食の循環への第一歩。〈NIKKO〉の純白洋食器から誕生した肥料「BONEARTH® (ボナース) 」。 SUSTAINABLE 2023.10.04

純白の「ファインボーンチャイナ」が代名詞とも言える、洋食器メーカー〈NIKKO〉。創業は明治に遡る老舗食器メーカーが今、探求しているのが“食をとりまく循環”の創出だ。捨てられる食器をリサイクルした肥料「 BONEARTH®」誕生の軌跡から、そこにかける想いを聞いた。

循環する世の中を目指す洋食器メーカー〈NIKKO〉の取り組みを追って

〈トランジットジェネラルオフィス〉がプロデュースし、商品セレクターに「Roundabout、OUTBOUND」の小林和人氏を迎えた「LOST AND FOUND TOKYO STORE」。
〈トランジットジェネラルオフィス〉がプロデュースし、商品セレクターに「Roundabout、OUTBOUND」の小林和人氏を迎えた「LOST AND FOUND TOKYO STORE」。

一貫して石川県の自社工場で商品を生産し、世界中のホテルやレストランで高い評価を受けている洋食器メーカー〈NIKKO〉。そんなプロユースクオリティの洋食器メーカーが、“食器が廃棄されることなく循環する世の中”を目指し、挑戦を続けていることを聞き、〈NIKKO〉が運営する東京都渋谷区富ヶ谷の複合型店舗に足を運んだ。

富ヶ谷は、感度が高い人や飲食店などが集まる地域。そんな場所柄に自然と溶け込むのは、ショールームを併設したジェネラルストア〈LOST AND FOUND TOKYO STORE〉。「忘れられてしまった大切なものが見つかる場所」をコンセプトに長く愛用できる日用品の数々を取り扱っている。暮らしを豊かにする商品の提供と両輪で進める、持続可能な循環型経済の取り組みとは?

アートディレクターの平林奈緒美氏によるロゴデザイン
アートディレクターの平林奈緒美氏によるロゴデザイン

純白の肥料「BONEARTH®(ボナース)」誕生の背景

〈NIKKO〉が追求してきたのが器の純白度だ。この白さが何よりの魅力であり、世界に誇る高品質の証

「磁器の種類のひとつで“骨灰磁器”とも称されるボーンチャイナは元々イギリスで誕生し、当時は不純物が入ることでややクリームっぽい色でした。それが世界中に伝わり、弊社でも作ることになった時、差別化するために原料である牛骨から成る骨灰の配合率を高めるなど、当社独自の透光性が高い純白にしたんです。業務用として使えるように設計にもこだわったので、簡単に割れたり欠けたりということが少ない強度と使い勝手のよさでご好評いただいています。」

こう話すのは、専務取締役の三谷直輝さん。そして、三谷さんが企画に始まり、プロジェクトを遂行させ誕生したのが世界初の捨てられる食器から生まれた肥料「BONEARTH®(ボナース)」だ。〈NIKKO〉の食器は工業製品の部類に入り、規格が厳密なため、どうしても生産過程で一定数の規格外品が生じ、廃棄せざる終えない状況があった。

ニッコー株式会社・専務取締役 三谷直輝さん
ニッコー株式会社・専務取締役 三谷直輝さん

「同じ形の、ある範囲の中で収まってないと弾かれてしまうんです。弊社の製品はスタッキングした(重ねた)時にちゃんと綺麗になっていることや、昔作ったものと今作ったものが同じ形でないとリピート注文があった時にクレームになってしまいます。

つまり、そういった規格の中に納めなければいけないんですが骨灰や粘土、石といった天然原料で生きている素材なので、どうしても一定数は規格に収まらないものがある」

作ると同時に捨てる、が繰り返されるだけでは陶磁器事業は環境負荷になる。加えて、需要が年々少なくなり生産量も減っていた。他の事業で利益を出せていたため会社は継続はできていたが、 洋食器は大規模な工場で非効率に作っていたため長年不採算が続いていた。

「そんな状況だったので、当然、陶磁器事業をどうするのか議論になりました。我々はなぜ、続ける必要があるのか、このまま続けていても、ただ環境破壊を続けるだけ。まずはそこから見直したい。陶磁器自体の製造を従来の大量生産・大量消費・大量廃棄という一方通行型リニアエコノミーから、資源を循環させて利益を生むサーキュラーエコノミー型にシフトしていきたいというの思いが強くなっていました」

