」と気がついて。というのも、中学の国語の授業で何度も音読していたから覚えていたんです。〈「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日〉を。ただ、短歌だけの本を見たのは初めて。だからページをめくってみて驚き、そのままのめり込みました。今思うと、歌集に満ちている恋愛の気分とか、バブルの末期ならではの明るい空気感にあてられていたのかなと思います。地元広島から東京へ受験に行くときには『サラダ記念日』と『かぜのてのひら』(俵万智さんの第二歌集)を持って行ったほど。そのころ買い置きのノートに短歌を書いていたのですが、上京するときに捨ててしまいました。恋愛の歌ばかりで読み返してすごく恥ずかしくなって(笑)。

サークル・早稲田短歌会と短歌結社・未来短歌会への参加。

いったん短歌に対する興味は薄れていたんですけど、大学でたまたま「早稲田短歌会」の新歓チラシをもらったので覗いてみたら、居心地がよくて参加することに。主な活動は週1回の歌会。だいたい10人くらいが作ってきた短歌を見せ合い、いいと思ったものを中心にコメントをします。はじめはコメントをもらえると嬉しくて、モチベーションになりましたね。歌会で評をし合う、というのが短歌の原体験になったと思います。
大学在学中に短歌結社「未来短歌会」にも参加するようになりました。ここは、選者を務める歌人に毎月最大10首の短歌を送り、採用された作品が結社が作る雑誌『未来』に掲載される、というスタイル。選者の黒瀬珂瀾さんの短歌の「読み」が魅力的で、担当されている「陸から海へ」欄に入りました。そのほかの活動としては、同年代くらいの人たちと一緒に、大学在学中に『はならび』、卒業してから『穀物』という短歌の同人誌を作って作品を発表していました。

新人賞“次席”と歌集発売に至るまで。

書きはじめて半年ほどで新人賞への応募も始めました。応募していたのは4つの短歌雑誌、『短歌研究』(短歌研究社)、『短歌』(角川文化振興財団)、『歌壇』(本阿弥書店)、そして『現代短歌』(現代短歌社)の版元が主催する賞です。現代短歌社賞は新旧問わず300首、他の3誌の賞は新作30首か50首を提出します。毎年のように送っていたのですが、最高でも次席、2018年には2誌の賞で次席になって、正直もう賞に向けてやれることはやりきったかもしれないと思いました。だからこそ、ここまでやってきた作品をまとめてみようと思って制作したのが第一歌集『風にあたる』です。
およそ9年間で作った1200首あまりから346首まで絞りに絞って、自分で本文組と装幀をしました。「早稲田短歌会」の機関誌を制作したことを機に、印刷物のレイアウトなどを作れるIndesignには親しんでいたんです。それで、当時はやけっぱちだったので(笑)、SNSに「あとは印刷するだけなんだけどな」みたいなことを書き込んだら、歌人の枡野浩一さんが広めてくれて、結果的に短歌研究社が手を挙げてくれたんです。予算の縛りさえ守ればどう作ってもいいと言ってくれたので、その条件のなかでなるべく美しく、作品に似合う装幀を目指しました。

その後の『短歌研究』での約2年間の連載を中心にまとめたのが、第二歌集『夜を着こなせたなら』。連載時から「本にまとめるときに没にする歌が出ないようにしよう」と意気込んでいました。というのも、『風にあたる』を出したとき、友人に短歌の数を絞りすぎだと言われたんです。絞ったことに後悔はないのですが、歌集からは落としたけれど気に入っている歌をまとめた少部数の私家版『風にあたる拾遺』も制作しました。こうした経緯もあって、いい歌だけをつくりたい、と日々連載のことばかり考えて過ごしていました。今読み返しても、自分にかけていたプレッシャーを思い出します(笑)。『風にあたる』は高橋祐次さんに装画をお借りしたほかは一人でやれることをつきつめて制作したので、今度は自分だけでは決して辿り着かない、まったくちがう感じの本になってほしくて、装画を高山燦基さん、装幀を名久井直子さんにいちからすべてお任せしました。おかげさまで素晴らしい本になっていると信じています。

夜を着こなせたなら

山階基/著『夜を着こなせたなら』(短歌研究社)2,200円
4年振りに発売した第二歌集。第一歌集以来の『短歌研究』連載のほか、同人誌などに寄稿してきた全384首を掲載。

一日、一短歌。山階基さんの今日の短歌はこちら

一日、一短歌
29
銀はがしこすれば夏になるような
薄明にまた目は閉じていく
夜を着こなせたなら
(短歌研究社)2023
山階基
edit_Ryota Mukai

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