答えは自分の中に? 吉川めいさんに聞く ジャーナリングが私達を癒す理由 SUSTAINABLE 2024.04.03

変化が多い。正解がない。常に頭や心の中がザワザワしている。特に、環境変化が多い春はそんな感覚に陥りやすく、漠然とした不安に飲み込まれそうになることも。でも焦らなくても、大丈夫。情報過多の今の世の中、そうなるのは、ある意味自然なこと。大切なのは、どう向き合うか。ペンと紙さえあればどこにいてもすぐに始められる“書く瞑想”、ジャーナリングで自分の心の中を整理してみませんか? 近年エビデンスベースでセラピー効果も認められ、注目を集めるジャーナリングについて、ジャーナリングの指導を行うウェルネスメンターの吉川めいさんにお話を伺いました。

まずはありのまま、ド直球に書いてみて

ジャーナリングとは日々の感情や思考をシンプルに書き留める行為。“書く瞑想”とも言われるのは、書き出した心の内容物が形として残り、それを観察する視点を持って自分自身で内省と見直しができることにある。

スマホやパソコンにメモするのと違い、ペンを取る行為が脳の原始的な部分を刺激をするとエビデンスベースで明らかになってる。どんなペンと紙でも構わないので直感的に斜めに書いたり、縦や横にと制限なく自由に書いてみよう。
スマホやパソコンにメモするのと違い、ペンを取る行為が脳の原始的な部分を刺激をするとエビデンスベースで明らかになってる。どんなペンと紙でも構わないので直感的に斜めに書いたり、縦や横にと制限なく自由に書いてみよう。

吉川さん自身がジャーナリングを始めたのはヨガと出合うよりさらに前、15歳の時だ。以来、現在まで実践を重ねている。ジャーナリングを通して、自分自身を癒し、成長へと導くことができたという経験から、一人でも多くの人に知ってもらいたいと、現在はオンラインを中心に普及活動に勤めている。そんな吉川さんにジャーナリングの始め方書く際のポイントや心構えについて聞くと

「私が指導する際、必ず皆さんにお願いしているのは“ド素直”、“ド直球”に書くことです。書き終わった後に焼いても捨ててもいいから書く瞬間は恥ずかしがらないこと。書き終えた後も美化したり整えない。そうやって自分の本当の気持ちや思考に目を背けない、ごまかさない、綺麗ごとにしないで生々しく、あるものを見るんです。そうすることが一番、瞑想に近いものとなります」。

書き出すだけなので簡単、と思いきや本心を書くのは意外と難しい。実際やってみると、雑念に邪魔をされて語尾を整えようとしてみたり、思うように言葉がでてこないことも往々にしてあるだろう。そんな誰もが経験しうるジャーナリングの壁について、吉川さんは背景にある社会や学校、家庭の構造に目を向ける。

「初めての時、素直に書くことに多くの方が抵抗感を持つ姿を目にしてきました。誰もが皆、自分の本心や価値観に気づけずに、日々、モヤモヤの中でもがいているんです。その背景にはこれまで私達が生きてきた環境の影響が大きいと思います。

家庭や学校、会社といった社会の中で、私達は“ちゃんとしなさい”と言われ続けますよね。それも“あなたのためを思って”という愛の名のもとに。必ずしもそれが悪いというわけではありませんが、親や教師、先輩、上司といった、権力や年齢の差によって上下関係がある場合、相手の価値観を強いられがち

そういう経験を通して、自分の意見や気持ちが尊重されないことが積み重なると、自分が抱いているありのままの感情や思考には価値がないんだという思考回路になってしまう。それが長年続くと、自分の本当の心の声が聞こえにくくなってしまうのはある意味自然なことなのかもしれません」

笑顔で説明する吉川めいさん

知らずしらずのうちに、「こうあらねば」や「〜でなければいけない」ということが先行して、自らの感情に蓋をしたり、自分にダメ出しをしてしまう思考のクセがいまの生きづらさをつくっていたのでは。たとえ、最初は自分の本音がわからなくても、ジャーナリングを通した内省で、それに気づくことができるのもまた、大きな一歩なのだ。

「感情の整理がつかない状態ならば率直に『わからない、わからない!』と書くだけでもいい。ジャーナリングのメリットは感情をアウトプットして発散することでもあるんです。その上で自分の気持ちを認知し、受け入れ、処理する。それができるようになると、誰かに八つ当たりしたり、対人関係のトラブルに発展することが圧倒的に減りますよ。日記のように毎日書く“べき”と気負わず、始めてみてください」と吉川さん。

