神々に守られた島、隠岐4島ツアーその2 【西ノ島町 (西ノ島) 】西ノ島におわす海上安全の神に海運を祈る。 TRAVEL 2022.10.06

島根半島を離れること約50km、見渡す限りの海原にこつ然と緑の島影が姿を現す。日本海に浮かぶ隠岐(おき)には、大地の成り立ちを伝える絶景と、離島ならではの独自の生態系、古くから受け継がれる固有の文化が損なわれることなく息づいている。「開発」の2文字から縁遠いところにあり続けるこの場所が、今やどれほど貴重なことか。2013年、世界ジオパークに認定されたことを機に国際的な評価が高まり、旅の上級者の間で注目の的になりつつある。

大陸から吹き抜ける寒風と日本海の荒波から島前カルデラの内海を守るように両手を広げた形の西ノ島。そのほぼ中心に位置する焼火山(たくひさん)には、江戸時代に日本各地の船乗りから厚く信仰された海上安全の神が鎮座する。一方で内海の奥深く、静かな入江には芋桶に乗って海から現れた女神が鎮まる古社がある。海とともに生き、風待ちの船を受け入れてきた島で大切にされ続けてきた場を訪ねる。

広重や北斎も描いた、霊験あらたかな焼火権現。

焼火山の中腹から急坂の山道を登って、ようやく辿り着いたのは、立派な唐破風(からはふ)を持つ御社殿。その堂々たる佇まいは、重機もない時代、こんな山の上によくぞ建てた!と感心するほど。それもそのはず、焼火神社は江戸の昔、流行りに流行った航路安全の神様。荒天を避けた北前船の船乗りによって広められ、遠く東北の太平洋側でも信仰されるほどだったのだとか。この先の人生航路の安全を願い、心してお詣りすべし。

1732年に改築された社殿は、隠岐で最も古い木造建築。右手が拝殿、窟(いわや)に半ば入り込んだ左手の建物が本殿。
1732年に改築された社殿は、隠岐で最も古い木造建築。右手が拝殿、窟(いわや)に半ば入り込んだ左手の建物が本殿。

〈焼火神社〉
島根県隠岐郡西ノ島町焼火山
08514-7-8888(西ノ島町観光協会)
拝観料無料

女神への詫び入れにイカが寄せる浜の不思議。

隠岐国の名神大社のひとつ。御祭神の由良比女命(ゆらひめのみこと)が芋桶に乗って、出雲大社から海を漕いできたとき、海に浸した手にイカが噛みついて女神の怒りを買ったとされる。その詫びを入れるため、秋になると神社の前に広がる浜へ向かってイカの大群が押し寄せたのだとか。ここで驚くのは、これが単なる言い伝えではなく、昭和20年代まで当たり前の風景だったこと。神様と日常が地続きな島の暮らしを実感できる。

石灯籠に彫られた波に遊ぶイカ。拝殿の装飾にもイカの姿が見られる。
石灯籠に彫られた波に遊ぶイカ。拝殿の装飾にもイカの姿が見られる。
お隣の知夫里島の赤ハゲ山から、西ノ島の焼火山を中心に広がる島前カルデラをのぞむ
お隣の知夫里島の赤ハゲ山から、西ノ島の焼火山を中心に広がる島前カルデラをのぞむ

〈由良比女神社〉
島根県隠岐郡西ノ島町浦郷922
08514-7-8888(西ノ島町観光協会)
拝観料無料

大絶壁の上に広がる牧草地から海を見渡す。

島前カルデラの外輪山の外側、激しい風雨や波にさらされた海岸線には、断崖絶壁が延々と続く。中でも海抜257m、ナイフで切り取ったように垂直な摩天崖(まてんがい)は群を抜いて見事。崖上で悠々と草を食む馬や牛を見ながら、海を見渡す散歩は、隠岐島ならではの体験だ。

〈魔天崖〉
島根県隠岐郡西ノ島町浦郷
08514-7-8888(西ノ島観光協会)

photo:Mihoko Sakamoto text:Mutsumi Hidaka

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