7畳に自分の好きが詰まっている。豊かな暮らしが実現できる“タイニーハウス”って? SUSTAINABLE 2023.11.01

これからの新しい住まい方として注目を集めている“タイニーハウス”。おおよそ延べ床面積が20平米以下でセルフビルドや移動ができる“Tiny(小さな)House(家)”は1990年後半にアメリカで生まれて、日本でも徐々に広がりつつあります。実際はどんな暮らしなのか。自身でタイニーハウス「もぐら号」をつくり、宿泊型タイニーハウス「カワウソ号」を運営している相馬由季さんに話を聞きました。

小さいからこそ必要なもの、手放すものの循環が自然と生まれる

相馬由季さんが作ったタイニーハウス『もぐら号』(©︎Yuki Soma)
相馬由季さんが作ったタイニーハウス『もぐら号』(©︎Yuki Soma)

神奈川県の三浦半島にたたずむ、約12平米、つまり7畳ほどの広さのタイニーハウス。数字だけ聞くと「とても狭そう」と感じますが、実際にお邪魔すると、窮屈な印象はなく、快適な空間が広がっていました。

「寝室として使っているロフトは4.5平米ぐらいの広さがあります。キッチン、バス、トイレもついています。月々の水道光熱費は全部で1万円ほどと経済的ですし、自分で細部までこだわりぬいた家なので、ずっと家にいたくなる。家で過ごす時間がとにかく幸せです」と相馬さん。

もぐら号のキッチン。シンク、調理スペース、3口コンロがついています。
もぐら号のキッチン。シンク、調理スペース、3口コンロがついています。

「よくストイックなミニマリストと思われるんですけど、そこまでストイックではないです。ただ、家の中に入れられるものが限られてるからこそ、自分が本当に好きなものや必要なものを選ぶことができる。新しく必要だな、欲しいなと思ったら、今あるものを手放す。そういう循環ができていることも気に入っています」

このタイニーハウスは在来線の駅から徒歩3分ほどの場所にあります。相馬さんは、その土地の選定にもこだわったそう。

「私は基本的にリモートで仕事をするのですが、週2回ほど横浜に出勤しなくてはいけないんです。また、夫はツアーの添乗員をしているので、月1、2回、羽田空港や成田空港に行く必要が。

空港にアクセスがよくて、在来線の駅からも徒歩10分程度で、300平米以上の土地がいいなと。なかなか条件に合う場所はなかったのですが、もともと資材置き場だったこの場所を見つけて、購入を決めました。都会で暮らしていた時は、あまり季節を感じながら生活をしてこなかったのですが、ここに住み始めて、鳥や森の変化に敏感になって。自然とともに生きている実感があります」

“買う”でも“借りる”でもなく、家を作って移動しながら暮らすという新しい選択

相馬由季さんが作ったタイニーハウス『もぐら号』の内部(©︎Yuki Soma)
相馬由季さんが作ったタイニーハウス『もぐら号』の内部(©︎Yuki Soma)

相馬さんは社会人になってから、埼玉県内のワンルームや横浜市内のシェアハウスで生活したりしていましたが、2年かけて自分のタイニーハウス『もぐら号』をつくり、2020年からタイニーハウスに住み始めました。そもそもなぜ相馬さんはタイニーハウスに興味を持つようになったのか。きっかけは、2013年頃にたまたまネットで見つけた記事だったといいます。

「海外のタイニーハウス事情について書かれている記事でした。自分で家を作って、実際に移動しながら暮らす。そんなライフスタイルが紹介されていました。それまで家って、住宅ローンを組んで買うか、賃貸を払い続けるかしかないと思っていたので、『家を作って移動しながら暮らす』という選択肢を知った時に、固定概念が180度覆された気がして。それで興味を持つようになりました」

タイニーハウスとの出合いについて話す相馬由季さん
タイニーハウスとの出合いについて話す相馬由季さん

当時の日本では“タイニーハウス”という言葉自体が知られておらず、情報もほとんどなかったそう。そこで相馬さんはリサーチを進め、タイニーハウス型の宿泊施設があるアメリカのポートランドに旅立ちます。