本心に気づいて許す、そして再スタート

吉川さんは複数のノートを目的別に同時並行でジャーナリングしている。近頃は朝、寝起きの夢ごこちのまま書き出す『モーニングページ』を実践中。思考がまだ曖昧な分、子供のような心の奥底に眠っていたものが記されていて、自分を知るきっかけになるところがお気に入り。
吉川さんは複数のノートを目的別に同時並行でジャーナリングしている。近頃は朝、寝起きの夢ごこちのまま書き出す『モーニングページ』を実践中。思考がまだ曖昧な分、子供のような心の奥底に眠っていたものが記されていて、自分を知るきっかけになるところがお気に入り。

自分の本心を可視化するジャーナリング。ではそこから、どのようにしてその感情を受け入れていくのか。

「例えば今、悲しみや怒りといった負の感情に嘆いているとして、観察者の視点で理由を探っていくと、それを “許せない理由”が必ずあります。価値観がぶつかり合った結果、信じてきた相手の価値観が違うことに気がついて傷ついた人もいれば、相手を選んだ過去の自分が間違っていたと自分自身を責め続けている人もいる。そういうことに気づけたら、“I tried my best.” 私は自分にできる最善、最高の選択をしたつもりだったけれども、思っていたのと違った …と自分を許すこと 」

自分の感情を整理整頓していくように、見直し、手放していく。そうやって自分で自分を認める事ができなければ、自分の外へ何かを探しにいっても、誰かに頼ってみても、結局自分のことをわかっていないので、価値観を相手にうまく伝えることができず、相手の価値観も尊重できない

「ジャーナリングは段階を追って丁寧に自分の心を見ていくことで、自分を癒していく。即効性があるわけではないけれど、いつも感情に揺さぶられていた人が穏やかな、余白のある感覚になるまでにはむしろ時間をかかけた方が、後戻りしない形で心の切り替えが定着します

すごく極端な話ですが最近欧米では、プラントメディスン(従来の薬草療法や民間療法の範囲を超えた、科学的な根拠に基づく治療法や健康補助法。) のような特殊なものを使い、意識状態を変えるというようなことに取り組んだり、研究する人もいるのですが、何かの力を借りたり、何かを使って急に癒しを得ようとすると、すぐに元の不安定な心の状態に戻ってしまいます。なので、ジャーナリングなどを通して、自分の心を知ることは生涯かけてでもやる価値があると私は思っています。 」

特に、新生活が始まる春は人間関係をはじめ環境が変わり、心が落ち着かず、訳もなく焦りや不安を感じやすい。しかし、そんな時こと、ジャーナリングを通して、少し立ち止まって自分の気持ちを整理したい。それはきっと、心地のよい、無理のない他者との関係性を築く助けになるはずだ。

答えは自分の中に眠っている。ストレスフリーな生き方を求めて

吉川さんのノートやペンは旅先で購入した、思い出が詰まったものばかり。左のプレーンの表紙には特に大事にしている言葉や、いつでも思い出したい言葉を記している。
吉川さんのノートやペンは旅先で購入した、思い出が詰まったものばかり。左のプレーンの表紙には特に大事にしている言葉や、いつでも思い出したい言葉を記している。

ジャーナリングは、目標ややりたいことを書き込めば自己実現のツールにもなる。吉川さんが講座を3年以上続けている間、ジャーナリングで自分の本当にやりたいことを見つけ(本心を知り)、そのことを自分で認められ(内省が整った)、人生の次のステージへ向かったという人を何人も見てきたと嬉しそうに話す。

自分の中に眠っていたクリエイティビィに気づき、ポットキャスト始めました! という人や、子育てで忙しく、キャリアとの両立に悩んでいた人が、心にゆとりができて2人目、3人目の家族が増えたなど、それぞれに広がりが生まれている

「もう何十回、何百回と講座をやっていても最高だなと感じるのは、 私は答えを差し上げてないんです。要するに、私は先生ではなく、あくまでファシリテーターの役割。自身の潜在意識から出てきた答えが、顕在意識として表れた時に、みなさん自分の本心に気づいて驚くんです。自分の本当の気持ちに気づいたら当然、無視はできないですよね。

そうなった時に、ここから自分の人生をどう変えようか、具体的に次の選択をどうしようか、という実用面につながるようにメソッドを構築し、サポートするためのコミュニティを私は整えています」

自己意識が高まれば高まるほど、自分のことを深く知れば知るほど、ストレスフリーの方向に進んでいく。そして素直でありのままの自分で、同じように本音で語り合える仲間と出会った時、心の根底で繋がれることはとてもパワフルだと、吉川さんは教えてくれた。

INFORMATION

吉川めいさんのジャーナリングメソッドを体験できる〈MAE Y〉が2024年4月からスタート!

吉川めいさんが主催するオンラインサービス〈MAE Y〉。一人ひとりが自己認識を高め、心身の健康と向き合い、自分らしく生きることをサポートするため、ジャーナリングや瞑想に関するクラス、コミュニティ、ワーク、そしてストーリーテリングなど豊かな体験を提供している。

text_Yui Shinada photo:Momoka Omote

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