スイーツライター・chicoさんのために選んだ一冊とは/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』
2021.01.13

第18回 今のあなたにピッタリなのは? スイーツライター・chicoさんのために選んだ一冊とは/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』

さまざまな業界で活躍する「働く女性」に、今のその人に寄り添う一冊を処方していくこちらの連載。今回のゲストは、Hanakoではお馴染み、スイーツライターのchico(チコ)さん。“スイーツライター” という肩書きのもと、女性誌で情報を発信し続ける彼女に、キャリアの築き方やスイーツとの向き合い方について伺いました。
木村綾子
木村綾子 / 文筆業・企画

「出たり書いたり企画したり、本にまつわるお仕事してます。「太宰治検定」も企画運営。」

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今回のゲストは、スイーツライターのchicoさん。

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女性誌のスイーツページで、執筆から企画監修までを幅広く担当し、私たちに“食”の楽しさや面白さを伝えてくれる縁の下の力持ち。担当編集曰く、「Hanakoが長い間、信頼を寄せるライターさん」で、本誌の今月号(スイーツ特集 / 1月28日売り)にも、わんさか登場予定なのだとか。

名物スイーツライターができるまで。

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木村綾子(以下、木村)「はじめまして。chicoさんのお名前はハナコやアンアンなんかでよくお見かけしていたので、今日はお話しできるのを楽しみにしていました」
chicoさん(以下、chico)「わ、ありがとうございます!普段は甘いものに関する文章を書いたり、企画の監修をしたりしています。木村さんの “スイーツ版” でしょうか?」
木村「分かりやすい!今日はその “スイーツライター” という肩書きを、どうやって確立していったのかもお聞きしたいと思っていました」
chico「もともとはモデルをやっていたんですけど、あまりにも暇でして(笑)。空いた時間でノートに食べもの絵日記を書いていたのが始まりでした」
木村「まだ、ブログもSNSもなかった時代ですね」
chico「そうです。当時は編集部にご挨拶まわりをする「顔見せ」と呼ばれる文化があって、ちょうどマガジンハウスにも行く機会があったんです。そこにその絵日記を持ち込みました。たしか、5冊目にさしかかっていた頃です(笑)」
木村「自分の宣材写真と一緒に、絵日記を売り込んだんですね。素晴らしい戦略です!」
chico「『MUTTS(マッツ)』という雑誌で、『食いしん坊絵日記』という連載を任せてもらえたのがライターとしての最初のお仕事でした。それ以降、マガジンハウスの雑誌にはずっとお世話になっています」

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木村「chicoさんは、その頃からスイーツ専門だったんですか?」
chico「いえ、スイーツは一番好きでしたが、スイーツ専門にシフトし始めたのは『TVチャンピオン』がきっかけなんですよ」
木村「懐かしい名前!…え、もしかして出られていたんですか!?」
chico「そうなんです。マッツの編集部の方に「出ない?」と誘われて。たしか、『甘味女王選手権』 的なタイトルの回です」
木村「一体、何を競ったんです!?」
chico「スイーツの知識です。ツルッツルの坂を登って、どこのケーキかを答える!みたいな」
木村「ツルツルの坂…! しっかりと体も張ってる(笑)」
chico「ほかにも、風船を自分の息で膨らませて割って中の食材が何かを答えたり、栗羊かんを早食いさせられたり…。答える権利を得るまでが難関で(笑)」
木村「古き良きテレビの時代ですよね。今のご時世、風船の中に食材なんか入れたら…」
chico「そうですよね。自分でもよく出たなって思います。一応決勝まで残ったんですけど、やっぱり羊かんの早食いが苦しくて…」
木村「モデルの肩書を背負いながら早食いやツルツルの坂を登るって、覚悟も必要だったと思うんです。てらいなく飛び込める姿勢には親しみを感じますし、好きなもののために夢中になってるchicoさんはきっとキラキラして映ってたんだと想像します。そんなふうにして自然とお仕事の幅が広がっていったんだと思うと、納得です」

エピソードその1「スイーツは嗜好品!」

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木村「スイーツについて書く上で、何かモットーみたいなものはお持ちですか?」
chico「できる限り実際に食べたものだけを紹介するっていうのは大切にしていますね」
木村「初心忘るべからず。私も、読んだものだけを、って姿勢は曲げないようにしています。ちなみに、スイーツのどんな部分にビビっときて、これは紹介したい!ってなるんですか?」
chico「おいしさも重要なんですけど、見た目が美しいものやストーリー性のあるものが好きですね。例えば味にも起承転結があって。最初はこの香りが表れてとか、別の味わいが重なってとか、印象的な後味を残すとか。そんなことまで考えるパティシエの人たちって本当にすごいと思うんです。私はスイーツを嗜好品だと捉えていて、楽しさや面白さなんかを与えてくれるものを常に追いかけています」
木村「私も、まるで宝飾品のような飴細工に出合うと涙が出てきそうになることさえあります」
chico「スイーツって、ベースは粉や砂糖なわけですよ。それがさまざまな姿カタチに変わっていくのはロマンチックで興奮しますよね」