「記事で見るだけだと、やはり小さいのかな、本当に暮らせるのかなと思っていたのですが、1泊してみると、すごくワクワクしたし、全然いけると思って。いきなりタイニーハウスをつくることから始めるのではなく、まずは体験してみることで、よりイメージが膨らみました

ポートランドへの旅を経て、相馬さんの“夢”が段々とクリアになっていきます。その後も機会を見つけては世界に飛び出し、タイニーハウスをセルフビルドして暮らしている人たちが集まるフェスティバルに参加して、タイニーハウスの“先輩”たちからいろいろな情報を教えてもらったり、トイレの構造など具体的ないろはを2日間で学ぶカンファレンスに参加したり。

海外で相馬さんが見たタイニーハウス(©︎Yuki Soma)
海外で相馬さんが見たタイニーハウス(©︎Yuki Soma)

海外で学んだノウハウを生かして、日本でタイニーハウスの制作を決意した相馬さんですが、その道のりはなかなか険しいものでした。

「都内の材木屋さんの一角を借りて、横浜のシェアハウスから通う生活。最初は会社に勤めながら制作にあたっていたのですが、1年ぐらいして、このままでは終わらないなと思って、1年弱ぐらい会社を休んで『もぐら号』の制作に集中しました。集中すればするほど、本当にタイニーハウスはできるのか?自分はどういう暮らしをしたいんだ?とぐるぐる考えることも増えて。孤独な戦いでした。正直、体力的にも精神的にもつらいことが多かったです」

タイニーハウスをつくる相馬さん(©︎Yuki Soma)
タイニーハウスをつくる相馬さん(©︎Yuki Soma)

ただ、土台となるシャーシ(車台)が100万円以上するため「もう後戻りはできないと思った」という相馬さん。最初に基本的な図面は描いていたものの、実際に作りながら窓の位置や高さ、コンロの位置や作業台の広さ、ロフトの高さや奥行きなど、微調整に微調整を重ね、隅々までこだわりを詰め込んだ『もぐら号』が完成しました。

ちなみに『もぐら号』を制作している時に、夫の哲平さんとの生活は考えていたのかどうか聞くと。

「タイニーハウスをつくろうと決めたぐらいのタイミングで夫と付き合い始めました。もともとは一人で住む想定でしたけど、制作している途中で結婚することが決まって。二人で住んだ時、相手の性格や好きなものを考えながら、快適に暮らすためのチューニングをしていった感じですね。断熱材を切ったり、塗装をしたり、トータルでたった3、4日ぐらいだけですけど、手伝ってくれて。一緒に生活を想像できたのでよかったです」

固定概念を外す機会に。『カワウソ号』に込めた思い

『カワウソ号』の内部 (©︎Yuki Soma)
『カワウソ号』の内部 (©︎Yuki Soma)

相馬さんは今年になって『もぐら号』の隣に、宿泊できるタイニーハウス『カワウソ号』をオープンさせました。その理由を相馬さんはこう語ります。

「タイニーハウスでの暮らしぶりを発信していると、興味を持ってくださる方がいらっしゃる。いきなり実際に住むという選択をとらなかったとしても、改めて暮らし方や生き方に向き合う機会になればいいなと思っています」

最後にこれからの夢や目標について聞きました。

「世の中に無意識の固定概念ってまだまだたくさんあると思うんですよね。それこそ私もタイニーハウスに出会う前まで、住宅ローンを組んで買うか、賃貸を払い続けるかしかないと思っていたように。私自身、そういう無意識の固定概念を1つ1つ外していきたいなと思っているんです。

例えば、タイニーハウスでの暮らし方もあるし、ギグワークのような働き方もある。選択肢がそれぞれの分野で増えていって、『自分はこういう風に生きていこう』とみんなが選べるようになったらもっと素敵な社会になる。そのために自分ができることを見つけて、挑戦していきたいと思っています」

INFORMATION

相馬由季さんのInstagram

『カワウソ号』の宿泊はこちら

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