ハナコと考えるSDGs ミステリーハンターから、エシカル協会代表理事に。末吉里花さんに聞く「学び続けることの意味とは?」 SUSTAINABLE 2020.06.28

最近よく耳にするようになったSDGs(Sustainable Development Goals)という言葉。「持続可能な開発目標」と訳され、2030年までに“誰一人取り残さない”よりよい世界を目指して17の国際目標が掲げられています。それは政府や企業の頑張りだけでなく、私たちがもっと意識して毎日を“変えて”いくための課題でもあるのです。そこでハナコは、SDGsについて読者のみなさんと考える特集を企画しました。今回は、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさも守ろう」…、地球にとって深刻な課題となる中、私たちができることって、なんだろう?初めて知った、さまざまな地球の真実。このきっかけを無駄にはしたくない。エシカル協会代表理事・末吉里花さんに聞いた、学び続けることの意味とは?

その気づきを一歩ずつ。

20代の私は、買い物や暮らしのベクトルが全て自分に向いていました。自分が満足して生活できれば、それでいい。そんな私が、なぜ、エシカルについて考えるようになったのか。

末吉さんの人生を変えたキリマンジャロ。
末吉さんの人生を変えたキリマンジャロ。

2001年に『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとなった私は、世界各国の秘境や僻地を訪ねていました。その中で、一部の権力や利益のために、美しい自然や弱い立場の人が犠牲になっている現場をいくつも目の当たりにしたのです。中でも2004年に訪れたアフリカ・タンザニアのキリマンジャロは私のターニングポイントになった地。標高約6000mのアフリカ最高峰の山頂にある氷河が、地球温暖化の影響で完全に解けてしまうだろうと当時の専門家たちが発表したのですが、その現状を見に行こうという旅でした。

フェアトレードは地域や生産者の子供が無料で通える学校を運営するお金も生み出す。
フェアトレードは地域や生産者の子供が無料で通える学校を運営するお金も生み出す。

道中、地点で暮らす子供たちが通う小学校を訪ねたのですが、その子たちが祈りながら植林活動をしていたんです。氷河の雪解け水=彼らの生活用水になっていたので、無くなるのは死活問題。その事実を彼らは知っていて、真剣に木の苗を植えていました。「僕たちはあんなに高い山は登れないから、代わりにお姉ちゃんが登ってきて」と背中を押され、なんとか登頂したのですが、目に飛び込んだのはショッキングな光景でした。
消滅の危機に瀕した氷河を前に、私は「もっと世界で起きていることを日本の人に伝えたい。伝えるだけでなく、改善に導くような活動を、”ライスワーク”ではなく”ライフワーク”で一生かけてやっていこう」と決心したんです。

帰国後、暮らしの拠点である鎌倉で海の美化活動に参加したりと行動に移してはいたのですが、どうアクションを起こして広めていったらいいのか分からず悩んでいる時に出会った、もう一つのターニングポイント。それがフェアトレードのブランド〈ピープルツリー〉の創業者、サフィア・ミニーさんでした。

彼女はイギリスから来日した1990年代、「ファッションで世界を変える」のスローガンのもと、フェアトレードの洋服ブランドを日本で始めました。私も彼女に出会うまでフェアトレードの存在すら知らなかったし、好きなことを通じて世界を変えることができたら、どんなにいいことだろう、それなら楽しみながら長く続けられると思いました。そこからサフィアさんの元で活動のお手伝いをしながら学んでいきました。勉強していく中で、私と同じようにフェアトレードを知り、学び、実践する人を日本に増やしたい、フェアトレードの案内人を全国に作りたいと考え始めたのが2010年のことです。

そこで初めてフェアトレードに関する講座を主催してみました。すると初回にもかかわらず20〜30人ほどが参加してくださり、共感してくれる人がこんなにいることに感動したのを覚えています。そこで出会った仲間とともに2015年にエシカル協会を立ち上げ、本格的に普及活動を始めたのです。

〈パタゴニア〉創業者のイヴォン・シュイナードさんと。
〈パタゴニア〉創業者のイヴォン・シュイナードさんと。

エシカルには、正解がありません。学び続けていく=関心を持ち続けていく、ということをしながら、自分が置かれた立場の中で、周りに与える影響を考え、より良い選択をしていくことだと思っています。そのモチベーションをずっと保つためにも、同じ関心のある仲間やコミュニティと情報を共有することが大切です。自分がここまで活動ができるのも、仲間のおかげだと思っています。

昨年夏、エシカル消費が日本より25年進んでいるといわれるスウェーデンでスタディツアーを開催。フェアトレードタウン、マルメ市の市役所を訪問。
昨年夏、エシカル消費が日本より25年進んでいるといわれるスウェーデンでスタディツアーを開催。フェアトレードタウン、マルメ市の市役所を訪問。

読者のみなさんの中にも、自分で何かやってみたいけれど…と考えている人もいるかもしれません。そんな時は、気づいたことを少しずつ変えていけばいいと私は思います。私自身も、100%エシカルな暮らしはできてませんから。一歩踏み出すことで、小さな成功体験につながる経験を増やしてほしいです。

新型コロナウイルスの影響で家にいる時間が増えている今だからこそ、暮らしを見つめ直す良いタイミング。自分にとって何か新しいことを始めるだけではなく、それが地球にとって、未来にとって、ちょっとでも良いことになっているかどうか。これからの生活についての選択肢を広げるチャンスだと思っています。”一人の100歩より100人の一歩”というように、一人一人が知り続け、学び続けていくことで、世界を変える大きな一歩を踏み出せる。そう、私は信じています。

学び続けてきた末吉さんが提供する、学びの場。

末吉さんが2010年に初開催したフェアトレード・コンシェルジュ講座は現在「エシカル・コンシェルジュ講座」として継続中。ただ今年は新型コロナウイルスの影響でオンライン受講のみとなる。5月下旬から8月上旬まで全11回の講座となっており、毎回バラエティあふれる講師陣が登壇予定。
エシカルを学ぶ場であると同時に、エシカルに興味を持つ人々とつながりを持てる機会にもなっている。今後は学びの手段として、日本だけでなく海外のスタディツアーにも力を入れていくとのこと。
ethicaljapan.org

SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさも守ろう」

目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさも守ろう」…、地球にとって深刻な課題となる中、私たちができることって、なんだろう?大切なのは、全部でなくても、楽しそうだなと始められそうなことがあったらやってみること。その小さな一歩が、未来へとつながります。

(Hanako1185号掲載/photo:Natsumi Kakuto styling:YuiOtani illustration:SANDER STUDIO text:Tomoko Yanagisawa edit:NaoYoshida)

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