処方した本は…『溺レる』&『いとしい』(ともに川上弘美)

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文藝春秋出版/2002年9月初版刊行、幻冬舎出版/2000年8月初版刊行
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木村「スイーツはロマンティックなものだというお話から広げると、私、そもそも食べることって、実はとっても官能的な行為だよなぁとも感じるてるんです」
chico「たしかに食ってセクシーだなと思う瞬間は私にも多々あります」
木村「小説を読んでいても、登場人物がものを食べているシーンにさしかかると、ぐっとエロティシズムの雰囲気が濃厚になるというか・・・。たとえば川上弘美さんの『溺レる』という短編集の冒頭は、〈うまい蝦蛄食いにいきましょうとメザキさんに言われて、ついていった。〉という一文から始まるんですけど、もうそれだけで男女の色恋、しかも道ならぬ恋が始まる予感がして、ものすごくグッと来てしまいます」
chico「他でもなく蝦蛄ってのが、またすごいですね」
木村「絶妙なチョイスですよね。川上弘美さんの描く男女の物語って、夢と現実のあわいを感じるものが多くて、うっとりしてしまうと同時に、怖くもあるんです。『いとしい』という恋愛小説の重要なシーンでは豆腐が登場するんですが、読んだあとしばらく、怖くて豆腐が食べられなかった(笑)」
chico「いったいどんな描写だったんですか!?」
木村「いや、男女が食卓を囲んで豆腐を食べてるだけなんです。ただ、それぞれに入り乱れた恋愛感情を抱えていて、そのうちの一人の男性が全員に対してひたすら豆腐を食べさせ続ける。〈もう結構です。〉と断っても、〈とうふ。〉と勧め続けてくる。・・・これがね、ものすごくホラーなんです」
chico「私、ホラーは好きなんですけど、豆腐を勧められるホラーは見たことないです(笑)」
木村「恋愛の鍵を握っている人が食を司っている風景が、実に鋭いなと思って。しかも豆腐っていうあんなに頼りのないものを、こんなにも恐ろしく表現するんだ!って」
chico「たしかに。お腹に入れても大してズシリとこないのに。恐るべしですね」

エピソードその2「あれも書きたい、これも書きたい」

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木村「chicoさんは、スイーツができあがるまでの舞台裏みたいなところまで大切にされている方だなと感じました。取材の時はどうやってそのエピソードを引き出しているんですか?」
chico「気になったところを深掘りして、とにかくいっぱい情報をもらうことを心がけています。レシピ的な話もそうですが、どうしてこれを作ろうと思ったのかというきっかけやストーリーなんかも」
木村「ひとつのスイーツを一篇の物語と捉えて、その成り立ちを楽しんでいるわけですね。原稿に起こすときはどうですか?」
chico「取材をした後は、あれも書きたい、これも書きたいってなるんですけど、そんなにいっぱい詰め込んでも読んでくれなくなってしまうので、ポイントを1つか2つに絞ってますね」
木村「確かにグルメ情報誌で味に一切触れず、シェフの生い立ちを紹介しても…。みたいなことはありますよね。読み手は何を知りたいのかを踏まえて情報を絞っていく。それは私が本について書くときも同じです。…でも、ときどき無性に、「書きたいことだけで埋め尽くしたい!」ってなるときありませんか?」
chico「あります! 特に何回も取材しているお店とかだと、全然書き足りなくて。でも、私が書いているのは専門誌じゃないことが多いから、「私はスイーツの楽しさを伝えるんだ!」って割り切っています。自分は「入り口」みたいな存在になればいいなって。自分の文章を機に、深くハマる人が現れてくれれば嬉しいですね」