ニッコー株式会社・専務取締役-三谷-直輝さん

何か見出だせないかと考えていた時、「BONEARTH®」誕生の布石となる出来事が。

「経営会議で研究開発のトップの役員が『肥料になると思うんですよね」と言ったんです。食器と食は関連性が高いのはもちろん、弊社の誇りでもある純白の洋食器に含まれる牛の骨の灰は、昔から畑にまいて肥料にしていました。食器が肥料になることで、食をとりまく循環作りが可能になるのではないかと、研究開発に舵を切りました。」

肥料化までのジレンマ

ボーンチャイナの原料となる骨灰。高温焼成で作られるため臭いもなく安全・清潔である。
ボーンチャイナの原料となる骨灰。高温焼成で作られるため臭いもなく安全・清潔である。

植物が育つのに必須な水・光・空気のほか、より良く育成するためにはミネラルが欠かせない。その三大要素としてリン酸、カリウム、窒素がある。

「本当に肥料効果があるかどうかを社内で実験をした後、石川県立大学との共同研究で〈NIKKO〉のボーンチャイナを粉砕し、骨灰に含まれるリン酸三カルシウムが含まれた土で小松菜を育てました。入っていない土は育成が悪いのに対して、リン酸を入れた方はちゃんと育ち、市販の液肥とも遜色ない性能があることが証明されました」。

ただそこからの道のりは長かった。

「実験結果は早い段階で出たものの、肥料登録までとても時間がかかりました。というのも我々の業界は“窯業”というんですが、窯業の副産物を肥料にしたケースはこれまでなかったんです。我々が農林水産省に話しに行った時は法律にも記載がなく、前例もないので無理ですと言われました。

そんな先が見えない状況から始まったのですが、幸運なことに、偶然、40年ぶりの肥料法の改正があるタイミングで窯業の副産物も入ることが決まり、第1号として「BONEARTH®」を採用してもらうことができたんです。そこまでに3年以上時間を費やしました。」

テーブルの上で循環を体感

肥料登録は出来た。ただ次の問題として浮上したのが実際に使ってもらうまでのハードルの高さ。農家にとって土は生命線。何か得体の知れないものを入れたくないという抵抗はあるのは自然なこと。

「それは当然理解できることなので、丁寧に循環型の社会を目指したいという想いや『BONEARTH®』は自然由来の原料で安心なことを説明して、一区画だけトライして問題ないと証明する、ということを繰り返し行いました。」

市販の液肥に比べたら価格もまだまだ高い。まずは大規模生産をしている農家ではなく、コンセプトに共感してくれ、こだわりのある野菜を生産している農家に働きかけ、「BONEARTH®」で育成された野菜や、その農家を卸先とマッチングするという取り組みも同時に進めている。

「ホテルやレストランは、いい食材を常に求め、顔が見える農家や契約農家を増やしている時代。ただ、それらの卸先側は数ある農家さんからどこを選んだらいいのか頭を悩ませていた。そこで、せっかく美味しい野菜を作っているのに、営業する時間を確保できていない地元の農家さんにとっても、美味しい食材を求めている卸先にとっても双方がプラスになるように、お互いをマッチングして紹介することにしたんです。」

自社で運営している〈LOST AND FOUND TOKYO STORE〉やショールームでも「BONEARTH®」野菜を使った調理イベントや様々な企画を通し、食の循環を体験できる場を提供している。

ショールームに展示されている植物用の陶磁器に敷き詰められた「BONEARTH」は見た目も美しく化粧砂としても使える。
ショールームに展示されている植物用の陶磁器に敷き詰められた「BONEARTH」は見た目も美しく化粧砂としても使える。

『BONEARTH®』で出来た食材を加工して『BONEARTH®』フードを作る、そういった展開も面白いなって考えています。現時点では産廃業者でないため法律で難しい取引先の不要になった食器や、店舗での回収も実現できたらいいですよね。」

そうなれば私たちも罪悪感なく好みの皿で食卓を楽しめると、実現される未来を願った。

INFORMATION

今回訪れたのは…〈LOST AND FOUND TOKYO STORE〉
住所:〒151-0063 東京都渋谷区富ケ谷1丁目15-12
HPhttps://lost-found-store.jp
問い合わせ先:NIKKO
https://www.nikko-company.co.jp/

text_Yui Shinada photo_Miyu Yasuda

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