あなたにとって働きやすい会社とは? #1 企画会社キリンジ・伊澤恵美子さん WORK&MONEY 2023.08.17

福利厚生や待遇が良いにこしたことはないけど、「決定権や裁量権を若手にまかせてもらえる」「人生のステージの変化によるパフォーマンスの波を受け入れてくれる」など、人によって「働きやすさ」は多種多様です。この連載では毎回、一人の女性の職場を訪問。人と会社のいい関係について考えます。第一回目はHanako stand(https://hanako-stand.jp/)の運営をしている企画会社キリンジに勤めながら、映画俳優、ラジオのパーソナリティーも努める伊澤恵美子さんです。

伊澤さんの会社、キリンジは渋谷駅から代々木公園へと向かう、ゆるやかな坂の途中、周囲を緑に囲まれた場所、JINNAN HOUSE(ジンナン ハウス)の2Fにある。1Fには庭があり、日本茶食堂のSAKUU 茶空とギャラリーが併設されている。

「9歳の頃から舞台をやっていて、本格的に役者になりたくて18歳のときに上京しました。事務所に所属してオーディションや仕事の毎日で。自分のスケジュールすら自由に決められない、それが当たり前という時代でした。30歳を目前に、たまたまゴールデンウィークに実家に帰省していたら映画祭のめちゃくちゃおしゃれなチラシが配られていて……それを制作していた会社が<企画会社キリンジ>で、その場で社長の鈴木(智彦)とも知り合い、是非ともお手伝いしたい!と、ボランティアスタッフから始めました」(伊澤さん)

キリンジでは映画祭の仕事をしつつ、企業プロモーションのイベントのMCの仕事などもこなしてきたことが、子供の頃から続けていた俳優業にもよい影響を与えることに。

「イベントって勢いよくやって、盛り上がって終わる”お祭り”的な要素があって、演劇と通ずるところがあるな、と。別に俳優業のためにキリンジに入ったわけではないのですが、結果的につながるものだなと思いました。あ、あと、CMのオーディションでOLの役を即興で求められのですが、これは有利でした。俳優って会社勤めをしたことがない人も多いので、あれ、私、できてる、って(笑)」

働きやすい環境は自ら整えていくものなのかも

伊澤恵美子 俳優/プロデューサー
静岡県出身。9歳で初舞台に立ち、映画やCMに出演。ラジオやコラム連載も手掛ける。
俳優の傍ら、KIRINZI Inc.でプロデューサーとして経験を積み、企業SNSの戦略設計や運用なども担当するコミュニケーションディレクターとしても活動中。
伊澤恵美子 俳優/プロデューサー
静岡県出身。9歳で初舞台に立ち、映画やCMに出演。ラジオやコラム連載も手掛ける。
俳優の傍ら、KIRINZI Inc.でプロデューサーとして経験を積み、企業SNSの戦略設計や運用なども担当するコミュニケーションディレクターとしても活動中。

ここ最近は7月28日、渋谷にオープンしたHanako Stand渋谷店の準備やレギュラーのラジオ収録と多忙な日々を送っている。

「2022年夏にオープンした等々力の1号店の立ち上げは、物販はキリンジとしても初の試みで実際に運営となると大変で(笑)。いいところでもあるんですけど、まあなんでもやる変な会社だなと。ただ、個人でやっているラジオ番組の収録となると6時間は他の仕事の連絡を取れなかったり、俳優の仕事が入ると2、3ヶ月は拘束されたりもします。そういうときに在宅勤務でOKだったことは、会社と社長の理解があってのことでした。コロナ後の今では在宅は特別なことじゃなくなりましたが。でも時間の制限なく誰もが働きやすくなったが故に、逆に社会全体で個々の仕事量って増えてません!? これは社会のみんなで解決すべき課題だと思っています」

企画会社と俳優。理解のある環境とはいえ、やはりどちらも本気で取り組むには時間が足りないのが正直なところかもしれない。

「どっちもどんどん面白くなってきた、スケジューリングが大変なんです。ある意味どっちかがサブ的な存在だったときの方が楽でしたね(笑)。次のフェーズで考えていることは、チームで動いている業務を、他のメンバーに振ったり、まかせるときはまかせる、頼るときは頼ること。働きやすい環境は会社から一方的に与えられるものではなく自分からも動いて一緒に作り上げていくものかもしれません」

いつかは映画プロデューサーを。

どちらかが副業、そういう意識を持たなくなったきっかけのひとつが2014年、タイで現地の俳優とダブル主演の映画に出たときのこと。

「その当時、日本では役者が監督をやるなんて生意気、俳優は俳優に集中すべきだ、という
空気感があったんですけど、タイの俳優さんたちって実に軽やかに、資金を集めて店をやったり、日本が好きだからってチェンマイに旅館を作ったりしていて、それを見て解放されたというか、価値観が変わりましたね。やってみたいことをやればいいんだと。もちろんあれから10年近くたって日本も変わってきたと思いますが」

今では土日などの休みを使って自分で短編映画をプロデュースすることも。

「キリンジで働き出したもう1つの理由は、いつか映画のプロデューサーをやりたいなと思ったんです。ハリウッドでもエマ・ワトソンのように俳優からプロデューサーになる人が増えている気がします。彼女は自分が製作のプロセスに関わっていないのに、俳優が作品の顔として振る舞うことを難しいと感じているそうです。私も、女性の解放やジェンダーの平等へ向けた考えを持っているのに、映画だと”男性に従属する、可愛いらしい女”の役が来てしまう。そうした環境を変えるべく、私がプロデューサーという制作の立場から入って、自分の思う女性像を描いた作品を作りたい」

伊澤さん自身も働きながら学び、すでにそのステップに近づいている。

「漫画家の山田さんと『山田玲司とバグラビッツ』というラジオをレギュラーで作っています。女性の性についてのトークは今までは失敗談や自虐が多かったと思うんですが、私は”明るく、楽しく話す”というトーンにしたいと思っていろいろトライしています。リスナーの反応がとても嬉しくて。私はHanako standのSNSも担当していて、インスタライブにも出演しているんですが、私はユーザーとダイレクトにつながる、”コミュニケーション”が好きだし、もっともっと深めていきたいと思っています」

キリンジ 会社

連載第二回 TRIGGER(トリガー)鍼灸・整体院の玉井和代さんの記事はこちら

text:Yui Shinada photo:Eri Morikawa

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