処方した本は…『銀座ウエストのひみつ(木村衣有子)』

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幻冬舎出版/2000年8月初版刊行
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木村「これは、東京みやげの定番・リーフパイで知られる〈銀座ウエスト〉のすべてに迫った一冊です。二代目社長・依田龍一さんをはじめ、工場長や店長、ウェイトレス、デザイナーに至るまで、各地何度も足を運び、丁寧に取材した内容が、文筆家の木村衣有子さんの視点からまとめられています。装丁もキリッとしていて、持っているだけでも幸せな気持ちになれるんですよね」
chico「ウエストだけで一冊はすごい!私も本当はこれぐらい書きたいです」
木村「そうおっしゃると思いました!」
chico「あのリーフパイがすべて手作りだってこと、椅子のヘッドカバーは毎週木曜日に交換すること、以前は無料サービスだった日本茶が有料メニューになった理由・・・。ここでしか知れないヒミツばかりですね!」
木村「そうなんです。二代目社長・依田さんのTwitterのつぶやきも載ってるんですが、ちょっとこのつぶやき、聞いてください。〈初対面なのに、気取らず、飾らず、優しくて、この人となら素のままの自分をさらけ出して長くお付き合いできそうだと感じることの出来るお人柄ってありませんか。そういうお菓子を目指したいといつも思っています。〉」
chico「まさにウエストがウエストたる所以が詰まった言葉です」
木村「人から話を引き出す仕事をしている私たちにも刺さりますよね。自分の生きる姿勢に立ち返るきっかけを、お菓子がくれる。これまた幸せなことですよね」

エピソードその3「誰よりも早く見つけたい!」

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木村「無粋な質問なんですけど、chicoさんが紹介したことで人気になったスイーツってあるんですか?」
chico「う~ん、ちょっとおこがましく思われちゃうかもしれないですけど、パンケーキに関してはいち早く気づけたかなとは思っています」
木村「すごい!あの一世を風靡したパンケーキを(笑)」
chico「ハワイ系のあれがまた来たな。また3軒くらい増えたなって」
木村「トレンドをキャッチして記事にされたんですね。えー、ほかにも知りたいです(笑)」
chico「あとは、“ネオ和菓子”。これは和菓子屋さんの人たちも実際に使ってる言葉なんですけど、自分の造語です」
木村「ネオ和菓子…? あ、先日マツコ・デラックスさんのテレビ番組で桜新町のおはぎ屋さんが紹介されていたんですが、あのお店みたいなことですか?」
chico「そうです、そうです。〈タケノとおはぎ〉!あそこもたしか、一番初めに取材させていただいたはず。宝物を見つけるみたいな感覚で、誰よりも早く見つけたい!って思いはずっとありますね」

処方した本は…『やさしいレシピのおすそわけ ♯おうちでsio(鳥羽周作)』

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小学館出版/2020年9月初版刊行
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木村「代々木上原の フレンチ〈sio(シオ)〉 はご存知ですか? オーナーシェフ・鳥羽周作さんは、緊急事態宣言発令で外食もままならなくなった当初、「自宅でもsioの味を楽しんでほしい」と、お店の看板メニューのレシピをTwitterで公開されたんですが、この本には、そのレシピの詳細の他、「おいしいとは何か」「お店をどのように作ってきたか」などのインタビューやコラムも載っていて、鳥羽さんの料理愛に触れられます」
chico「すごい気になります!鳥羽さん、おいしいものを作る顔をされていますね」
木村「そうなんですよ。鳥羽さんのモットーは「幸せの分母を増やすこと」。目の前の人を喜ばせることがすべてのはじまりだと考えていらっしゃって。実は先日、sioのキッチンをオンラインで繋いで調理&トークのイベントをやったんですが、その生きざまに直に触れて納得でした。それにお人柄も最高に最強で! 終演後、試作段階のカレーやチーズケーキを出してくれたんですけど、急に、「これでマジ一発ぶっ放す!」とか叫びだして(笑)」
chico「え、ギャップがすごい(笑)」
木村「荒々しい言葉を使いながら、出してくれる料理はめちゃくちゃ繊細なんですよ。そんなギャップがものすごく面白くて、チャーミングで、もう好きになっちゃいましたよね(笑)。この本の冒頭2ページには、レストランに対する思いや、今回のレシピ公開に至った経緯も綴られています。ただ、彼の魅力を知ってしまった私にとっては、これだけの情報量では物足りなくて(笑)。いつかchicoさんに鳥羽さんの言葉を引き出してもらいたいなって」
chico「いいですね。いつかお会いしてみたいです。けど、ぶっ放されるのは怖いな(笑)」
木村「「ぶっ放す!」「やってやる!」とか言っちゃう人が、なぜこんな繊細な味や温かい場所を生み出せるのか。chicoさんに、彼の思想みたいなところにフォーカスして文章を書いてもらいたいです」

対談を終えて。

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対談後、『やさしいレシピのおすそわけ ♯おうちでsio』を購入してくれたchicoさん。「いつか鳥羽さんと彼のお店を取材してみたいです」と話してくれました。個人的におすすめの、chicoさんのtwitterアカウントはこちらから。そこらのWEB記事より、いち早く、流行りのスイーツ情報が得られるかもしれませんよ~!

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